旧イタリア大使館日光別邸(Italian Embassy Villa)

「旧イタリア大使館日光別邸」のご紹介

 

およそ1世紀前に建設されたにも関わらず、今でも古さを感じさせない粋な雰囲気を漂わせている建物が高原の静かな湖の畔に建っています。日本人には、なじみ深い少し懐かしいような印象のあるその建物は、当時のヨーロッパから赴任してきた大使の依頼で作られた休暇を過ごすための別荘でした。「旧イタリア大使館日光別邸」は、100年前の佇まいをそのままに保存されています。

「旧イタリア大使館日光別邸」の設計者

 

イタリアから赴任してきた大使の希望を叶えて、日光の別荘をデザイン、設計したのは当時のチェコスロバキアで1888年に生まれたアントニン・レイモンドです。彼は88歳で人生の幕を下ろしていますが、その長い生涯の大半を日本で暮らし、日本の近代建築に大きな影響を与えた建築家となりました。彼は、フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルを建設するための助手として共に来日したのが1919年の事です。しかし彼は、フランク・ロイド・ライトと意見が合わなくなり、間もなく独立しましたが、そのまま日本に留まっています。およそ10年が過ぎたころにアメリカの国籍であるにも関わらず、日本の政府からチェコスロバキアの名誉領事の地位を与えられました。その頃彼は、アメリカやヨーロッパの国々の大使館を手掛けていて、外交官としても活躍していました。独立した当初は、フランク・ロイド・ライトの影響が残っていた彼の作品も年を追うごとに特有の建築理念が構築されてきました。更に、過剰な装飾を無くし、極力簡素な建築を目指していたル・コルビュジエの作品に感銘を受け、彼の建築スタイルが現在残されている建物に見られるようになりました。加えて、彼の建築事務所にル・コルビュジエの元で数年間働いていた日本人建築家が加わった事が、その影響を大きくした1つの要因と言えます。ヨーロッパで生まれた彼は、アメリカで学び、日本で活躍していたことが、日本の伝統とモダニズムを見事に融合させたと言える建築家です。

「旧イタリア大使館日光別邸」の所在地

 

「旧イタリア大使館日光別邸」は、北関東の栃木県日光市にある中禅寺湖の湖畔に、現在も建っています。中禅寺湖は、北側に聳える男体山が数万年前に起こした噴火によって渓谷がせき止められて出来た湖です。国内でも標高の高い場所にある湖で、8世紀に修行僧が発見したと言われています。男体山に上っている途中で見つけたと伝えられていて、修行のための霊場を作り現在の中禅寺となる神宮寺を建立しました。明治時代になると、様々な国の大使が日本へ赴任し、東京からも近く、四季折々の美しい風景を望むことができることから、湖の周辺に各国の別荘が建設されました。このような経緯から、中禅寺湖周辺は特に避暑地として注目を浴びるようになってきました。元々は魚が生息していない湖でしたが、明治時代になって複数種の淡水魚が放流され、釣りも楽しめるようになりました。日光市から中禅寺湖までは多くのカーブが続く国道の「いろは坂」がありますが、現在のように車で往来できるようになったのが、1965年のことです。それまでにも道はありましたが、車がすれ違うことが難しいくらい狭い道でした。「いろは坂」の名前の由来は、最初に作られた道のカーブが48あったことからその名称がつけられました。

 

「旧イタリア大使館日光別邸」の特徴

 

「旧イタリア大使館日光別邸」は少し前の日本でよく見かけたような形式の家です。2階建ての木造建築で、1階はほぼ1つの部屋で広間のようになっていて、台所やバスルームなどが仕切られているだけです。昔の日本家屋は襖を取り除けば1つの広間になっていたような形式です。中禅寺湖に面した方は幅の広い縁側のようになっています。形だけを見れば普通の家屋のようですが、日本では古くから使われてきた建材の杉皮を使った壁や天井のデザインがとてもモダンな印象を与えています。杉は耐久性があり、まっすぐに育つため木目も美しい木材ですが、幹の皮を剥いだ杉皮も屋根や壁材として様々な所に使われてきました。その杉皮を編んで、日本古来よりの模様である、市松や亀甲、矢羽根などの模様を作り装飾として使用されています。特に1階の広間になっている部屋でもそれぞれのスペースに特徴を持たせるために、天井の模様をわざわざ変えて、明確ではないにしても利用する目的で広い部屋が分けられるようにされています。外壁や雨戸を収納する戸袋にも杉皮が市松模様に見えるように編まれ、縁側の吐き出し窓の四角く区切られた形と美しい調和を見せています。広い部屋の両端には、自然のままのような石を組んだ暖炉が作られていて西洋の雰囲気を醸し出しています。

「旧イタリア大使館日光別邸」のまとめ

 

「旧イタリア大使館日光別邸」は現在、冬季を除いて一般に解放されていて、誰でも訪れることが出来ます。日本の伝統技術と西洋のモダンが見事に組み合わされた「旧イタリア大使館日光別邸」は、設計者のモダニズム思想と日本の職人技が融合した傑作ともいえるでしょう。建設されてから100年を経過しようとしている建物ですが、現在でもそのデザイン性が高く評価されている事は、一旦すべて解体され、再建してまでもこの建物が残された事から理解できるのではないでしょうか。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。