ティンメルスヨッホの体験、パス博物館(The Timmelsjoch Experience Pass Museum)

「ティンメルスヨッホの体験、パス博物館」のご紹介

 

ヨーロッパの屋根とも言われるアルプス山脈は、イタリア半島の付け根を南側にして、山々の北側には6つの国々があります。中央よりやや東側にある、イタリアとオーストリアを結ぶ峠越えの道は太古より存在していたようですが、近代になって自動車も通れる道路が整備されました。その高山道路が開通して半世紀を記念するために道の途中にいくつかの建造物が作られ、峠の最高地点に建設されたのが、岩の塊のような「ティンメルスヨッホの体験、パス博物館」です。

「パス博物館」の設計者

 

ティンメルスヨッホ高山道路の脇に作られた「パス博物館」を含む、5つの建造物を手掛けたのは、地元の建築家であるヴェルナー・チョルです。1955年にアルプスの麓に位置するイタリア北部の南チロル地方に含まれる、ラッチと言う多くの史跡が残る観光の町で生まれました。イタリア中部の都市、フィレンツェの大学で建築を学び、大学を卒業して数年で出身地に近い南チロルのモルテルと言う町に自らの建築事務所を開設しました。モルテルの地名の元は、レンガなどを繋ぎ合わせるためのモルタルが語源と言われていて、建築に携わる職人が多い村でした。事務所を開設した当初は、地域の住宅や古いお城の修復などが主な依頼でした。その中でも注目を浴びるような建物が作り出されています。例えば、古い城の隣に景観を壊さないようにと、目立つことがない半分地下に埋もれたような住宅があります。彼の事務所は少人数で規模も小さいのですが、彼は「小さい事務所は建築家が全てを見通せる」と言っていて、彼の建築に対する理念がきちんと表される事を大事にしているのがわかります。近年では博物館やワイナリーなど、少し大きな企画も手掛けていますが、やはり最初から最後まで彼自身が把握して完成させています。

「パス博物館」の所在地

 

「パス博物館」が建っているのはアルプス山脈を越える道路の1つ、ティンメルスヨッホ高山道路の峠です。ティンメルスヨッホ(イタリア語 パッソ デル ロンボ)は、イタリア共和国とオーストリア共和国の国境でもある峠で、標高2,500mを少し下回る高さがあります。毎年、道に雪が無い5月の下旬から10月までは自動車も通れる有料道路として利用されています。特に二輪車のライダーやサイクリストに人気があり、多くの愛好家がこの道を楽しんでいます。ティンメルスヨッホの語源は、古い言葉で「小さな丘」を表していると言われています。「小さな丘」とは、この峠のことではなく、近辺にある氷河が作り出したこぶ状の地形からそう呼ばれるようになったのではないかと推測されています。イタリア語のパッソ デル ロンボと言う地名は「轟音と雷鳴の峠」と言う勇ましい意味があります。そのように古い言葉で地名が付けられていることからわかるように、この峠越えの道はかなり昔から利用されていました。その裏付けとなる峠の付近で紀元前300年の頃のものと思われる人骨が見つかっていて、峠を越える道は太古よりからあったと考えられています。アルプスを越えての交易があって、様々な品物だけでなく、文化の交流も行われていました。不名誉なことではありますが、一時期は密輸も行われていたようです。

 

「パス博物館」の特徴

 

「パス博物館」は他の4つの建造物と共に、ティンメルスヨッホ高山道路開通50周年を祝って2010年に開館しました。基本的には5つの建物は、いわゆる地味な色合いになっています。その理由は、設計者の思いから来ています。アルプスなどの標高が高いところには森林限界と言う、それ以上高い場所には木々が生えなくなる地点があります。岩石だけのような風景に余分な色は加えたくなかったと、設計者は言っていて、「パス博物館」や他の建物は赤味を帯びた茶色になっています。峠にある盛り土のような少し高くなっている場所に建設された「パス博物館」は、ちょっと押したら傾いてしまいそうな見た目で、とても不安定に見えます。道路より少し高いところに、ポンと置いたようになっていて、イタリア側に16mも突き出ています。コンクリート製の角ばった筒状の簡素な形で、出入口と反対側にある開口部はガラスがはめ込まれているので、出入口から反対の景色が見えます。内部は1つの空間で、両脇の壁には高山道路の建設に関する資料や、ティンメルスヨッホの歴史が、ガラスに印刷された画像などでわかりやすく展示されています。中央には鍾乳石を模した構造物が天井から吊り下げられ、その最下部には近辺で見つかった人骨の1部が納められています。また、ティンメルスヨッホ高山道路の模型も展示されています。「パス博物館」の「パス」とは「通る」と言う意味も含められていて、風景に余計な物を加えないような色と形状の建物です。

「パス博物館」のまとめ

 

「パス博物館」を含む複数の構造物全てを指して「ティンメルスヨッホの体験」になっています。イタリア側に、コンクリート製の展望台にもなっている「望遠鏡」と、「ガーネット」と名付けられた、コンクリート製の建物と赤い色に塗られた鉱物を表している構造物があります。オーストリア側には「歩道」と呼ばれる渓谷に大きく張り出したコンクリート製の展望台と、この地の不名誉でもある「密輸人」のシルエットが刻まれた立方体の構造物があります。それらを取りまとめるように峠に建設された「パス博物館」は、この地の過去と未来を表しているのではないでしょうか。

 

 

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