ヴィラ・マシェ(Villa Mache)

「ヴィラ・マシェ」のご紹介

 

別荘は通常の住宅とは違い、日常から離れた時間を楽しむために建てられます。海を見下ろす小高い丘の中腹に建てられたギリシャの別荘は、正に非日常的な外観をしています。エーゲ海に浮かぶ島に建設された、いつの時代のものかわからないような建物が「ヴィラ・マシェ」です。

「ヴィラ・マシェ」の設計者

 

「ヴィラ・マシェ」を手掛けたのは異彩を放つフランス人のヤニス・クセナキス(ヤニス・クレアショー・クセナキス)です。数奇な人生を送った彼は、1922年に当時のルーマニア王国東部の都市、ブライラでギリシャ人の両親の元に長男として生まれました。5歳の時に母親を亡くしましたが、音楽が好きだった両親の影響で、彼も幼いころから音楽に興味を持っていました。10歳になった頃にギリシャの歴史ある寄宿学校で初等教育を受けた後、アテネの工科大学に進学しましたが、戦争によって学業がとぎれとぎれとなりました。土木技師や建築家になりたかったわけではないにも関わらず、大学では土木工学科に入学しています。彼は音楽に大きな興味を持っていて、音楽を視覚化するために数学や建築を学んだようです。学生時代に幾度かの戦争が起こり、そのころに巻き込まれた闘争によって彼は左目を失っています。平和的運動に参加していた彼は、身の危険を感じてアメリカへ亡命しようと試みましたが、途中で立ち寄ったパリに腰を落ち着けました。その頃には兵役を逃れた事によって彼は裁判で死刑を宣告されましたが、ギリシャの政権が変わった時に恩赦を受けています。パリではモダニズムの巨匠の1人の下で建築技師として暫くの間、建築の仕事に関わっていました。78際になった2001年に病気のためにパリで亡くなりましたが、彼の名声は作曲家として方が高く評価されています。

「ヴィラ・マシェ」の所在地

 

「ヴィラ・マシェ」はギリシャ共和国のアモルゴス島に建設されています。この島は、ギリシャとトルコの間に広がるエーゲ海の南部に位置する200以上の島々で構成されるキクラデス諸島に属しています。アモルゴス島は、キクラデス諸島の中でも1番東にある島で、面積は7番目に大きいのですが、2,000人に満たない人口で、周囲に浮かぶ16の小島と共に1つの自治体を構成して、その中心となっています。この島には、地中海に浮かぶ大き目の島々と同じく、およそ5,000年前から人が暮らしていた痕跡があります。島は東西に長細い形をしていて、地形は山勝ちで、キクラデス諸島の中でも3番目に高い山があり、島の周辺にわずかな平野部があります。気候は穏やかで、冬でも10℃を下回ることは少なく、夏でも30℃を越えることがあまりありません。降水量は比較的少なく、冬季に雨が降り、夏季は乾燥しています。島の産業は漁業や農業、畜産が主で、古くから養蜂も行われていました。現在は、第一次産業の他に観光にも力を注ぐようになっています。穏やかな気候と美しい浜辺といくつかのダイビングスポットに加え、古代の遺跡や丘の上に建つ複数の古い風車と、9世紀に建設されたと言われる崖の途中に建つ白い修道院が観光資源となっています。歴史と美しい風景のあるこの島では、複数の映画が撮影されています。

 

「ヴィラ・マシェ」の特徴

 

「ヴィラ・マシェ」は、設計者が画家で彫刻家でもある自分の娘とその夫の音楽家のために建設した島の別荘で、1974年に完成しました。丘の中腹に建てられている「ヴィラ・マシェ」は、4つの小さな建物で構成されています。岩勝ちな山の斜面に真っ白な外壁の建物はとても目立ちます。未知の古代文明の遺跡のようでもあり、未来的な印象もある外観をしています。平面図で見ると曲線が多用されていて、壁は緩やかなカーブを描いています。その壁には真四角の小さな窓と直線的な細い線のような開口部があります。1部の建物には屋根にも細い開口部があり、室内に明かりを提供しています。壁にある切れ込みは、まるで、電子の通り道のような印象を持たせている事で、未来的な雰囲気があります。小さな四角い窓とそれを繋ぐようなカクカクした線は、設計者が音楽家であることから描き出された模様とも言えます。作曲家でもある設計者は、特別な方法で表す楽譜の表記法を利用して壁に模様にもなり、採光窓にもなる切り込みを入れました。切れ込みは屋内から見ると、陽光が細い線に変換されて部屋に独特の模様を追加しています。その光は、時間の経過とともに移動して様々な変化を見せています。

「ヴィラ・マシェ」のまとめ

 

「ヴィラ・マシェ」のそばに道路はありません。徒歩か船でしかたどり着けない、一言でいえばとても不便な場所に建っています。しかし、設計者は建設地の自然環境にも留意して建物を作り出している一面があります。「ヴィラ・マシェ」が、このようなデザインになったのは、設計者が音楽家であったことが大きな要因ですが、「ヴィラ・マシェ」が建つ島に古くから存在する建築物からも発想を得ています。建設地の伝統や環境も重んじているからこそ、このような未来的でもあり古代の遺跡のようでもある建物が生み出されたのではないでしょうか。

 

 

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