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「レ・エスパス・アブラクサス(アブラクサスの空間)」のご紹介
17世紀に建設されたフランスのパリに建つヴェルサイユ宮殿は、壮麗な姿を今に残しています。当時は政治の中心であり、貴族の華やかな社交の場でもありましたが、その場所は一般市民にはなじみのないものでした。数百年後に建設された複合集合住宅は、設計者が「民衆のためのヴェルサイユ」と言い表した建物です。「レ・エスパス・アブラクサス」には「宮殿」と名付けられた棟があります。
「レ・エスパス・アブラクサス」の設計者
「レ・エスパス・アブラクサス」の設計とデザインを手掛けたのは、スペイン第2の都市、バルセロナ出身の建築家リカルド・ボフィル・レヴィです。彼は1939年に建設業を営む有資格の建築家でもあった父の元に生まれました。比較的裕福な家庭で育った彼は、バルセロナにあるフランスが認めたフランス式の教育を行う学校で中等教育を受けました。その後、出身地にある建築専門学校で建築を学び始めましたが、政治的活動の影響で、学校を退学、国も追放されました。スイスで学業を継続し、故郷に帰ってから、多岐にわたる分野の専門家達と「リカルド・ボフィル建築工房」を1963年に開設しました。この工房には20カ国以上の多才な人々が数十人も集まり、1975年には新しい事務所に移転しました。元はセメントの工場だった場所で、「ラ・ファブリカ(工場)」と呼ばれています。彼が必要と思った場所以外は取り壊されましたが、新たな建物は建設されていません。残された、8つの円筒形の建物には彼の自宅と事務所、工作室や会議室などに分割して利用されています。また、大きな空間のある所は展覧会やコンサートにも使用され、「大聖堂」と名付けられています。この事務所は様々な領域の専門家が居たため、都市計画や空港、駅などの交通インフラなどを手掛け、多様な分野の建物の建設も請け負っています。ヨーロッパを中心に世界中で活躍した彼は、2022年に82歳で病に倒れ帰らぬ人となりました。
「レ・エスパス・アブラクサス」の所在地
「レ・エスパス・アブラクサス」は、フランス共和国の首都パリの東に隣接する、ノワジー=ル=グランに建っています。この町は、パリの南でセーヌ川に合流するマヌル川の南に広がっています。町の名前のノワジーとはクルミを表す言葉で、諸説ありますが、昔この地にクルミの木がたくさん生えていたことから、この地名になったと言われていて、町の紋章にも3つのクルミの実が描かれています。20世紀の初めころまでは小さな村でしたが、パリまでつながる路面電車が開業した頃から人口が増え始め、現在は周辺の他の自治体と共に、首都パリのベッドタウンとなっています。町の南にはサン・マルタンの森が広がっていますが、個人所有だったため最近までは一般の立ち入りが出来ませんでした。21世紀に入って公の機関が森の1部を購入し、一般に公開されて人々に憩いの場を提供しています。町には観光名所にもなっている有名な建造物が2つあります。何れも集合住宅で、1つは「レ・エスパス・アブラクサス」で、もう1つがウズベキスタン出身の建築家が手掛けた「ピカソのアリーナ」と呼ばれる建物です。また、市庁舎は19世紀に建設された城が使われています。
「レ・エスパス・アブラクサス」の特徴
「レ・エスパス・アブラクサス」は3つの棟で構成されている複合の集合住宅で、1983年に完成しました。3つの建物の内1番大きいのが「宮殿(ル・パラシオ)」と呼ばれる、左右の2辺が少し短いコの字型をしています。高さも最大で、64mあり、階層は18階で441戸の住居があります。2番目に大きな建物は「劇場(ル・テアトル)」と名付けられていて、「宮殿」の内側と半円を描いて向かい合う形になっています。「レ・エスパス・アブラクサス」のなかでは、「劇場」の形が1番特徴的で、設計者はローマの古代劇場を参考にしたと言っています。階段のための13本の柱のような部分の左右に130戸の住居が作られています。2つの大きな建物の中央部には、「アーチ(ラルク)」と言う20戸の部屋がある小ぶりな棟があります。「宮殿」と「劇場」の間には中庭が作られていて、「アーチ」はほぼ真ん中に建っています。古代の凱旋門のような形で、2つの搭のような建物が7階で繋がっています。これらの建物はコンクリートで作られています。あらかじめ工場で板状にしたコンクリートパネルで組み立てられいますが、つなぎ目が見えにくいような工夫が凝らされています。また、コンクリートの味気ない灰色を厭い、素材に使われたセメントには酸化物が混ぜ込まれています。「宮殿」と「アーチ」は暖か味のある色合いに見えて、「劇場」は階段室とそれぞれの部屋の窓ガラスと共に青味がかかった色合いなっています。着色したものではないので、色の劣化も少なく、この建物に対する設計者のこだわりが伺えます。
「レ・エスパス・アブラクサス」のまとめ
「レ・エスパス・アブラクサス」は基本的に低所得者のための集合住宅として建設されました。そのような経緯から建設後の数十年で様々な環境が悪化して、21世紀に入った頃には解体の憂き目を受けることとなりました。自治体は「レ・エスパス・アブラクサス」の建物そのものの重要性を理解していたことから、2018年に設計者に改修の監督を依頼していました。観光客にも人気がある衝撃的な見た目の「レ・エスパス・アブラクサス」は、様々な種類のドラマや映画、広告のための舞台に利用されています。
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