ゾンクアントラ アパート(Zoncuantla Apartments)

「ゾンクアントラ アパート」のご紹介 

 

 建物を建設する時にはその敷地を平らにすることがほとんどです。建物の安定の為や建設が行いやすくなるので当然と考えることが大方の意見ではないでしょうか。しかし、建設予定地に手を入れず、建物をその地形に合わせて造る場合もあります。メキシコに建設された「ゾンクアントラ アパート」は、斜面に沿いながらもそそり立つような印象がある集合住宅です。 

「ゾンクアントラ アパート」の設計者 

 

 「ゾンクアントラ アパート」を手掛けたのは、メキシコ人の建築家、ラファエル・パルドです。1974年にメキシコの東部に位置するベラクルス州の州都であるハラパで生まれました。州の全体に複数のキャンパスを持つ、ベラクルザナ大学(バラクルス大学)のハルパキャンパスで建築を学び、卒業後に幾人かの建築家と共に建築事務所を共同経営していた事があります。2000年に自らの建築事務所であるRPアルキテクトスを、出身地のハラパで開設しました。彼の作る建物は、コンクリートを使った直線的な物が多く、それだけを聞くと味気ない簡素な建物のように思えます。しかし、実際は芸術作品とも思えるような彫刻的な外観が作り出されています。一つ一つが単純な形でも組み合わせ方によっては、とても小粋な雰囲気の建物に仕上がります。それに加えて建物の色もシンプルなので、未来的なイメージもあります。彼の作品は、20世紀半ば頃に見られるようになった「ブルータリズム建築」と呼ばれる、打ち放しコンクリートやガラスなどで建設される簡素で冷たい印象のある建築物を基本としながらも、新しい試みを加えていると称される事があります。彼の建築は、コンクリートの可能性を極限まで引き出すことを目指しています。 

「ゾンクアントラ アパート」の所在地 

 

 「ゾンクアントラ アパート」は、中米のメキシコ合衆国の南東に位置するベラクルス州コアテペックと言う街に建設されています。メキシコ湾に面するベラクルス州の正式名称は、「自由で主権国家のベラクルス」と言います。ベラクルス州は、メキシコに於けるメキシコ湾の海岸線の約三分の一を占め、西側はシエラ・マドレ・オリエンタルと言う山脈に挟まれた細長い形をしています。州のほぼ中央にあるコアテペックの街は、州都のハラパから南へ約10kmの場所で、メキシコでのコーヒー産地の中心地として名高く、品質の良いコーヒーを生産しています。16世紀にスペインから人々がやってきて、メキシコが植民地となった頃には砂糖の生産が主に行われていました。アシエンダと呼ばれる当時の大規模な農園の後は、国の建築遺産として残されています。19世紀の初めにコーヒーの木がこの地に持ち込まれ、1,000m以上の標高でコーヒー栽培に適した気候があったことから特産品となりました。現在はコーヒーと共に柑橘類の生産が盛んに行われています。この地域の地形はシエラ・マドレ・オリエンタルの麓に位置するために、湿度が高く霧の発生率が高い雲霧林と熱帯の密林が混在していて、多様な生物が生息している場所です。このような自然環境と州都から近い立地もあって、自然の中で余暇を楽しむ人が多く訪れる地域となっています。 

 

「ゾンクアントラ アパート」の特徴 

 

 「ゾンクアントラ アパート」は2020年に完成した、7階建の4戸が入る集合住宅です。急な斜面に張り付いているように見える建物で、色はレンガのような赤茶色です。立方体のブロックを無造作に積み重ねたようになっていて、例えば2階の屋根部分が3階のテラスになるように飛び出しています。4階部分が上を通る道と同じ高さで、その道は少し下ったところで別の道と合流しています。もう1本の道は斜面を下る途中で「ゾンクアントラ アパート」の前を通るようになっています。このような構造なので、2階の家でも道から直接入れるようになっています。4階部分までは地面に埋め込まれた形になっているので、同じ階でも地下になった部分があります。小高い場所なので、見晴らしが非常に良く、斜面の外側に当たる方は大きな窓が取り付けられて、テラスになっている階もあります。建物はコンクリート製で、外壁はもちろん屋内の壁や階段も全て同じ素材で作られています。レンガのような赤茶色は、地元に古くから建てられている家屋と同じ色合いになるように、コンクリートが着色されています。無造作に積み重ねられたような形なので、所々にわずかな空間が開いている所もあり、設計者の遊び心が忍ばせてある様です。また、4戸全てが広さも作りも違うようになっています。 

「ゾンクアントラ アパート」のまとめ 

 

 「ゾンクアントラ アパート」の建設用地は斜面になっている事もありますが、周囲の自然環境にも配慮するように依頼主から要望されていました。その為、敷地の半分以上は緑地となっていて、建物の建設と共に新たに31本の樹木が植えられ、1㎡あたり8本の植物が植えられました。また、建物のわずかな隙間にも植物が植えられていて、箱庭のようになっている部分もあります。周囲は雲霧林を形成している山に囲まれていますが、建物の色も大地の色合いなので、「ゾンクアントラ アパート」の亜熱帯の植物を纏った姿は周囲の風景に溶け込んでいるように見えます。 

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