絞りオフィス(Shibori Site Office)

「絞りオフィス」のご紹介

 

ひらめきは時や場所を選ばず、しばしば色々な発想を思いつく人もいます。しかし、何かの拍子に思いつく様々な事柄を実行に移せることは、それほど多くはありません。インドの都市に建設された「絞りオフィス」は、光と影の遊びが見られる建物ですが、これを思いついたのは建設現場の近くにあった小さな小屋のトタン屋根の穴から差し込んでいた陽の光だと設計者は言っています。小さな陽の光が素敵なオフィスを作り上げるきっかけになったのです。

「絞りオフィス」の設計者

 

「絞りオフィス」を手掛けたのは、インドの建築事務所「tHE gRID(グリッド・アーキテクト)」です。この事務所は、バドリ・スターとスネハル・スターの夫婦が2002年に開設しました。バドリ・スターは子供の頃に彼女の出身地である、インドのアーメダバードに残る様々な遺跡を見ることがとても好きだったと言っています。インドには古い文明も多くの王朝も栄えてきた史実があり、それぞれの時代で多くの建造物が建設されてきました。歴史的な遺産という事はもちろんですが、見る価値のある建物もたくさんあります。それらの遺跡に施されている彫刻や装飾にひきつけられた事が、彼女が建築家を志したきっかけとなりました。その時の彼女の年齢は6歳だったと言う事です。スネハル・スターは大工の家に生まれ、小さいころから大工仕事をしている親の姿を見て、自然に建築家の道に進んだと言っています。父親が日本で言うところの工務店を営んでいて、生まれた時から家が作られていく過程を見て育ちました。彼は他の仕事に就くことはまったく考えていなかったとも言っています。バドリはインドの大学で、スネハルはアメリカの大学でそれぞれ建築を学んでいます。彼らの事務所は、無駄を省き、シンプルで環境に配慮した建物を作っています。特に建築素材に関してはこだわりがあって、限りある資源を有効的に使うようにリサイクルされた物や、リユースできる材料を使用することを心がけています。

「絞りオフィス」の所在地

 

「絞りオフィス」はインド共和国の北西部に位置する、グジャラート州の州都ガンディナガル(ガンジーナガル)に建てられています。この街は国内では比較的最近に建設されました。この地域は、インド独立の父と謳われるマハトマ・ガンジーの出身地であることから、街の建設が決まった時には街の名称も決まっていました。ガンディナガルのすぐ南には、15世紀の頃に栄えた王朝の都として建設されたアーメダバード(アフマダーバード)があります。1960年に州の編成が行われた時のグジャラート州の州都がアーメダバードでした。自治体の編成に伴い新しい州都を建設することが決まり、1965年から5年間かけてガンディナガルが建設されました。州都の建設は、モダニズムの巨匠と謳われたル・コルビュジエに師事した2人のインド人建築家が主体となって都市計画が行われ、国内の多くの建築家も腕を振るいました。元々この地域には小さな農村がいくつかあった場所で、アラビア海にそそぐインド西部を流れる主要な河川のサバルマティ川が流れています。川の西岸に建設された街は、当初15万人の住人を想定していましたが、民間に開発が任された場所での床使用面積が大幅に広くなったことから、この街の人口の許容数は30万人までに増やすことが出来ました。

 

「絞りオフィス」の特徴

 

2021年に完成した「絞りオフィス」は、英語表記でShibori Officeと表されていますが、この「Shibori(絞り)」とは日本の染色技術の一つである絞り染めの事を指しています。絞り染めは世界中にあり、インドでも同じような技法の染色技術があります。しかし、日本の絞り染めは円形を組み合わせた物が多くあり、その形が設計者の心に響いたようです。この建物の一番の特徴は赤いレンガ色に大小の丸い穴が開いている見た目にあります。基本はコンクリートで、通りに面している部分は南西向きで強い日差しが入りますが、全面ガラスになっています。それを被うように繊維強化セメントの板が取り付けられています。その板には大小の丸い穴があけられていて、光を通すようになっています。上の方は小さい円で、下の方には大きい円形の開口部が作られています。そこを通って日光が入り、室内に光が円形となって床や壁に模様を作ります。太陽の動きによって、光が徐々に動き、1日を通して様々な表情を見せています。加えてこの板は、通りに面している部分の目隠しの役割も果たしています。建物そのものは平屋のL字型ですが、サイコロ型の部屋を連ねたような雰囲気になっています。床は、約50cmほど地面から高く作られ、風を通すようになっていて地表面の温度の影響を抑えています。

「絞りオフィス」のまとめ

 

「絞りオフィス」は不動産会社の事務所で会議室や多目的ルームを備えています。また、モデルルームの役割も果たしています。近年では、多くの建物が環境に配慮したものになっていて、屋内を明るくするために日中は照明を使わない所も増えています。「絞りオフィス」は自然光を取り入れるだけでなく、その光を屋内の装飾の1つにもした欲張りな建物と言えるのではないでしょうか。

 

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