ヤシの木の別荘(Villa in the Palms)

「ヤシの木の別荘のご紹介 

 

 持続可能と言う言葉を近年よく耳にします。英語ではサスティナブルと表され、様々な分野で使われています。建築の領域でも消費電力を抑える事や、廃棄物を少なくすることなどで環境に配慮している場合にはよく使われる単語です。熱帯域の多いインドに建てられた「ヤシの木の別荘」は、持続可能以上に大事にしなければならない、建設地の現状を1番に考えて作られました。 

「ヤシの木の別荘の設計者 

 

 「ヤシの木の別荘」の設計を担当したのは、1967年に開設されたアブラハム・ジョン・アーキテクツと言う建築事務所です。インドのムンバイに事務所があり、アブラハム・ジョンと息子のアラン・アブラハムが主体となって運営されています。小規模の物は、建築物の設計だけでなく、インテリアデザインや建物に付随する敷地の造園などを手掛け、大規模なものは、ランドスケープデザインと言われる、公園や広場など広い敷地空間のデザインや都市計画も行っています。彼らにはいくつかの建築理念があります。近年よく耳にする持続可能な建築物を目指すことが1つですが、現在だけでなくずっと先のことまで考えています。アラン・アブラハムは、建築は生まれて成長する人間の赤ちゃんと同じだと言っています。建築物は建てて終わりではなく、将来的には取り壊すところまでが考慮されています。建物を取り壊した後の廃材の行方までもを念頭に入れている建築家は少ないのではないでしょうか。また、自然との繋がりを大事にすることも重要視しています。天然の素材を利用する事や、建設用地の自然環境も重要視しています。他にも、古くから伝えられている伝統や建築に関する知恵なども大切にしながら、それらを使った新しい試みも行っています。 

「ヤシの木の別荘の所在地 

 

 インド亜大陸の西側のほぼ真ん中にあるゴア州の州都パナジ近郊に「ヤシの木の別荘」が建てられています。アラビア海に面するゴア州は、インド共和国にある28の州の中で1番狭い州です。この地域はインド国内でも最も古くから人々が住んでいた痕跡が見つかっています。およそ1万年前と推測される、川床の岩に動物などの絵が刻まれたものが20世紀の終わりに発見されました。この地域特有の季節風を伴った大量の雨が降るモンスーンの時期には、川に水が流れるようになるので、これらの彫刻を見ることはできません。11世紀の頃には、良い港があったことから交易の拠点として栄えるようになりました。中世から近世にかけては、この地域を含むポルトガルの領土の中心的な地域でした。面積の少ない州ですが、経済的にゆとりのある州で、国内で最も裕福な州と言われています。主な産業は観光と鉱業です。地下資源が豊富で、特に鉄鉱石やマンガン、ボーキサイトの採掘が古くから行われています。また、自然も豊かで、地球上でも数少ないホットスポットの1つとなっています。ホットスポットとは、比較的狭い範囲に多様な生物が生息している地域の事で、ここには200種以上の鳥類や50種以上の動物、1,500種以上の植物が生息しています。 


 

「ヤシの木の別荘の特徴 

 

 「ヤシの木の別荘」は文字通りヤシの木を取り囲み、ヤシの木に囲まれた建物です。この地に宿泊施設を建てる計画が持ち上がった時点では、ここに生えていた19本のヤシの木は伐採される予定でした。しかし、建設予定地を見た設計者は、逆に全ての木をそのままにしてヤシの木も含めた建物を作ることにしました。敷地内には樹齢80年と言われるココヤシの木と、近くを流れる小川から水を引いた水路と小さな池が作られました。それらを主体としたように独立した複数の部屋が点在するように建設されました。ダイニングやキッチン、寝室などは別々の建物で、それぞれの部屋は通路や水路に架けられた小さな橋を渡って行き来出来るようになっています。建物の基本はコンクリートですが、屋内などに使用されている木材は、リサイクルされたチーク材が使用されています。また、外壁やプライバシーを守るための壁には、地元で採掘されるラテライトが使われています。ラテライトはインドに於いては古くから煉瓦の材料として使われてきました。少し赤味のあるチーク材と紅土とも呼ばれるラテライトの色合いが、ヤシの木の葉と穏やかなコントラストを描いています。屋根は基本的に平らですが、色々な角度にわずかな傾斜が付けられていて、モンスーンの時期には雨水を貯められるようになっています。 

「ヤシの木の別荘のまとめ 

 

 「ヤシの木の別荘」の設計者は、建物と自然を接続することを重要視しています。敷地内に生えていた木をそのままにして、建物の一部に取り込んだことは、その通りの事と言えるでしょう。ヤシの木は水路や池の中に囲いが作られたり、生えている場所が庭にされたりと、植え替えることも無くそのままの状態で利用されています。寝室には低い位置に切れ込みのような細い窓が取り付けられていて、水路の波紋に反射した光が屋内に差し込むようになっています。天井や壁に映るその光は、揺らめく水の中で眠る印象があります。建物は人工的なものですが、「ヤシの木の別荘」では自然の中で過ごせる雰囲気を感じることができるのではないでしょうか。 

 

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