チャンギ空港のジュエル(JEWEL Changi Airport)

「チャンギ空港のジュエル」のご紹介

 

日本には高速道路が貫通している高層建築物がありますが、東南アジアの国に建物の中にある高架の上を列車が走っている空港のターミナルビルがあります。前者は建物と道路が同時進行で建設されましたが、後者はすでにスカイトレインが走る高架があり、それを囲い込むように建てられました。建設地の気候と歴史、建設時の状態など様々な条件を解決した結果は、訪れる人を魅了し、驚嘆させる建物でした。「チャンギ空港のジュエル」は、正に宝石のような輝きを持っている建築物です。

「チャンギ空港のジュエル」の設計者

 

「チャンギ空港のジュエル」を手掛けたのは、当時イギリスが委任統治していたパレスチナ北部の街で1938年に生まれたモシェ サフディです。子供時代は生まれた街や近隣の田舎で育ちましたが、15歳の頃にイスラエルの経済状況が悪化したことから、家族でカナダのモントリオールに移住しました。カナダで中等教育を受け、その後モントリオールにある大学に進み、建築を学びました。彼の才能は学生の時から花開いていて、卒業のための論文ですでに建築界に認められる作品を構想していました。モントリオールで1967年に開かれた万国博覧会に於いて彼の論文は実物のものとなり、完成した建物は博覧会のメイン会場の一つとなりました。彼はその時のことを、「若く経験もない自分でもこの企画が成功したことは、おとぎ話のようなものだ」と語っています。「ハビタット」を建設するために彼が事務所を開設したのが1964年です。博覧会での成功を糧に、1970年には故郷のエルサレムにも事務所を開設し、現在はアジアにも進出して活動の場を広げています。彼の建築に対する発想は人並ではない物があります。それは、建設地の歴史や伝統だけでなく、社会運動なども連動している建築物を作り上げていることです。彼や両親の出自や20世紀に起きた悲惨な出来事から考えられる様々な事柄も建築理念に盛り込まれています。

「チャンギ空港のジュエル」の所在地

 

チャンギ空港はシンガポール共和国の主要空港であり、アジアでも最大規模の空港でもあり、世界でもトップクラスの乗降客を誇る空港です。シンガポールは、マレー半島の南に位置する本島とその周辺の70近い島々で構成される島国です。チャンギ空港は本島の東端にあります。以前はチャンギ空港の西にあったパヤレバー空港が主要空港でしたが、利用者の増加によって手狭になった事と、近隣に住宅が多く建設され安全面の危惧の為に1981年にチャンギに移設されました。パヤレバー空港は現在、空軍の基地として使用されています。チャンギ地区はポルトガル人が記した17世紀の地図に「鹿の岬」と言う意味の名称で記載されていますが、チャンギと言う地名の由来には諸説あります。いくつかの説には、古くからこの地域に生息していた樹木などの植物の名前が関係していると言われています。空港の建設が始まるまでこの地域には沼地と森林が広がっていて、点々と小さな集落があったようです。空港の建設にあたっては、様々な地理的な問題がありました。元々湿地帯であったことから、埋め立てを行っても地盤が軟弱で、多くの航空機が安定して利用できるように地盤の強化と排水を促すための調整池の建設が行われました。空港の南北に一カ所づつ貯水池が設けられています。空港が建設されたことで、この地域は国の商業や文化の中心の1つとなっています。

 

「チャンギ空港のジュエル」の特徴

 

「チャンギ空港のジュエル」の一番の特徴は、何と言っても天井から流れ落ちる壮大な滝です。2019年に完成した「ジュエル」の屋内には公共の大型建築物とは言っても、他に類を見ないものがいくつかあります。まず、列車が屋内の中空を走っていることです。広大な空港内を移動するために高架の上を走る列車が元々走っていて、後から「ジュエル」が建設されました。次に、この建物は植物園ではありませんが、数多くの植物が屋内で育っています。しかも、まるで丘の斜面のようになっている所もあり、天井が無ければ屋外の森と勘違いしそうな風景が広がっています。そして最も見ごたえのあるのが屋根です。楕円で縁の方が湾曲していて、ほぼ中央に直径11mの穴が開いています。屋根の頭頂部から漏斗のような穴が開いていて、地下2階部分までのおよそ40m下まで流れ落ちる人工の滝が作られています。滝を流れ落ちる水は雨水です。この地域は熱帯雨林の気候で、1年を通して多くの雨が降っています。とても美しいガラスの屋根ですが、非常に複雑な構造をしています。14,000本の鋼鉄とそれを繋ぎ合わせる5,000個所のつなぎ目を骨組みとして、9,000枚の三角形のガラスが使われています。強化ガラスの板はすべて形に違いがあります。また、空港内にあることから、航空機や管制塔の業務を妨害しないように太陽光が不要に反射しないように角度も綿密に計算されています。最長で200mの長さのあるこの屋根には柱がありません。現代の最新技術の域を広げた建物と賞賛されています。

「チャンギ空港のジュエル」のまとめ

 

「チャンギ空港のジュエル」の最初の案は球体を少し潰した円形のデザインでした。しかし、建設予定地には、空港内を縦横に走るスカイトレインが30年以上前からすでに運行していました。設計者のデザインは円の中央に滝を作るようになっていましたが、その場所には高架があったことから、デザインの変更を余儀なくされました。ところが変更された案は設計者でも魅力的になったと自賛する建物となりました。「チャンギ空港のジュエル」はその名の通り、国の玄関でもある地に建つ宝石と言えるのではないでしょうか。

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