「クッゲン」のご紹介
誕生日やクリスマス、お祝い事に贈る品物を入れるプレゼントボックスのような形と色をした建物が北欧の港街に建っています。意図した形ではなく、様々な要件を受け入れた結果の形が大きな円筒形の建物になりました。現地の言葉で「歯車」を意味する「クッゲン」は大学の施設として、卒業生の建築家が手掛けた建物です。
「クッゲン」の設計者
「クッゲン」を手掛けたのはスウェーデン人のイェルト・ウィンゴーです。彼は1951年に、スウェーデン南部の西イェートランド地方のセメント工場を経営する父親の元に生まれました。セメントの原料となる石灰岩で覆われた山の上に家があり、その環境は後の建築家としての彼の作品に影響を与えています。10歳の頃にヨーテボリに引っ越しましたが、一人っ子として田舎で育ってきた彼は大都市の生活にはなかなかなじめなかった様です。しかし、その街で芸術や映画に興味を持って、美術史を学ぶために最初の大学に入りました。その在学中にイタリアのローマに旅行して、そこで目にした神殿や街の古い建築物に大きな感銘を受けたようです。帰国した彼は、建築を学ぶために別の大学に入学しました。ローマの神殿を見るまで彼は将来の希望として、美術ギャラリーの経営をしたいと希望していました。大学を卒業して数年は国内の建築事務所で働いていましたが、1977年に自らの建築事務所を開設しています。彼の建築理念の一つに「建築は芸術」と言うのがありますが、子供の頃に芸術に興味を持ち、それについて学んだ事がそのまま引き継がれているのではないでしょうか。現在は国内3つの街にオフィスがあり、200人以上のスタッフと共に多くのプロジェクトを遂行しています。
「クッゲン」の所在地
「クッゲン」が建っているのはスウェーデン王国第二の都市、ヨーテボリ(イェーテボリ)のヒジンゲン島です。ヨーテボリはスウェーデンの南部にある都市で、カテガット海峡を挟んだ対岸にはデンマークのユトランド半島があります。緯度の高い所ですが、暖流のメキシコ湾流が流れている為に冬季でも極端に気温が下がることはなく、1月の平均最低気温はマイナス1度くらいです。この街の大半はヒジンゲンと言う島で、国で一番水量の多いイェータ川が二つに別れて、その川に挟まれる形になっています。ヒジンゲン島は国で5番目に大きい島ですが、島と言うより中州のような地形になっています。島の名前が初めて記述されたのが13世紀で「本土から切り離された島」と言う意味があるようです。比較的平坦な地形で、標高の一番高い所は島の南部にある海抜が100mに満たない丘です。この島には北欧最大規模の港であるヨーテボリ港があり、第二次世界大戦後には世界でも最大規模の造船施設がありましたが、1979年に全て閉鎖されています。また、有名な自動車メーカーの「ボルボ」発祥の地で、この島に本社と工場があり、ボルボ博物館もあります。ヨーテボリは大都市ではありますが、農場や森林もあって、ヒジンゲン島には市内で最大の自然公園があります。
「クッゲン」の特徴
歯車と言う意味の名前が付けられている「クッゲン」は、外観の形はもちろん歯車の動きも見られる建物です。2011年に完成したヨーテボリにあるチャルマース工科大学が所有する地下1階、地上5階の建物です。多くの特徴がある建物で、色も形もそれぞれ理由があります。まず、円筒形で上の階に行くに従って床面積が大きくなっています。つまり、下の階より上の階が広いと言うことです。上の階が下の階の庇のような役割を果たすためで、建物の南側がより広く張り出されています。これは、直射日光が入りすぎないようにするためで、最上階には太陽の動きに連動している、網状になっている金属製のスクリーンが取り付けられています。加えて、平面図で見ると分かりやすいのですが、外側がギザギザな形になるように窓が取り付けられています。次に、窓は上部が広い三角形であることです。直射熱を防いでも屋内が暗くなっては意味がありません。この形にしたことで窓際だけでなく屋内の奥にも自然光が届くようになっています。外壁はいわゆるタイルのような物で覆われています。数千年前と同じ工程で焼かれた6色の赤系と2色の緑で色分けされています。外壁にこの素材が使われたのは、非常に耐久性が高いことが理由となっています。赤系の色は昔の造船に由来した色と言われています。建物の中央にはエレベーターが1機設置されていて、その周りに螺旋階段が作られています。
「クッゲン」のまとめ
5階建てなのでエレベーターが1機しかなくても、健康に良いので階段を使えばいい。と、設計者は言っています。照明や換気などの設備は人感センサーが取り付けられていて、必要な時だけ動くようになっています。人間にも環境にも配慮していると言える建物です。歯車も軸受け(ベアリング)も数千年前の発明品です。テクノロジーが進化した現代でもこのような部品は物を動かすのに欠かせない物です。しかし、どのように使うかは発展させることができるのではないでしょうか。「クッゲン」に使われている様々な機能はその証拠の一つと言えるでしょう。
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