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「ケロッグ・ドゥーリトル邸」のご紹介
1軒の家が完成するまでに四半世紀もかかることは、あまりないのではないでしょうか。依頼者と設計者や建設に関わった人々がこだわりを突き詰めた結果は、「今後このような邸宅は2度と建設されることは無いでしょう」と、ある意味賞賛された建物でした。ハイ・デザート・ハウスとも呼ばれる「ケロッグ・ドゥーリトル邸」は、砂漠の家と呼ぶにふさわしい建物です。
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」の設計者
1934年にアメリカ西海岸に位置するカリフォルニア州第2の都市、サンディエゴで、医師の父の元に生まれたケンドリック・バングス・ケロッグが「ケロッグ・ドゥーリトル邸」を手掛けています。彼の名前は19世紀末に活動していた作家の名前をとって、看護師だった母親が付けました。10代の頃に家族で田舎へ引っ越し、馬に乗ったり、海岸で遊んだり、自然の中で健やかな子供時代を過ごしていました。母親は音楽を楽しみ、学校の演劇の監督などをしていた影響もあって、高校生の頃にはブラスバンドで楽器を演奏して、パレードに参加することもありました。大学に進んだ時には建築を学ぶつもりはなかったようですが、結果的に彼は建築を勉強することにしました。小さいときから模型や箱庭のようなものを作ることが好きで、血縁者の1人に、世界的にも有名なニューヨークのセントラルパークをデザイン、設計した造園建築の父と呼ばれた人物がいたことも、建築の道に進む要因となりました。建築を学び始めた頃に近代建築の巨匠の1人である。フランク・ロイド・ライトを知り、短い間ではありましたが、彼の見習いとして働いていた時期があります。短期間だったにも関わらず、彼が有機建築を目指すことになった多大な影響を受けています。しかし、彼の作品は他の誰の作品とも似通ったところはなく、有機的な建築であっても簡素な印象があり、「シドニー・オペラハウスとイギリスのストーンヘンジを融合させた建築」と評されたこともあります。個性豊かな建物を多く生み出してきた彼は、89歳になった2024年に人生の幕を閉じています。
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」の所在地
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」はアメリカ合衆国の南部に広がる砂漠地帯に建設されています。アメリカの南西に位置するカリフォルニア州の南部には、2つの砂漠が混じり合う場所があります。そこには独特の生態系を育んでいる地域が広がっていて、その自然を守るために1994年に国立公園として制定されたのがジョシュアツリー国立公園です。ジョシュアツリーと呼ばれる固有種の植物が生育していることから、この名前が付けられました。この植物は、国立公園になる以前の20世紀前半には国の保護すべき重要な自然として指定を受けていて、国の所有、若しくは管理する場所になっていました。州で最大の都市であるロサンゼルスから東へおよそ200kmあり、周囲には都市がありません。北側はモハベ砂漠が広がり、南側はメキシコへと広がるコロラド砂漠があります。モハベ砂漠は標高が高く、固有種であるジョシュアツリーが群生しているところがあります。ジョシュアツリーはユッカブレビフォリアと言う植物の別名で、リュウゼツランの仲間に属しています。また、この砂漠には巨岩が積み重なったような形の丘が点在していて、独特の景観を作り出しています。これらの岩山は、岩を上るスポーツのロッククライミングや、それとハイキングの中間のようなスクランブルと呼ばれる登山の手法を楽しむ人々に人気のある場所です。他にも、近隣に都市が無く、人工光の影響がないことから、天体観測に適した場所であるダークスカイパークにも指定されています。
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」の特徴
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」は、1993年に建物そのものの基本的な部分が完成しました。その外観は様々なものに例えられています。砂漠に埋もれた古代生物の化石とか、宇宙から飛来した未知の文明の宇宙船など、見た人によって印象が変わっています。「ケロッグ・ドゥーリトル邸」は、ジョシュアツリー国立公園のすぐ北側にある岩山をそのまま利用して建設されました。岩山の地形にあまり手を入れないで作られているので、いくつもの岩がそのままの状態で屋内の装飾となっています。基本の柱や屋根の構造は、コンクリートが使用されています。合計で26本の柱はこの建物の重要な要素です。それぞれの柱は地面からおよそ2mの深さに撃ち込まれています。地面から立ち上がった柱は、そのまま花開くように滑らかな曲線を描いて屋根として広がっています。細長く不規則な形の形状で、それぞれがわずかづつ重なり合っています。その形は、香木で作られた扇の要を外してすこし分解させたような形にも見えます。屋根には少しづつ隙間があって、その隙間にはガラスがはめ込まれています。屋根と天井が一体化していることで、日中は照明を必要としません。屋内は曲線を多用していて、設計者の得意とする有機建築の様相を見せています。床は滑らかな石畳で、広大な敷地に露頭している巨岩と同じく、不規則で自然な形に見える花崗岩で敷き詰められています。その石畳は、そのまま立ち上がって壁の1部にもなっています。
「ケロッグ・ドゥーリトル邸」のまとめ
建設地を完全に整地することはなく、ゴツゴツした大きな岩を移動させることもなく、自然そのままとも言える「ケロッグ・ドゥーリトル邸」は、無機物である岩石と同化した建物ですが、究極の有機建築と言える建物ではないでしょうか。
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