「バンブー シンフォニー」のご紹介
建築家にとって自身の住居や仕事をする場所を建設するのは、楽しくもありますが、より一層緊張する案件ではないでしょうか。事務所や社屋であれば、その建物そのものが建築家のもう一つの顔になり、実物大の広告塔でもあります。インドの都市に拠点を置く建築家は、自身の一番得意とする素材を使用してオフィスを建設しました。「バンブー シンフォニー」は名前の通り、竹をふんだんに使った、しなやかな雰囲気のある建物です。
「バンブー シンフォニー」の設計者
「バンブー シンフォニー」の設計やデザインはインドの建築家、ニーラム・マンジュナスが担当していて、彼女が率いる「マナサラム・アーキテクツ」の社屋として建設されました。彼女は、国の北部の中央付近に位置するラクナウの大学で建築を学び、イギリスの大学で経営を学んだ後の1991年に建築家として「マナサラム・アーキテクツ」を創設しました。始めは首都のデリーに事務所を置いていましたが、1年後にインドの地理的な中心と言われるナーグプールに事務所を移し、1994年に現在のベンガルールに拠点を置きました。彼女は建築材料として自然素材をよく使用しています。特に竹に対しては強い関心を持っていて、学生時代には建築に竹を使用することに興味を抱いていたと言っています。しかし、彼女が初めて建築物に竹を使用したのは、事務所を開設してから8年が経ってからでした。それ以降、建材に竹をふんだんに使うようになりました。竹は成長が早く、特に筍として地上に現れてから竹になる間に吸収する二酸化炭素の量は、他の植物の数倍から数十倍になります。彼女は近年の地球環境の悪化を憂えていて、建築に関する産業はその悪化の大きな原因と考えています。そのような考えからも、竹は重要な役割を果たすと説いてます。加えて、成長の早い竹は、農業の収益も上げることができ、雇用の促進にも役立つと言っています。
「バンブー シンフォニー」の所在地
「バンブー シンフォニー」は、インド共和国の中でも古い歴史を持つ都市の1つであるベンガルールに建設されました。この街の名前が初めて歴史上に現れたのは、9世紀に刻まれた石碑でした。しかし、それ以前にも人々が暮らしていた痕跡が見つかっています。およそ6千年前と思われる、複数の集落などの跡が見つかったのは21世紀に入ってからでした。また、紀元前30年頃と推測される遺跡からはローマ皇帝の顔が刻印されたコインが見つかっていて、内陸のこの地でもその頃には現在のヨーロッパと交流があったことが推し量られています。ベンガルールの地名は9世紀の「英雄の石」に刻まれていましたが、現在も使われている古い言語で、「護りの地」と言う意味があったようです。また、この地域に薬草にもなる落葉樹が多く生息していて、その樹木の名前が古い言語のカンナダ語で「ベンガ」と呼んでいたことからベンガルールになったとも言われています。この街にはいくつもの別名があります。16世紀になって本格的に都市として建設され、当時のこの地域にあった国の首長が「英雄の地」と呼んでいました。他にも、イギリスの統治時代には街の構造がヨーロッパから来た人々が暮らす地域と、古くからこの地に住んでいた人が暮らす地域に分かれていたことで、「双子都市」とも言われていた時代があります。
「バンブー シンフォニー」の特徴
「バンブー シンフォニー」は自宅と隣り合わせに建設された、設計者が運営するマナサラム・アーキテクツの社屋として建てられました。名称が示す通り設計者の得意とする主に竹を使った、いわゆる平屋の建物ですが、敷地が傾斜しているので段階的に4つのフロアに分かれていて、一番下のフロアが設計者の仕事部屋になっています。骨組みは鉄骨の代わりに適切な処理を施した竹がふんだんに使われています。柱や屋根を支える素材もすべて竹です。屋根はコンクリートですが竹の繊維を練りこんであるため、断熱効果も高く、軽い屋根になっています。また、白い色に塗装されているので、太陽熱を反射する効果もあります。加えて、敷地周辺に吹く風を観測、計算した緩やかに波打つような形状になっていて、強い風を受け流すようになっています。この屋根は屋内を人工的な空調なしで快適に過ごせる役割を果たす一端となっています。また、屋根を支える竹は不規則で、無造作に見えますが、計算されて配置されています。通常の壁は無く、屋根の端を支えている竹の柱と横に桟を取り付けた竹で代わりをしています。このような構造になっている為、日中の人工照明は不要で、風通しもよくなっています。基礎部分は現場で掘り起こされた土や、石が使われていて、床は近隣で採石される大理石の破材が使用されています。敷地の中心に丸い池が作られて、雨水を貯められるようになっています。池や庭はどの部屋からも見えるようになっていて、視覚的にも働く人を支援しています。
「バンブー シンフォニー」のまとめ
「バンブー シンフォニー」の建設にあたっては、建築作業に対して未熟な人が多く関わっています。設計者は、この建物を建設する事をその人達の技術向上に活用したかったようです。竹は適切な処理を施せば非常に長い年月、劣化することはありません。また、しなやかでありながら強靭な素材として活用の場面が増えています。しかし、過去には貧しい人の素材とも言われてきました。竹の良さを広く知ってもらうために設計者は様々な活動も行っています。「バンブー シンフォニー」は、その目に見える形の広告塔であり、名前の通り竹や自然の交響曲でもあるのではないでしょうか。
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