「コソボ国立図書館」のご紹介
世界には長い歴史を持つ都市や街があります。その中には条件の良い場所にあることから、幾度となく支配者が変わった街もあります。支配者が変わるたびに生活様式や宗教が変わり、様々な文化が混じりあうことがあります。バルカン半島にある都市に建設された「コソボ国立図書館」は、いくつかの文化が融合した外観をしています。
「コソボ国立図書館」の設計者
「コソボ国立図書館」を手掛けたのは、1929年に当時はユーゴスラビア王国だった現在のクロアチア東部にあるオシエクと言う街で生まれた、アンドリヤ・ムトニャコビッチです。地元で初等と中等教育を受けた後に、クロアチアの首都であるザグレブの大学で建築を学びました。その後、その頃のモダニズム建築の先駆けとなっていた建築家の元で、さらに建築や都市計画を学んできました。歴史的に重要とされていた建築物の修復に携わったり、国内の古い建物に関するものや、都市計画に対する持論を記した本の執筆を行っていましたが、彼の建築物に対する構想はその当時では革新すぎるものが多く、評価される事は少なかったようです。彼の生み出す作品は、長い歴史の中で育まれた様式と、モダニズムの斬新さをあわせもった建物が多く、中世の建物を修復してきたことが、この地域に古くから伝わっていた建築様式を取り入れる彼の表現方法に繋がっています。また、要所要所が幾何学的なデザインの建物でも、全体を見ると有機的な印象になっている建築物がたくさんあります。彼の作品は、人生の後半になって評価されるようになり、1990年代になってクロアチアの建築家協会から賞を受け、国の学術機関の会員にもなっています。
「コソボ国立図書館」の所在地
「コソボ国立図書館」は、コソボ共和国の首都プリシュティナに建設されています。コソボは、バルカン半島の中央から少し西に寄った所に位置する内陸の国です。国際政治的に少し複雑な国で、現在、国連や欧州連合(EU)などには加盟していませんが多くの国が国として認めています。しかし、正式な独立国家として認めていない国もあります。この国もヨーロッパの国々と同じく、古代より様々な権力者によって支配されてきた歴史があります。首都のプリシュティナは数千年前の住居跡も見つかっていて、大変古い時代から人々が暮らしていたことが分かっていますが、中世までは小さな村でした。プリシュティナの南には古代ローマの都市がありましたが、その都市が放棄された後、次第に大きな街に発展していきました。バルカン半島の西側から東の黒海方面へ通じる道が街を通っていた為に、交通の要所となり、更に街は発展していきました。そのような重要な場所であったことから、支配者が度々変わることになり、紛争に巻き込まれてきました。しかし、その都度、建設された重要な建築物は戦火を逃れ、現在は修復されて博物館などに生まれ変わっています。この街は国の文化の中心でもあり、20近い大小の図書館があり、毎年、大規模な書籍の展示販売会が開催されていて国の内外から多くの出版社が参加しています。
「コソボ国立図書館」の特徴
1982年に開館した現在の「コソボ国立図書館」は一見で図書館には見えない建物です。たくさんのドームが屋根を飾って、建物全体を網で覆ったような外観になっています。四角い箱を積み重ね、それぞれの箱の上に白いドームを乗せて、全体を金網で囲っているように見えます。様々な大きさの99個のドームは半透明の樹脂製で、三角形を組み合わせて半球状の天窓として作られています。ドームは室内に均一の明かりを取り込むために取り付けられていますが、この形状は、かつてこの地域を支配していた複数の国の様式を融合させたものだと設計者は語っています。館内の1番広いホールの床や壁のモザイク模様も、それらの文化を反映したような印象を与える装飾が施されています。床は様々な色合いの大理石が使用され、内壁は白い漆喰の部分と、床と同じくモザイク模様で飾られています。建物そのものはコンクリート製で、外壁をアルミニウムの格子が取り囲んでいます。格子は、六角形と三角形を組み合わせて網のような模様を織りなしていて、無骨なコンクリートの建物全体の印象を和らげています。この格子は装飾の為だけでなく、図書館の性質上、明るさは必要ですが強すぎる日差しは蔵書にとって良くないので、直射日光を遮りながら、自然光を取り込むために取り付けられています。
「コソボ国立図書館」のまとめ
「コソボ国立図書館」の正式名称は「コソボ ピエテル・ボグダニ国立図書館」です。ピエテル・ボグダニは現在のコソボ出身の中世の著名な作家です。政治的に安定していなかったことで、この図書館は開館と閉館、名称の変更や移転を繰り返してきました。「コソボ国立図書館」の意匠については設計者が表明していますが、様々な立場の人が違う解釈をしているようで、論争を引き起こしたこともあります。しかし、古い時代の様式を参考にしたうえで、それらを混ぜ合わせ、設計者独自の意図をこめてデザインされています。「コソボ国立図書館」は、長い歴史の中で育まれた紋様を使いながら、様々な文化を融合させた上で未来的な雰囲気を醸し出している建物ではないでしょうか。
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