現代文学博物館(Museum of Modern Literature)

「現代文学博物館」のご紹介

 

歴史的建造物が多く残されている地域に新たな建物を建設する時、設計者は様々な思いを込めてその建物のデザインをするのではないでしょうか。古い時代の建物の外観を模倣することは簡単ですが、それでは進歩が無いように思えます。しかし、斬新な外観の建物だと地域から反感を受けることもあります。ドイツの古い街に建設された博物館は、シンプルで目新しいような外観ですが、周りの景観を壊すことなく、その地の新たな魅力となっています。「現代文学博物館」はこの地にふさわしいと言える建物です。

「現代文学博物館」の設計者

 

「現代文学博物館」を手掛けたのは、1953年にロンドンで生まれたデイヴィッド・チッパーフィールド(正式には、サー・デイヴィッド・アラン・チッパーフィールド)です。ロンドンの美術学校を卒業後、イギリスで最も古い伝統のある建築学校で建築を学びました。卒業後の数年はイギリスの著名な建築家の事務所で働き、1985年に自身の建築事務所「デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツ」を開設しています。彼の建築家としての最初の活動は日本と深い関りがありました。最初期の彼の作品はロンドンの店舗で、日本人デザイナーのショップでした。その後、日本の企業ビルを手掛け、その頃に日本の文化に触れたことが、彼のその後のいくつかの作品に影響を与えることになりました。元々日本の造園の技法にある「借景(しゃっけい)」は、周りの自然の風景を庭の一部として取り込むような、文字通り景色を借りる方法です。彼の建築に対する理念は、建築場所の歴史や、そこに住む人々の思い、周りの景色などに邪魔をしない建物を作ることで、周囲の風景を借りることで、その建物の価値が数段も上がるような作品がいくつもあります。現在は、建築家として活躍すると共に、美術館の運営や建築家協会の評議員など、様々な場で活動しています。

「現代文学博物館」の所在地

 

ドイツ連邦共和国の南西部にあるマールバッハ・アム・ネッカーと言う街に「現代文学博物館」が建てられています。この街は、ドイツ南部の大都市シュトゥットガルドから北におよそ20kmの所に位置し、フランス国境にも近い場所です。先史時代には人が定住していた痕跡が残されていますが、8世紀頃に町が建設されたようです。文学の街として名高いマールバッハ・アム・ネッカーですが、それはこの街出身の人物に由来しています。18世紀の詩人で歴史学者、思想家のフリードリヒ・フォン・シラーがこの街で生まれました。ベートーヴェンの交響曲第九番、日本では「歓びの歌」として知られる曲に付けた歌詞を作詞した人物です。他にも同じく18世紀に活躍した数学者で、地質学者、発明家のトビアス・マイヤーもこの街の出身です。彼らの生家は小さな博物館として、それぞれ一般に公開されています。街の西にはネッカー川が流れていて、中世には木材を筏状に組んで輸送していました。水運は鉄道が敷かれるまで続き、地元の木材を多用した家の連なりが残されています。これらの家々は「ドイツ木組みの家街道」と呼ばれる道筋に含まれ、この街が最南端となっています。また、川の水流を利用した発電所が早くから建設され、20世紀初頭には電気が利用できるようになっていました。現在は20世紀半ばに建設された水力発電と、同時に建設された火力発電の2つが稼働しています。

 

「現代文学博物館」の特徴

 

2006年に開館した「現代文学博物館」は、すぐそばにある「シラー国立博物館」と「ドイツ文学アーカイブ」と共に美しい風景が広がる公園に建設されています。白い縦格子が四方を囲むような平らな建物でとてもシンプルな見た目をしていて、敷地が傾斜しているので、そこに埋め込まれたような形になっています。南側に開けているの為、基本的には2階建てですが、とても見晴らしの良い建物となっています。外廊下のようになっている白い縦格子で仕切られている部分は、コンクリートの柱と床は石灰岩が敷き詰められています。その為に、建物全体が白く見えます。このような素材が使われたのは、中に収められている物品を守るために、頑丈な作りにしたかった事が理由と設計者は言っています。屋内の壁やドアなどには南米産のイペと言う木材が使われています。イペは、ノウセンガズラ科の樹木で、防腐効果のある成分を含んだ木です。赤茶から焦げ茶色まで色の幅が広く、落ち着いた空間を演出出来る木材です。外観の白と屋内の濃い樹木の色の対比は、「現代文学博物館」から望む風景と相まって一体化した景色となり、正に借景の技法と言えるのではないでしょうか。「現代文学博物館」は、完成の翌年にその年の最も優れた建築物に与えられる、イギリスの王立英国建設協会のスターリング賞を受賞しています。

「現代文学博物館」のまとめ

 

彼の作品に対する評価の中に「堅実で誠実な作品は周りの環境に負担をかけていない」と言っている評論家がいますが、その言葉の通り、控え目ではあるけれどしっかりと風景の一部になっている建物が多く作られています。「現代文学博物館」のそばに建つ「シラー国立博物館」は中世の建築物を彷彿とさせるデザインで、簡素な外見の「ドイツ文学アーカイブ」と3つの建物が一体となって穏やかな景観を作り出しています。

 

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