「リボンチャペル」のご紹介
共に生きてゆこうと決めた、別々の人生を歩んできた2人が結ばれる結婚を具現化した式場があります。人生の中で晴れやかな日の1つに数えられる結婚式を、暖か味のある落ち着いた自然の風景の中で執り行うための場所にふさわしいと考えられた建物が、穏やかな海を見下ろす丘の上に建っています。シンプルな形を作り上げるために、多くの技術が使われた建物が「リボンチャペル」です。
「リボンチャペル」の設計者
「リボンチャペル」のデザインと設計を手掛けたのは東京出身の建築家、中村 拓志(なかむら ひろし)です。1974年に東京で生まれた彼は、多感な少年時代を日本の古い街の代表と呼べる、神奈川県の鎌倉と石川県の金沢で育ちました。東京の伝統ある私立大学で建築を学んだ後に、日本の著名な建築家の1人である隈 研吾の建築事務所に入社しています。3年の間その事務所で建築家としての経験を積み、2002年にNAP建築設計事務所を開設しています。建物の設計デザインだけでなく、それに付随する空間の演出や椅子などの家具、調度品のデザインなど、幅広く手掛けている事務所です。彼は建築のための建築ではなく、目的に沿った建物を作ることを目指していて、一目見て誰の作品か分かるような、いわゆる建築家のスタイルと言うものは持っていません。また、周囲の環境や自然をとても大事にしています。それは、「どんなに素敵な建物でも自然の美しさには適わない」と言っていることからも理解できます。特に「木」を大事にしていて、建設用地に元々生えている木は極力そのままにして、木々に寄り添うような建築を心がけています。子供の頃に秘密基地のようなツリーハウスにあこがれていて、それが建築家を目指すきっかけだったと語っていることからも、木を大切にすることが読み取れます。そのような彼の建築に対する思いは、彼の生み出す作品を見れば一目瞭然と言えるでしょう。
「リボンチャペル」の所在地
「リボンチャペル」は、中国地方の瀬戸内海側にある広島県尾道市の海を見下ろす小高い丘の上にに建っています。尾道市は明治時代にはすでに市政が施行されている古い街で、それ以前も瀬戸内海の海運による物流の拠点として栄えてきました。また、近年では中国自動車道は元より、日本海側と瀬戸内を結ぶ中国横断道、四国と繋がるしまなみ海道の起点や中継点となって、瀬戸内の十字路と呼ばれるようになっています。港町によくある山が海のそばまで迫り出している地形のため、坂道が多く、古い神社やお寺なども点在していて、細い坂道が迷路のように入り組んでいる場所があります。そのような郷愁をそそる町並みと、独特の風景が様々な分野で活躍する人の琴線に触れていました。幾人かの作家がこの街に住み、尾道を舞台にした小説がいくつか書かれていることから「文学の街」と言う異名があります。他にも、映画やドラマの撮影もたびたびこの街で行われていて、「映画の街」とも呼ばれています。映画の撮影地としては、誘致ではなく、製作者がこの地を選んでいることが特徴的です。最近では、曲がりくねった細い坂道を逆手にとった観光地として有名になっています。例えば、海沿いであったことから元々たくさんの猫が住んでいましたが、坂道と組み合わせた「猫の細道」と名付けられた新しい名所があります。
「リボンチャペル」の特徴
「リボンチャペル」はリゾートホテルの結婚式場として2013年に完成しました。名前の通り、くるくると舞うリボンのような見た目をしている、優雅でありながらシンプルな外観の建物です。2つの螺旋階段が絡まることなく、近づいたり離れたりしながら約15mの最高地点で1つになるように作られています。見た目はシンプルですが、自立した建造物となるために様々な仕掛けや工夫が盛り込まれています。この建物は2つの螺旋だけで成り立っています。2つの螺旋は渦を巻く方向が違い、角度も大きくなったり小さくなったりしています。螺旋階段の幅も均一ではありません。それは、螺旋階段そのものが床であり、壁であり、天井や庇でもあるからです。螺旋のうち1つは直径10cmの比較的細い鋼鉄製の円柱が支えていて、もう一方は、事実上支えの無い浮いた螺旋となっています。細い柱が使われたのは、「リボンチャペル」に透明感を与えるためです。螺旋の内側は式場になっていて、柱はガラス壁を支える役割もあります。2つの螺旋は、4個所の近づいた場所で連結されることによって強度と安定性を上げています。外装は海からの潮風に耐性のあるチタンと亜鉛の合金が使われています。この金属板はアルミのような色合いをしているため、リボンの部分が白っぽい色合いに見えます。地震に対しては建物の構造上、耐震が使いにくいことから、地震の力が伝わりにくい免振構造が採用されています。
「リボンチャペル」のまとめ
優美で優しい印象のある「リボンチャペル」ですが、よく見ると不思議な感じのする建物です。まるで宙に浮いているような印象もあって、なぜ自立できているのかわからない建物です。建築物に螺旋が使用されている例は世界にいくつもありますが、螺旋が主体となっている建物は他にはありません。しかも「リボンチャペル」は2重の螺旋が使用されていて、このような構造の建物は世界初となっています。穏やかで美しい風景に添えられた「リボンチャペル」には、水に浮かぶ優雅な白鳥の水面下で水を掻く足と同じような働きを持つ技術や工夫があります。
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