氷菊畑の図書館(The Library in Ice-Chrysanthemum Field )

「氷菊畑の図書館」のご紹介

 

古来より、怪我をしたり、病気になったりした時には症状を緩和するために様々な植物が用いられてきました。それらの植物は薬草として人々が知るようになって、生薬や漢方薬として活用されるようになりました。また、薬用茶としてそれらの植物を利用することもあります。中国の神聖な山々の麓に広がる黄色い薬用菊の畑の中に建てられた「氷菊畑の図書館」は、地域の人々が集まれる小さな村のような役割のある建物です。

「氷菊畑の図書館」の設計者

 

「氷菊畑の図書館」を手掛けたのは中国の建築家、チェン・シー(陈曦)です。彼は中国の北京にある国内でも有数の大学で建築を学び、アメリカに渡ってハーバード大学でも建築とデザインを学び、研究してきました。大学を卒業した後の2006年からデンマークのコペンハーゲンに拠点を置く、ビャルケ・インゲルスが率いるBIGで5年間実践を積みました。その後、アメリカのニューヨークを拠点としているスティーブン・ホールの元で更に6年の経験を積んだ後に、ニューヨークでアトリエ・シーを開設しました。2017年に帰国して、香港に隣接する都市の深圳(深セン)にアトリエ・シーの拠点を移してからは、主に中国の農村部に焦点を置いた企画を手掛けています。彼らの事務所は都市部でも地方でも、それぞれの特徴を生かした特有の雰囲気を醸し出す建築物を作り出そうとしています。そして、その1つ1つの建築物が大きさの大小を問わず、世界への広がりに繋がっていくと考えています。アトリエ・シーは、中国は元よりアメリカやヨーロッパでも注目されるようになり、様々な賞を受賞しています。それに加えて彼は現在、深圳の大学で後進を育てるために教鞭も取っています。

「氷菊畑の図書館」の所在地

 

「氷菊畑の図書館」は、中華人民共和国の東部に位置する河南省焦作市(しょうさくし)に建てられています。河南省は中国の大河の1つ、黄河が中流から下流になる場所に広がっています。中国では揚子江を「江」と表し、黄河を「河」と表すことから、黄河の下流域より南に広がるこの地域が河南と名付けられました。焦作市は河南省の中でも北側に位置していて、山西省と隣接しています。黄河は市の南側を流れていて、隣の自治体との境界になっています。この地域は漢民族文化の発祥の地の一つと考えられていて、多くの遺跡や遺物が見つかっていて、古代に於いては「天地の中心」と言われ、世界の中心と考えられていたようです。この街の北側には国内でも重要な山脈であり、神聖な山々となっている太行山脈に含まれる雲台山(うんだいさん)があります。この山の周辺は国内でもトップクラスの景観を持つ景勝地として、街の観光資源となっています。また、雲台山の麓に広がる平野部は、薬草を栽培する広大な耕作地が広がっています。ヤムイモ(長芋)や薬用菊、午膝(ごひつ、イノコヅチ)、地黄(じおう)の4大薬草と呼ばれる薬草が育てられています。中でも黄色い小菊は目に良いとされていて、薬草としてだけでなく、花茶として活用できる特産品になっています。

 

「氷菊畑の図書館」の特徴

 

2021年に完成した「氷菊畑の図書館」は広い薬用菊の畑の中に建設されました。白い小さな箱のような建物が5つ、寄り集まっているように見えます。1方向に高くなっている切妻屋根を持つ簡素な四角い形の5つの建物は、円形の敷地の中心を背にして様々な方向に向けられています。それぞれの箱は、菊茶の試飲ができる部屋、静かに読書を楽しめる場所、小規模な演奏会などが行える小さなホール、農業に関する勉強会などが開催される講座室と倉庫として使われています。5つの小さな建物が思い思いの方向を向いていて、それぞれが独立した使い方がされていますが、全ての建物には接点があり、相互に行き来ができるようになっています。外壁は化粧漆喰と言われる素材で仕上げられていて、屋根も同じ白でまとめられています。平坦な畑の真ん中に建っているので、目につきますが、サイズが小さいことと色が白い事が相乗効果を発揮して畑と融合しているように見えます。また、黄色い菊が咲いているときには白い小さな建物が穏やかな対比を見せてくれます。屋内の本棚や壁、床などは、地元で産出する木材が使われていて、外観の白い色を抑える温もりのある空間が作り上げられています。片流れのような屋根の形状を忠実に繁栄した天井が敷地の外周を向いた方が高くなっているため、大きな窓になっています。日中は太陽光が入り室内が明るくなり、夜間は屋内の明かりが菊畑に暖かい光を添えています。

「氷菊畑の図書館」のまとめ

 

「氷菊畑の図書館」の設計者は農村部の活性化の為に建築家として尽力しています。不便な地方の田舎から都市へと人口が流出することを憂えていて、居心地の良い環境を整えることを考えています。それぞれ役割の違う5つの箱が寄り添っている「氷菊畑の図書館」を設計者は小さな村を表現したと言っています。「氷菊畑の図書館」は、静かで心地よい田舎の縮図となっている建物と言えるのではないでしょうか。

 

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