「ザ・ウェイブ」のご紹介
ヨーロッパの北部では、氷河期が作り上げた荒々しくも美しい水辺の景色が見られます。フィヨルドと呼ばれる地形は通常の湾とは違い、陸地の奥深くまで海水が入り込んでいます。デンマークにあるフィヨルドの最奥に大きな白波が五つあります。集合住宅の「ザ・ウイェブ」がその波です。
「ザ・ウェイブ」の設計者
デンマークで1925年に生まれたヘニング・ラーセンが「ザ・ウェイブ」の設計者です。デンマーク、イギリス、アメリカの各国の学校で、美術や建築、都市計画などを学びました。いくつかの建築事務所で勤務した後、34歳の時に自らの事務所を開き、コンペと呼ばれる建築設計の競技に積極的に参加して数々の依頼を勝ち取ってきました。このことが、彼の事務所を発展させ、彼の名前を世界に知らしめることになりました。デンマークを拠点としてヨーロッパを中心に数々のプロジェクトをこなしてきた彼は、2001年に私財を投じて若手建築家を応援する「ヘニング・ラーセン財団」を創設しました。基本的にデンマークの建築界を活性化することが目的ですが、近年では世界中の才能のある後進の後押しをしています。彼が亡くなった後も、毎年8月20日の彼の誕生日に有望視される建築家に奨励金を授与しています。ヘニング・ラーセン・アーキテクツは世界の数か国にオフィスがあり、数百名のスタッフが在籍し、2013年に87歳で惜しまれながらこの世を去った彼の後を引き継いでいます。彼らは、「光の達人」とも呼ばれていたヘニング・ラーセンの意志を継いで、光と周りの環境や自然を大事にした建築物を現在も作り出しています。
「ザ・ウェイブ」の所在地
デンマーク王国の南部にヴァイレと言う街があります。ヴァイレ・フィヨルドと呼ばれる長い湾の一番奥にある街です。古くから水運と街道の交差する地域で、交易によって栄え、商業の町として発展してきました。19世紀に開港した現在のヴァイレ港は、歴史と地の利を生かし、首都コペンハーゲンの港に次ぐデンマーク第二の規模を誇る港となっています。中世から近代においては、紡績などの繊維産業や金属加工と言った軽工業がこの街の経済を支えていました。近年では食品産業へ移行し、世界最大級のチューインガムの工場が建っています。また、デンマークが誇る世界でも有数の玩具メーカーであるLEGOが運営するレゴランドが近くにあります。他にも、ヴァイキングが活動していた頃の都が近郊にあり、古代の巨石群が残されていて、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
「ザ・ウェイブ」の特徴
「ザ・ウェイブ」は名前の通り、大きくゆるやかな波の形をした集合住宅で、「ヴァイレの波」とも呼ばれています。最上階が9階の1棟20戸が入り、2009年に最初の2棟が完成しましたが、世界的な金融危機の影響で10年以上も建設が止まっていました。しかし、建設途中にも関わらず、周辺の景観と溶け合うような「ザ・ウェイブ」は、様々な賞を受賞しています。その後、建設が再開されて2018年に5棟全てが姿を現した時には、地元はもとより世界中から賞賛されることとなりました。波打つ外観は、この地域の山々の形状を表しているとも、ユトランド半島の北海側に打ち寄せる波や砂浜を表しているとも言われています。全体に白い色が基調となり、さわやかなイメージがあります。最上階はもとより、各戸に広いバルコニーがあり、多くの光を取り入れるための窓も大きくとってあります。また、壁のように見える波の部分にも窓が作られています。そのことは屋内を明るくする結果となり、光の巨匠と呼ばれたヘニング・ラーセンの作った住宅である証拠とも言えるでしょう。目の前がフィヨルドの最奥である湾になっているので、風のない静かな日には水面に映る反転した姿が白いリボンの様です。「ザ・ウェイブ」の東側にあるヴァイレ・フィヨルド大橋からは建物の全景を見ることができます。建物からは西側に市街地があり、東西によく開けているので見晴らしもよくなっています。
「ザ・ウェイブ」のまとめ
氷河期の置き土産とも言えるフィヨルドは、北欧の海岸線沿いに数多く存在しています。独特の美しい景観を持つもの、経済の発展に寄与した運河の役目を果たしているものと様々です。基本的にフィヨルドでは大きな波は起きません。湾奥に建つ白い大波「ザ・ウェイブ」は、彼方にある大洋を写し取っている建物なのではないでしょうか。
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