フィヨルデンフス(Fjordenhus)

「フィヨルデンフス」のご紹介

 

水辺に佇むものと言えば、舟や水鳥を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。水の上に家を作ることも古来より行われてきました。しかし、北欧特有の水辺に建設された建物は、芸術作品とも呼べる外観を持ち、華やかさはありませんが、優美とも言える建物になっています。「フィヨルデンフス」は、建設されている国の言葉で「フィヨルドの家」と言う意味を持った建物です。

「フィヨルデンフス」の設計者

 

「フィヨルデンフス」を手掛けたのは、1967年にデンマークの首都コペンハーゲンで、アイスランドから移住してきた両親の元に生まれた芸術家のオラファー・エリアソンです。

幼い頃は、コペンハーゲンで暮らしていましたが、夏季には両親の故郷であるアイスランドで過ごしていたようです。20代の前半には王立の美術大学に通い芸術に関する様々な事柄を学びました。在学中にドイツ西部の街ケルンで知り合った美術関係の人々と関係を続けるために、大学を卒業してすぐの1995年にベルリンに移住し、スタジオ・オラファー・エリアソンを開設しています。現在の彼のスタジオには、様々な技を持つ職人や建築家、技術者、自社の情報を管理するアーキビスト、美術史家など多種にわたる技術や知識を持つ多くのスタッフが居ます。彼は世界中で活躍している芸術家ですが、特に光や色で空間を演出する作品が多く、著名な建築家と共同で建物の外観をデザインすることもあります。芸術家として活動を始めてすぐに彼の作品は高い評価を受け、ドイツやオーストリアを始めヨーロッパの様々な国の芸術に関する賞を受賞しています。21世紀に入ってから、ベルリンにある芸術大学の教授として、大学と共同で芸術教育研究のための企画である「宇宙実験研究所」と言う5年間にわたる実験計画を監督していました。近年では、地球環境を考えた再生可能エネルギーの使い方なども模索しています。

「フィヨルデンフス」の所在地

 

「フィヨルデンフス」は、デンマーク王国のヴァイレと言う街の人工島のそばの水辺に建っています。ヴァイレは、デンマークを構成する国土の内のユトランド半島東側中央に位置し、ヴァイレフィヨルドの最奥に街が広がっています。街の名称は、デンマークの古い言葉で「浅瀬」を意味する単語が由来と言われています。この街の名前が歴史上に現れたのは13世紀頃ですが、それ以前から地理的な要因で重要な場所となっていたようです。北欧には7世紀頃から始まるヴァイキング時代と呼ばれる時期があります。その時期に、この地域に広がっていた湿地帯を渡るためにヴァイキングの王が作らせた、日本の尾瀬に作られている木道のような橋の痕跡が20世紀の半ばに見つかりました。10世紀頃に建設されたラヴィニング橋と呼ばれるこの橋は、幅が約5mで長さは750m以上に亘っていました。現在この橋は当時の工法を再現し、復元されています。デンマークは平坦な国で、1番高い所でも標高が170mほどですが、ヴァイレの街は森に覆われた小高い丘に囲まれています。また、大きくはありませんが、氷河期に由来する特有の川が2つ流れていて、国内でも珍しい地形のある場所です。

 

「フィヨルデンフス」の特徴

 

「フィヨルデンフス」は、ヴァイレフィヨルドに建設された人工島、ハヴエネンのすぐそばに建てられています。2018年に完成した一般に解放されている最下層部分と、3階からなるのオフィスビルで、人工島からは歩行者専用の橋で行き来が出来ます。高さ28mの4つの円筒の1部ないしは2カ所が重なり合ったような形で、側面にある開口部は上部がアーチ型になった窓になっています。コンクリート製の建物ですが、全体が100万個近い数のレンガで覆われています。古来より使われているレンガと同じ製法の素焼きで、わずかに変わる15色で彩られています。レンガの大きさはさまざまで、意図的に凸凹した表面になっています。レンガが使われた理由は、素焼きの為に存在する小さな隙間が、遮音と空調の管理に役立つ性質があることです。これを設計者は「呼吸する壁」と表現しています。床にはイタリアで採石されている、薄い茶色を帯びた灰色の緻密な石灰岩が使用されています。1階部分は他の階の2倍の高さがあり、床が作られている部分と、水面がそのまま見える部分があります。1階は港の風景を見渡せるようなテラスがあり、最上階まで吹き抜けになっていて円形の空が見える場所もあります。また、オラファー・エリアソンの作品もいくつか展示されています。屋上には太陽光パネルが設置され、植物も植えられていて、景観と環境に配慮した建物になっています。

「フィヨルデンフス」のまとめ

 

「フィヨルデンフス」は、オラファー・エリアソンが手掛けた初めての建築物で、オフィスの家具も彼のデザインです。夜間には屋内からの光で建物が浮かび上がるように見え、1階の床の無い部分の天井に取り付けられた小さな照明が水面を照らし、その反射で天井に水紋が浮かび上がります。得意とする手法の1つにある空間を光で彩るオラファー・エリアソンの作品「フィヨルデンフス」は、自然の光や風もその彩に加えている建築物と言えるでしょう。

 

 

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