「ザ ネスト」のご紹介
背景に溶け込むような色合いを保護色と言って、ある種の生き物は自らの身を護るために周囲の色や模様に似せた体表をしているものがあります。アフリカの乾燥した大地に建設された建物も、ある意味では保護色になっています。周りの自然の風景に負担をかけないことが、その建物を作る時の条件の1つになっていました。「ザ ネスト」は比較的大きな建物ですが、周囲にある砂と似た色合いと風合いのある建物です。「ネスト」とは、寄り添うという意味があります。
「ザ ネスト」の設計者
「ザ ネスト」のデザインと設計を手掛けたのは、南アフリカ出身の芸術家です。ポーキー・ヘファーは1968年に南アフリカで最大の都市、ヨハネスブルグで生まれました。彼は、立法府のあるケープタウンの工科大学で、グラフィックデザインを学び、広告の会社で働いていました。広告の現場で様々な部門を取りまとめる地位についていて、数々の作品を送り出していました。活躍していた広告業界で様々な賞を受賞していて、会社での地位も高くなっていました。しかし彼は、地位が高くなると自分の思い通りの作品が作れなくなると感じて、広告の場から去ることを決めました。2007年に独立して「アニマル ファーム」というデザイン事務所を開設しています。翌年に創設された、主にアフリカの芸術家の作品を展示、販売するギャラリーが初めて開催した展示会に参加しています。アフリカと言う多くの生物が暮らす大地に生まれ育った彼は、昨今の環境悪化を憂えていて、人間が環境に与える悪影響を少しでも減らすための活動を行っていて、数々の作品にもその意図がうかがえます。また、彼の作品は、現代社会に問題を投げかけるような意味を持つ物が多く、様々な所で作品を披露し、高い評価を受けています。2011年にはデザイン事務所の名称を「ポーキー・ヘファー デザイン」と改名して、アフリカの伝統と技術を重要視した作品を生み出しています。
「ザ ネスト」の所在地
「ザ ネスト」は、アフリカ大陸の南西に位置するナミビア共和国のソーサスフライと呼ばれる独特な砂漠地帯に建設されました。ナミビアは数カ国と国境を接し、国の西側は大西洋に面しています。国土の面積は日本の2倍より少し広く、人口は大阪市と同じくらいなので人口密度は世界の国の中で2番目に低くなっています。国土のほとんどが乾燥地帯になっていて、海岸沿いは国の名称の元であり、世界で最古と言われるナミブ砂漠が広がっています。ナミブ砂漠は沿岸部では酸化した鉄分が多く含まれているため、オレンジから赤い色をした砂が多く、内陸部になると、砂利で覆われています。また、大西洋からの強い風の影響で海に近い所には砂丘が形成されています。砂丘の中には、高さが数百メートルで、長さが数十キロに及ぶ巨大なものも見られます。この砂漠は世界遺産に登録されていますが、それ以前から大部分が国の保護区に指定されています。「ザ ネスト」が建つソーサスフライは、ナミブ砂漠の中央から少し南に寄った場所にあります。この地域には内陸の山間部で降雨があった時だけ出現する2つの川があって、ソーサスフライのフライは、この地域の古い言葉で「湿地」を表しています。赤い砂とわずかな植物が作り出す風景は、ある種の魅力があり、いくつかの映画の撮影場所に使われています。
「ザ ネスト」の特徴
計画から出来上がるまでにおよそ8年の歳月が必要だった「ザ ネスト」は、2018年に完成しました。最寄りの町まで100km以上あり、1番近い都市までは500kmも離れている所が建設地です。近辺には砂とわずかな植物しかないところで建物を作る事は至難の業でした。通常の建物を作ろうとしたら、建設資材は500km以上の距離を輸送しなくてはなりませんでした。加えて、依頼者も設計者も建設地の風景を乱したくなかったことも、建設用の資材のほとんどを近隣で入手できるものにした理由となっています。3階建てでかなり大型の建物ですが、大きな屋根が茅葺になっていることで、周囲の赤い砂と同化して大きさを感じさせません。円形を基本とした形で、中心から不規則な放射状に伸びた屋根はふわふわした印象があります。このような形状になったのは、この地域にだけ生息しているハタオリドリの1種の大きな巣から発想を得ています。枯草を編んで木の枝にぶら下がるように作られた大きな巣では、小さな鳥たちが集団で生活し、雛を育てています。壁は内側も外側も屋根と同じく茅葺になっていて、まるで繭の中にいるようだと設計者は語っています。建物の基本は鉄筋が使用されていて、下部の壁には建設地の周辺で採取された石と川砂でレンガが作られて、その上に近隣で採石された花崗岩が貼り付けられています。屋内の床や家具などは国内産の木材が使用されています。
「ザ ネスト」のまとめ
「ザ ネスト」は設計者が初めて手掛けた建物でした。依頼主と共に建設地を訪れた設計者は、その地に似合う建物のスケッチを依頼主に見せたところ、すぐに気に入ってくれたようです。しかし、それを実現できる建設業者を見つけるのに3年がかかりました。建設に取り掛かった後もこの建物は、設計図ではなく、スケッチで作業が続けられました。最新の技術を使用した再生可能な電力と、伝統的な技術が融合した「ザ ネスト」は、その名の通り自然に寄り添う建物と言えるのではないでしょうか。
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