ガーネット・チャペル(Garnet Chapel)

「ガーネット・チャペル(カペラ・グラナタ)」のご紹介

 

小規模の建物は小さいからこそ出来る事があります。例えば宗教建築では、大規模になると大多数の建物が荘厳であり絢爛になっています。しかし、小さな礼拝堂などは手作りの簡素なものや、意匠を凝らしたもの、建材にこだわりを持って作られたものなど多岐にわたる建物が作られています。東アルプスに建てられている「ガーネット・チャペル」もその1つで、宝石のカットを意識した形で見晴らしの良い小高い山にポツンと建っています。

「ガーネット・チャペル」の設計者

 

「ガーネット・チャペル」のデザインと設計を担当したのは、スイスの建築家マリオ・ボッタです。1943年にイタリアとの国境に近いスイス南部の街メンドリシオで生まれました。小さなころから、絵や図面に繋がる画像に興味があって、将来は画家や写真家になると思っていたようです。10代の中頃に地元の建築事務所で見習いとして働く機会があり、製図技師としての仕事を覚えました。才能のあった彼は、10代半ばで住宅の設計を任され、その家は実際に建設されました。高等学校を卒業してからイタリアの大学で建築を学び、在学中にモダニズム建築の巨匠と謳われた建築家の元で助手として働く機会がありました。この事は、彼の建築家としてのスタイルに大きな影響を与えているようです。多くの著名な建築家が名言を吐いていますが、彼も建築に対する自らの思いを様々な言葉で表現しています。例えば、「形は建築の機能」と言うセリフがあります。これは彼自身が例えを使って説明しています。「消防署の建物は四角く細長いものが多いが、消防士が訓練をするための場所として活用できている」と言っています。入れ物としての建物ではなく、建物そのものにも役割があるとの事です。1969年に大学を卒業して、故郷近くの街ルガーノに事務所を構え、建築家としての活動を本格的に始めています。後進の指導も行っている彼は、1996年に故郷の街に建築学校を創設したメンバーの一員となっていて、その学校で教鞭も取っています。

「ガーネット・チャペル」の所在地

 

「ガーネット・チャペル」は、ヨーロッパの屋根と謳われるアルプス山脈の東に位置する小高い山の上に建っています。オーストリア共和国の西部に位置するチロル州にあるツィラータール(ツィラー渓谷)は、州都インスブルックから南東におよそ30kmの場所にあります。冬になると雪に閉ざされる場所ですが、石器時代にはすでに人々が暮らしていた痕跡があります。この渓谷は世界的に有名なクリスマスの歌「きよしこの夜」と深い関りがあります。中世の頃、オルガンの製作者がこの地にこの歌を伝えたと言われています。そして、巡回商人やいわゆる吟遊詩人の家族が世界を旅して周り、「きよしこの夜」の歌を広めたと伝えられています。標高が高く、冬季には雪に閉ざされていた地域ですが、マグネシウム鉱山と酪農で経済を支えていました。20世紀に入ってすぐの頃に鉄道が敷かれ、冬のリゾートに訪れる人も増えてきて、観光地としての様相を見せるようになりました。20世紀の終わり頃に鉱山が閉山してからは、観光業が経済の主力となってきました。大きなスキー場が複数整備され、シーズンにはスキーや近年ではスノーボードなど、ウィンタースポーツを楽しむ人が訪れています。夏季には、アルプスの比較的容易なトレッキングや氷河の見学などに人気があります。

 

「ガーネット・チャペル」の特徴

 

2013年に完成した標高2,000m以上の岩がちの山に建っている「ガーネット・チャペル」は、見る角度によってはサイコロの角を下にした立方体にも見えますが、12面の菱形で構成されている多面体の建物です。コンクリートの土台の上にちょこんと乗っているようなイメージがあります。このチャペルの建設を依頼した人の曽祖父が、この地で素晴らしいガーネットを掘り当てたことから、この名前が付けられていますが、設計者のマリオ・ボッタはその宝石の結晶をイメージしてこの形にしました。外壁はこの地の天候を考慮した、耐候性鋼の板で覆われています。耐候性鋼とは、前もって特殊な錆を発生させ、それによって腐食を防ぐ効果を持たせた鋼材です。木材の板目を互い違いに組み合わせて強度を上げる方法を、この鋼板で行っているので、近くで見ると小さな鋼板が組み合わされて設置されているのがわかります。屋内は外壁に沿った幾何学的な形で、地元産のカラマツを使用した木材が使われています。内壁を組み立てた上に、自然環境に配慮した耐候性の高い樹脂皮膜で覆い、その上に2,000本以上のボルトで鋼板が取り付けられています。天井の真ん中に作られた丸い天窓と、2つの十字架に切り取られた開口部にはガラスがはめ込まれて、自然光の照明になっています。

「ガーネット・チャペル」のまとめ

 

複数ある貯水池のそばに建つ「ガーネット・チャペル」は、ツィラータールを見下ろせる場所に建てられていて、とても見晴らしの良い場所です。礼拝堂には土台部分から階段を上がって入るようになっています。光の加減では青味を帯びた鋼色にも見える、独特の赤錆色をした「ガーネット・チャペル」は、正に宝石のガーネットを彷彿させる色合いと言えます。地元では「民族宝石」と呼ばれているガーネット(柘榴石)を模した「ガーネット・チャペル」は、いつも静かにツィラータールを見守っているのではないでしょうか。

 

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