「エデン プロジェクト」のご紹介
穏やかな緑に包まれた谷に、いくつもの大きなシャボン玉が消えずに留まっているような印象を持たせている施設があります。およそ30年前までは、人の手によって不毛の地になっていた谷を蘇らせた計画が「エデン プロジェクト」です。2001年に完成した教育複合施設は、建物と自然環境が融合した素晴らしい模範となっています。
「エデン プロジェクト」の設計者
「エデン プロジェクト」の建物を手掛けたのは、ニコラス・グリムショー卿です。2002年には、様々な分野で功績のあった人に贈られるイギリスの勲章を受賞し、2019年には建築家に授与される国で最高峰の賞を受賞した、イギリスの近代建築をけん引している建築家の1人です。1939年にイギリスの南東部にあるイーストサセックス州のホープと言う街で、技術者の父と芸術家の母の元に生まれました。ロンドンの有名な建築の専門学校で建築を学び、卒業後してすぐにテレンス・ファレル卿と共同で建築事務所を開設し、2年後には王立の建築家協会に所属しました。彼は、建築家として活動を始めてすぐに才能を認められ、初期の作品の一つは、歴史的に価値があり、保護するに値する建築物に指定されています。15年の間2人で事務所を運営していましたが、1980年に独立してニコラス・グリムショー&パートナーズを開設しました。彼が手掛けているのは、駅や空港などの公共の施設や、大きな企業の社屋など大規模な物が多く、シンプルで、美しい建築物を生み出しています。アメリカの建築家協会のメンバーにもなり、世界中に活動の場を広げていて、1994年には王立建築家協会の副会長も勤めています。また、2004年から7年間は、王立芸術アカデミーの会長職に就いていました。
「エデン プロジェクト」の所在地
「エデン プロジェクト」は、イギリスの国土の大部分を占めるグレートブリテン島の南端に位置する半島に建設されています。半島全域とその先の海に浮かぶ島々でコーンウォールを構成していて、コーンウォール州とも言われますが、単一の自治体となっています。三方を海に囲まれ、年間を通して大西洋からの強い風が吹いています。この風によって、特に北側の海沿いは切り立った崖が多く、200m以上の高さがある崖が連なる場所があります。また、点在する砂浜の砂は非常に目が細かく、美しいビーチを形成しています。それに対し、南側は比較的穏やかで、天然の湾も形成されている地形になっています。波が穏やかなので、北に比べると砂の粒子は少し大きくなっています。内陸部は花崗岩の露頭などがあり、以前は陶器に使われる粘土の採掘が盛んに行われていました。中世後期までは錫や銅など複数の金属鉱床からの採掘によって経済が豊かな地域でした。当時は、ヨーロッパでも重要な鉱山がいくつも操業していましたが、20世紀に入る頃には鉱石が掘りつくされ、ほとんどの鉱山が閉山しました。近年では、国内でも経済活動が低迷している最も貧しい地域の一つと言われていました。しかし、21世紀に入ってからは、往年の鉱山跡がユネスコの世界遺産に登録されたこともあり、観光業に焦点を置いた経済活動が活発化してきました。
「エデン プロジェクト」の特徴
「エデン プロジェクト」は、掘りつくされた露天掘りの鉱山跡を再生するために計画された企画です。その中の中心的な施設が巨大な泡のような、熱帯雨林と地中海気候を再現した2種類の温室です。アメリカの発明家でもあった建築家が1947年に発明した、直線と正多面体を用いて作るジオデシック・ドーム(測地線ドーム)と基本は同じ構造の温室です。このようなドームは世界中に数多く作られていますが、他と一線を画しているのが、最新技術の素材と空気を取り入れていることです。フッ素系の樹脂で作られた、いわゆる外殻が2層構造になっていて、間に空気が充填されています。空気が入れられているのには2つの理由があります。1つは、太陽光は取り入れても、断熱の効果を高めるためです。もう1つは、屋内の気温を一定に保つために空気の量を増減できるようになっていて、外気温が高い時には空気を減らして冷却し、低い時には空気を増やして更に断熱効果を高めるためです。外殻がこのような役割を果たしているため、少し膨らんだような形になっているので、ピロー(枕)と呼ばれることもあります。6角形に組まれた骨組みに被せるように取り付けられているフッ素系の樹脂は、軽量で透明度が高く、柔軟性もあり、対候性と耐食性、強度も高い優れた素材です。温室ドームを形成しているのは、外側の層が625個の6角形と16個の5角形が使われ、内側は190個の3角形で組まれています。泡のような形になったのは、建設用地が平らではなく、不規則な形状になっていたためで、接地面が柔軟に対処できたからです。
「エデン プロジェクト」のまとめ
北大西洋の1部ケルト海に突き出た半島に、かつて人々の暮らしを彩豊かにするための材料を採掘していた山がありました。掘りつくされた山は不毛の地となり果ててしまいましたが、その地に新しい息吹を吹き込んだのが「エデン プロジェクト」です。茶色の地肌がむき出しになっていた谷に、新たな楽園が作り出され、地域経済にも貢献できるこの企画はまさに「エデン」の名にふさわしいと言えるのではないでしょうか。
余談ですが、「エデン プロジェクト」の温室ドームを建設するために使用された足場は全長がおよそ370kmもあって、ギネス世界記録に認定されています。
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