カタール国立博物館(National Museum of Qatar)

「カタール国立博物館」のご紹介

 

人間にとっては過酷な環境でも、自然がその様な状態でないと出来上がらないモノがあります。例えば、生物が生息するには厳しい条件である、乾燥した砂漠地帯で見つかる「砂漠の薔薇(デザート・ローズ)」と呼ばれる美しい形の結晶鉱物があります。中東の都市に建設された「カタール国立博物館」は人工の巨大な「砂漠の薔薇」です。

「カタール国立博物館」の設計者

 

子供の頃からある意味型破りだったフランス人のジャン・ヌーヴェルが「カタール国立博物館」を手掛けました。彼は、1945年にフランスの南西部にあるフュメルと言う町で、教師をしていた両親の元に生まれました。地方の学校を取りまとめる監督の役をしていた父親は、彼に将来は自分と同じ教職に就くことを願っていたようです。中等教育を終えた後に美術を学びたかった彼は、両親の反対を押し切るために建築を学ぶ事を口実に国立の美術学校へ進学しました。彼は建築家としての才能が早くから開花していましたが、個人としての建築家が置かれている状況を苦慮していました。例えば、建築は企業が主体となっていましたが、それに反対する活動を行っていました。それが「火星1976」と言う運動で、当時では前衛的な作品を作り出していた複数の建築家や建築関連の仕事をしている人達と活動していました。その活動の中で彼は舞台美術にも触れ、芸術の分野でも才能を花開かせています。彼が世界的に有名になったきっかけの建築物は、「アラブ世界研究所」と言う建物ですが、アラブの歴史を重要視したデザインとなっています。建設される土地や依頼主の歴史や自然などを考慮して、それにふさわしいと思える作品を作り上げています。

「カタール国立博物館」の所在地

 

中東の国カタールの首都ドーハに新しい「カタール国立博物館」が建設されました。カタールは中東諸国の中でも国土が狭い国で、アラビア半島の東側、ペルシャ湾に突き出たカタール半島で占められています。半島の東側に自然に形成された湾が円を描くように丸い形をしていたことから、アラビア語で「丸み」を表すドーハの名称が付けられました。乾燥した土地柄ですが、海に面していたことから漁業や真珠の採取を行う人たちが暮らす小さな村でした。20世紀の初め頃にはヨーロッパへの真珠貿易の為に人口が増えてきて、その頃にはイギリスの保護領となっていました。しかし、1930年代に日本で真珠の養殖が確立されてからドーハの経済は一気に落ち込んでしまい、街は存亡の危機に陥りました。その後、石油などの天然資源の調査が行われ、油田が発見されてからは経済の成長が大きく加速し始めました。カタールは、1971年に約半世紀にわたって続いていたイギリスの保護領から独立して、現在では高層ビルが立ち並ぶ世界都市に発展しています。ドーハでは外国人が土地を所有することが認められていませんでしたが、21世紀に入って人工島を作る計画が持ち上がり、2004年に工事が始まりました。一部は外国人も所有が認められている最初の人工島は「パール」と名付けられました。

 

「カタール国立博物館」の特徴

 

海沿いの広大な公園の中心に「カタール国立博物館」が建設されています。設計者のジャン・ヌーヴェルは、近隣で採取できる「砂漠の薔薇」を思い浮かべてこの建物のデザインをしました。「砂漠の薔薇」を知っていれば一目でそれとわかる美しい姿をしています。庇や壁を弧を描く白いコンクリートで複雑な形になるように互い違いに組み合わせてあります。それぞれの円盤もインターロッキングと呼ばれる工法で、様々な大きさの部品が組み合わされて作られています。インターロッキングとは、ブロック舗装などでよく見られる施工法で、互い違いに組み合わせて強度を上げ、結果的に広い面に模様が付けられています。「カタール国立博物館」の場合は、それに加えて部品の向きを変えることによって壁や庇の強度を更に上げる効果もあります。幾何学的な形の部品を組み合わせて弧を描く形になっていますが、つなぎ目は少し色が違うので、陶磁器に見られるひび割れ模様のような貫入(かんにゅう)のように見えます。外壁の仕上げはドーハ近隣で採掘されている石膏を使ったスタッコ(漆喰)仕上げが施されています。石膏は「砂漠の薔薇」を構成している重要な鉱物の1つで、白く美しいものはアラバスターと呼ばれ、古来より高級な調度品などで珍重されています。この建物は外観と同じく館内も複雑な形になっていて、一番の特徴は垂直が無い事です。内壁は規則性のない上向きや下向きに作られ、床も一部はわずかに傾斜しています。

「カタール国立博物館」のまとめ

 

2019年に完成した現在の「カタール国立博物館」は2代めの国立博物館です。初代の博物館を取り囲むようにして建設されています。「カタール国立博物館」を建設する時に、初代の建物も同時進行で修復されています。地元で採取される、過酷に見える自然が作り上げた美しい形を模した建物に、同じく地元で採掘される鉱物で仕上げられた「カタール国立博物館」は、建設場所の歴史や環境を考慮した建物を作ると言う設計者の思いが花開いたと言っても過言ではないもかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。