ベイルート テラス(Beirut Terraces)

「ベイルート テラス」のご紹介

 

都市の中心部に住む人は、どのような条件で住む所を決めるのでしょうか。田舎に比べれば利便性は高くなりますが、居住空間が狭くなったり、環境が良くなかったりすることもあるのではないでしょうか。地中海に面した街に建設された集合住宅は。快適な暮らしが送れるように。多くの条件を解決しています。「ベイルート テラス」はその名の通り、魅力的なテラスがたくさん積み重なっている建物です。

「ベイルート テラス」の設計者

 

「ベイルート テラス」を手掛けたのは、スイス北部の街、バーゼルに本拠地を置く建築事務所の「ヘルツォーク&ド・ムーロン」です。創設者は、共に1950年に生まれたジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンの二人です。彼らは小さいころからの友達で、いわゆる幼馴染としてバーゼルで育ちました。彼らは、多くの著名な建築家を輩出している、チューリッヒにあるスイス連邦工科大学で1970年から5年間建築を学びました。1978年に共同で建築事務所を開設し、本格的に建築家としての活動を始めましたが、当初は個人の住宅など小規模でシンプルな建築が多かったようです。彼らが一躍有名になったのは20世紀が終わる頃に手掛けた、ロンドンにある元々は発電所だった建物を改造して造られた美術館です。彼らの作品は様々な外観をしている為、一目で「ヘルツォーク&ド・ムーロン」が手掛けた建築物とわからない建物がほとんどですが、外観を覆う素材が一風変わったものがたくさんあります。その中でも、ガビオンまたは、蛇篭(じゃかご)と呼ばれる、本来は河川などの岸や斜面を補強するために作られた、金属や竹で編まれた篭の中に砕かれた石を詰めた物を壁に使用している事が特徴的です。篭に詰めるのは砕石だけでなくガラスを使った例もあり、光を通すように仕上げられています。他にも、ガラスの外壁にシルク印刷で様々な模様を描いている建物もあります。

「ベイルート テラス」の所在地

 

「ベイルート テラス」は名前が示す通り、レバノン共和国の首都ベイルートの海岸に近い場所に建てられています。レバノンは地中海の一番奥にあたる東岸の中央付近にある国で、ベイルートは三角形に突き出た半島に街が広がっています。この街は世界で最も古い都市の一つと言われ、およそ5,000年前には定住している人々がいた形跡が見つかっています。ベイルートの名称は、古代にこの地域で暮らしていたフェニキア人が使っていた言葉で、「井戸」と言う意味があり、エジプトで発見された紀元前14世紀のエジプト王に宛てた粘土板の手紙に楔文字で記されています。「井戸」と表されたのは、当時、この街の周りには豊富な地下水があったからと推測されています。ヨーロッパと中東を繋ぐ要所で、海に面した半島の地形と天然の港があったことから、大変古くから交易の拠点として栄えてきました。商業の中心地であったことは、様々な時代の多くの支配者が欲する地でもあり、太古より幾度も戦乱に巻き込まれてきた歴史があります。しかし、現在は地中海東岸の経済や金融の中心地として安定した街になり、世界で最も訪れる価値のある都市の1つに挙げられています。

 

「ベイルート テラス」の特徴

 

「ベイルート テラス」は、何枚もの白い四角いお皿を無造作に重ね上げたような見た目の集合住宅で、2017年に完成しました。高さが119mあり、26階建てで100以上の住居を備えている、白い平屋の戸建ての家が積み重なっているような印象を持っています。各階は互い違いに重ねられたようになっていて、床板(スラブ)は5種類のサイズを様々に組み合わせて、全体的に複数の大きさの床が作られています。床材は階下の部屋の天井のサイズに対応しています。また、床の広さは住居部分の大きさより、最低でも60cmは広くとってあり、この部分が「ベイルート テラス」の売り物のテラスとなっています。このように広いテラスは、強い日差しを遮る役を果たしています。反面、テラスの端には複数の四角い穴があけられていて、階下に自然光を取り込めるようにもなっています。層を重ねたようなデザインの理由は、この街の波乱に満ちた歴史を表すと言う、設計者の思いからです。建物そのものはコンクリートが使われていますが、テラスを支えるための最大14.7mある複数の円柱や、床の仕上げには白い大理石が使われています。世界で最も長い歴史があり、最大規模を誇るイタリア産のカララ大理石の白に合わせて、建物全体が白い色になっています。

「ベイルート テラス」のまとめ

 

白い色をした建物の「ベイルート テラス」は、地中海の青い海にとても似合う建築物です。建物の北側にはたくさんのヨットが係留されているヨットハーバーがあり、その向こうには地中海が広がっています。他の3方はベイルートの街を眺望することが出来ます。素晴らしい開放感がありますが、互い違いになっていることで私的な空間を守っています。強い日差しを避けながら、自然光を取り込めるように考えられている事も加えて、相反する課題を解決したうえで、住む人が自慢できるような外観に仕上げられている「ベイルート テラス」は、手掛けた建築家の才覚の表れと言っても過言ではないでしょう。

 

 

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