多治見市モザイクタイルミュージアム(Mosaictile Museum Tajimi)

「多治見市モザイクタイルミュージアム」のご紹介

 

鎌倉時代に始まったとされる美濃焼は、色、形共に多岐にわたる日本有数の焼き物です。その美濃焼の産地で、大正時代の頃から続くモザイクタイルの生産が日本一の町があります。その歴史と、様々な作品を展示した「多治見市モザイクタイルミュージアム」は、コロンとした形で田舎の里山を思い浮かべることのできる雰囲気を持つ建物です。

「多治見市モザイクタイルミュージアム」の設計者

 

「多治見市モザイクタイルミュージアム」の名誉館長でもある、建築家で建築史家の藤森 照信(ふじもり てるのぶ)がこの博物館のデザインと設計を担当しました。1946年に長野県の諏訪郡宮川村(現在は茅野市に編入)で生まれ、東北大学で建築を学び、更に東京大学大学院で建築の歴史研究を重ねてきました。元々は建築史家なので、日本の建築に於ける様々な歴史や、近代の西洋建築の移り変わりを研究していくつかの著書も執筆しています。研究仲間と共に「建築探偵団」を結成して、全国の共感する人たちと共同で、昭和以前の洋風建築を調査、研究していました。彼は、地図やカメラを携えて各地の建築物を尋ね歩く事を「路上観察」と呼んでいます。また、業者が請け負わないような建築物を自らの手で作る「縄文建築団」も作っています。建築費用の算出や、どのように施工していいのか見当もつかないような建造物を、仲間や賛同する人達と正に手作りの建物を作っています。彼には、建築史を研究してきた過程で建築に於ける色々な思いがあって、特に人工物である建物に息を吹き込むような、何かの生き物に似た雰囲気のある建造物を作り出しています。建築家として最初の作品は、故郷の街と幼馴染の縁があった小さな博物館の建設でした。それ以来、たくさんのこだわりのある建物を世に送り出しています。

「多治見市モザイクタイルミュージアム」の所在地

 

岐阜県の南部に位置する多治見市の笠原地区に「多治見市モザイクタイルミュージアム」が建っています。笠原地区は2006年に多治見市と合併するまでは、土岐郡笠原町と言う自治体でした。笠原町は大正から昭和にかけて焼き物の町として栄えていて、美濃焼の窯がたくさん作られていました。機械化が進んだ頃には、大量生産が可能になって多くの陶器が海外に輸出されていました。第二次世界大戦の頃には工場も休止状態となっていましたが、終戦後にはモザイクタイルの生産が本格的に行われるようになりました。衛生観念の向上と生活水準が上がってきたことで、昔は木の床だった浴室や台所の流しにタイルが使われるようになったことが要因となっているようです。最盛期には小さな町に100以上のタイル工場が操業していて、生産数は日本一を誇っていました。現在ではタイルの用途も多少変わってきていますが、今でもこの地域で生産されるタイルの質と量は変わらず日本で一番です。また、近年は長い歴史のある焼き物の技術をさらに向上させた、セラミックの研究や生産が行われています。


 

「多治見市モザイクタイルミュージアム」の特徴

 

2016年に開館した「多治見市モザイクタイルミュージアム」の第一印象は様々ではないでしょうか。柔らかな形状の建物は、例えてみれば子供の頃に作ったお団子の山のように見えます。他にも、クリスマスに作られるドイツのシュトレンの断面の様にも、巨大化した繊毛のある微生物を思い起こさせるような印象もあります。設計者によれば、タイル作りに必要な土を採る「採土場(さいどじょう)」をイメージしたと言っています。焼き物作りに欠かせない土を採っている採土場の写真を見れば一目瞭然で、誰もが納得できるのではないでしょうか。小さな窓が点々と並ぶ外壁は黄土色で、屋根の両端には行儀よく並べられた松の木が植えられています。近寄ってみると、外壁にはタイルの欠片が埋め込まれていて、小さな花が散らばって咲いているようです。出入口は小さめのドアがあるだけなので、そこをくぐると童話の世界にでも行けそうな感じがします。中に入ると、第1展示室の4階まで続くほの暗い階段があります。この階段や脇にある壁も、昔の日本家屋に使われていた土とわらを練りこんだ土壁をなぞらえた仕上げになっていて、日本人の原風景を思い起こさせる雰囲気があります。4階の天井には丸い開口部があり、たくさんのタイルの欠片で作られたタイルすだれが印象的です。

「多治見市モザイクタイルミュージアム」のまとめ

 

建物は平らな地面に建てられるのが一般的ですが、「多治見市モザイクタイルミュージアム」は緩やかなくぼみのある敷地の底に据えられたように建っています。よく手入れされた里山の風景に似た敷地に建つ「多治見市モザイクタイルミュージアム」は、やはり何かの生き物のように見えます。近代の日常生活の中で利用されてきたモザイクタイルを懐かしむ人が訪れ、それを知らない人には新しい素材となりうるタイルを使った工作もここでは体験できる施設です。「多治見市モザイクタイルミュージアム」は内も外も楽しい施設と言えるのではないでしょうか。

 

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