三鷹天命反転住宅(In Memory of Helen Keller)

「三鷹天命反転住宅」のご紹介

 

裕福な家庭に生まれながら幼児期にり患した病気によって、聴覚と視覚を失ったヘレンケラーを知っている人は多いのではないでしょうか。後天的に重複障害を持つ身になってもそれを克服し、世界中を回って福祉の重要性を説いて回った彼女に影響された考えを元に建設されたのが「三鷹天命反転住宅」です。「人が死なない住宅」の概念に従って様々な工夫が凝らされている集合住宅です。

「三鷹天命反転住宅」の設計者

 

「天命反転」とは死を覆すことを意味していて、その理念を提唱したのが日本人の荒川修作とアメリカ人のマドリン・ギンズです。荒川修作は、1936年に愛知県の名古屋市でうどん屋を営む両親の元に生まれた芸術家です。愛知の高等学校で美術を専攻し、武蔵野美術大学に入学しましたが、中退しています。その後に1960年に半年間ほど活動していた、日本の前衛的な芸術家のグループに参加していました。そして、1961年にアメリカへ渡り、ニューヨークに移住しました。渡米後間もなく、公私ともにパートナーとなるマドリン・ギンズと出会いました。マドリン・ギンズ(マドリン・ヘレン・アラカワ・ギンズ)は、1941年にニューヨークで生まれた詩人で哲学者です。地元の大学で物理学と哲学(特に東洋哲学)を学びました。彼女は、ニューヨークの美術館で絵画を習っていた時に後の伴侶となる荒川修作と出会いました。彼らは元々芸術家と呼ばれるような活動をしていましたが、自分たちの理念に沿った物を形にする為に、建築も行うようになりました。1987年に「リバーシブル・ディスティニー(天命反転)財団」を設立して、賛同する芸術家や建築家を巻き込み多岐にわたる活動を行っていました。全く新しい分野を作り出し、優れた芸術家などに授けられる紫綬褒章を受賞した荒川修作は2010年73歳で生涯を終えています。また、数十年に亘り荒川と共に活動してきたマドリン・ギンズも2014年に72歳で病に倒れ人生の幕を下ろしています。

「三鷹天命反転住宅」の所在地

 

東京都三鷹市大沢に「三鷹天命反転住宅」が建っています。三鷹市は東西に細長い東京都のほぼ中央に位置する自治体で、都心に対するベッドタウンとして発展してきました。江戸時代には徳川将軍家の鷹狩の場所、御鷹場(おたかば)でした。この地域には、古くからいくつかの湧き水が出るところがあります。鷹狩に訪れた将軍が、こんこんと湧き出る水を見て名付けたと言われる神田川の源泉である「井の頭」や、「三鷹天命反転住宅」が建つ大沢も湧き水の出る場所が多く、沢がたくさん存在していたことからこの地名になったと言われています。都心(江戸市中)から付かず離れずの程よい距離にあった事で、歴史上の様々な時点で人口が増えてきました。ちいさな村が点在する所でしたが、江戸時代の初期に起こった大火によって焼け出された人々がこの地域に移り住むようになって村が増えていきました。また、大正時代に起こった関東大震災によって被災した人々が移り住み、第二次世界大戦後には都心のベッドタウンとして多くの団地が建設され、この頃に人口が爆発的に増えました。高度成長期に入った頃に市制が敷かれ、三鷹町から三鷹市になりました。現在も武蔵野市にも繋がる「井の頭公園」を始め、市内の随所に公園が整備されていて、自然が多く残されている街となり、「水と緑の公園都市」と言うキャッチフレーズを掲げています。

 

「三鷹天命反転住宅」の特徴

 

「三鷹天命反転住宅」の第一印象は、なんと言ってもカラフルで独創的な外観では無いでしょうか。一見して普通の人が住んでいる集合住宅とは思えない建物です。まず、色使いが大胆で、14色の鮮烈な色が使われています。この建物に入って周りを見渡すと常に6色以上が視界に入るように配慮してあります。最初は誰でも戸惑うようですが、少しすると慣れてきて気にならなくなるようです。1戸の間取りも斬新で、一応4つの部屋が作られています。直径がおよそ3mの球体と、衛生設備の入っている直径が3mで、高さが3mの円筒、畳の敷かれた和室のような部屋と寝室に使える部屋は、1辺が3mの立方体で合計4つに別れていますが、どの部屋にも扉はありません。それぞれの部屋を4隅に設置した直径がおよそ7mの円形で1つの住宅になっています。台所は中央に作られていて、その周りの床はわずかに傾斜したうえで、ゆるやかで不規則な凸凹が作られています。この床は裸足で歩くことを前提としていて、土踏まずを刺激できるようになっています。足の大きさは千差万別なので、凸凹が不規則なふくらみになっています。床が平行ではないので、調度品を置くことはできません。従って収納は全て天井からぶら下げる吊り収納と言う方法が採られています。その為に天井が通常の住宅より高くなっています。球体や立方体など形の違うものを組み合わせた建物なので、不安定になりそうですが「強度は原子力発電所なみ」だと言われています。

「三鷹天命反転住宅」のまとめ

 

「三鷹天命反転住宅」はそこに住む人の五感全てを刺激するように考えられています。日頃はあまり気にしていない自分の体の能力を刺激して、自然に身体能力を上げられるように考慮された「人が死なない家」を煽り文句に建設されました。同じく「天命反転」の概念に沿った公園が岐阜県にあります。設計者の荒川修作とマドリン・ギンズの理念に沿って作られた「養老天命反転地」も意識して歩かないと転倒する可能性もある場所です。「三鷹天命反転住宅」と同じく自分の身体を意識させることを目的としているようです。「三鷹天命反転住宅」は、住人もいることから通常は立ち入りが出来ませんが、定期的に見学会が行われ、2戸は宿泊施設として利用されています。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。