太原植物園(Taiyuan Botanical Garden)

「太原植物園」のご紹介

現在でも石炭を燃料として使う場面はたくさんあります。掘りつくされた炭鉱は閉山し、付随する施設は使われなくなってしまいます。例えば、採掘された石炭の土や不純物を水で洗う「洗炭場」や石炭を貯蔵していた広大な土地が使われないままになっていることもあります。中国の北東部にあった炭鉱跡の再開発では素晴らしい公園を作る構想が持ち上がり、完成したのが研究施設も含む「太原植物園」です。

「太原植物園」の設計者

「太原植物園」の設計とデザインを手掛けたのは、オーストリアの首都ウィーンに事務所を置くデルガン・マイスル アソシエイテッド アーキテクツ(DMAA)です。この建築事務所は2人の建築家が1993年に設立しました。エルケ・デルガン・マイスルは1959年にオーストリア第三の都市リンツで生まれ、ワルツ発祥の地と言われるインスブルックの大学で建築を学びました。彼女は、建築や都市開発の専門家として自治体の不動産や建築の査問委員会のメンバーを務め、いくつかの大学で教鞭も取っています。ローマン・デルガンは1963年にイタリア北部の街、メラーノで生まれ、ウィーンの大学で建築を学び、研究も重ねてきました。彼は、大学を卒業後すぐにDMAAを共同開設しましたが、建築家として活動すると共に、母校は元より複数の大学で講師や評論をしています。DMAAは公共の施設や集合住宅などの大規模な企画に参加することが多く、それらの設計をする時には建設地の環境や歴史、民族性などを考慮しています。そのうえで、既成概念にとらわれない自由な発想で設計に取り組んでいます。現在は数十人の様々な分野の専門家と共に活動し、数年前に彼らは功績が認められ、それぞれ国や首都自治体が贈る賞を授与されています。

「太原植物園」の所在地

「太原植物園」は中華人民共和国の北東部にある山西省の省都、太原市(たいげん、タイユェン)に建設されました。太原市は北京の南西約400kmに位置し、街の中央を黄河第二の支流である汾河(ふんが)が流れています。この地域は黄土高原(こうどこうげん)と呼ばれる黄河流域の高原地帯で、春になると日本に飛散してくる黄砂の元となっている場所です。標高が800mほどで、年間を通して乾燥気味の気候となっていますが、四季の変化はあるようです。古代文明の1つ黄河文明の遺跡などが残り、2,000年以上の歴史がある街で、黄河文明の中心地であった中原(ちゅうげん)にも含まれ、古来より興った複数の王朝の首都も勤めていました。そのような史実から「ドラゴン・シティ」とも呼ばれています。近年では地下資源の石炭が豊富にあったことから、石炭を燃料とした重工業が盛んです。しかし、石炭を燃やすことで出る粉塵などによって大気汚染も深刻になっています。現在でも国内の重要な工業地域で、特にステンレス鋼の生産や、マグネシウムとアルミニウムの合金などが主要な生産物です。ステンレス鋼については世界でも最大規模の生産量を誇り、マグネシウム合金の分野では研究も行われています。

「太原植物園」の特徴

「太原植物園」の1番の特徴は世界でも最大規模の木造のドーム型建築物があることです。石炭の貯蔵所があった場所は、汚染を洗浄して人工湖に生まれ変わり、その周辺に3つのドーム型の温室といくつかの展示施設、研究棟などが建設されました。温室ドームは3つあり、そのうち1つは人工湖の上に作られていて水生植物が展示されています。このドームは設計者が請け負った最初から木造構造にすると決めていて、木材を張り合わせて作る集成材の特別なものを製造することから始めました。ドームを形成する木造構造は、2つから3つが交差して湾曲するように作られ、2重ガラスで覆われています。ガラスは換気や温度調整のために、所々開閉できるようになっています。3つの温室ドームの内、最大の温室は高さが約90mあり、木造構造のドームとして世界一の大きさを誇っています。レストランや喫茶室も10から14層に重ねられた梁が美しい空間を作っています。これらの木造構造は、中国の伝統的な寺院建築に倣っていると設計者は言っています。幹線道路から公園に入った所にあるエントランス棟のそばには、上部地表から張り出した巨大なテラスが作られていて、動く歩道が取り付けられ、斜めに伸びるトンネルを通ってテラスに上がれるようになっています。このテラスからは「太原植物園」の全景が一望できるようになっています。温室ドームの奥側には、「盆栽庭園」と名付けられたゆるやかな螺旋を描く展示場があり、螺旋の壁に沿って鉢植えの盆栽が並べられ、底の部分には小さな庭園が作られています。

「太原植物園」のまとめ

「太原植物園」がある場所で以前操業していた炭鉱企業は、地域経済に大きく貢献してきましたが、土壌や水質などの環境を汚染していたことも事実です。広大な敷地を美しい庭園にしたいと考えたのは、依頼主の太原市です。最初に土壌の汚染を取り除くことから、この計画は始まりました。建物が建設されている傍らでは、この地域をくまなく歩き、600種以上の貴重な植物を採取してきた人々もいます。展示するだけでなく、希少な植物の保護も「太原植物園」の重要な役割となっています。

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