ザ・ドックス(The Docks)

「ザ・ドックス」のご紹介

 

都市には多くの人や企業が集まってきます。それは、周辺の町でも似通った傾向になることが多々あります。都市では経済活動が活発になり、周辺の自治体にも影響を及ぼします。しかし、その活動の方向が変わり、先に影響を受けるのは近隣の町です。町の活力が減ってきたときに自治体や住民は活性化に務めますが、その方向は様々です。ヨーロッパの都市に隣接する町は、まず居心地の良い住宅を作ることが重要と考えました。再開発地区に建設された集合住宅の1つは建物に菜園が付属しています。その住宅、「ザ・ドックス」には建物に庭もついています。

「ザ・ドックス」の設計者

 

「ザ・ドックス」を手掛けたのはフランスの建築事務所、アトリエ デュ・ポンです。この事務所は、フランス人建築家のアンヌ=セシル・コマール(1964年生まれ)とフィリップ・クロワジエ(1967年生まれ)、ステファン・ペルテュジエ(1966年生まれ)の3人が共同で1977年に設立しました。パリにオフィスを構えるこの事務所は、様々な規模の企画を請け負っていますが、彼らは自分たちを「なんでも屋」と称しています。建築設計を行う建築家であることはもちろんですが、家具などの調度品をデザインすることや、その他の室内や屋外のデザインも手掛けています。また、彼らが空間計画と呼ぶ、屋内や屋外での仕事のしやすさや、作業が円滑に行われるような空間の最適化も行っています。それらの技能は相反する事柄もありますが、何事も禁じないという方法で会社を運営していて、それが彼らの成功に結びついています。特定の職種にある古くからの習慣や習わしを一端おいて、素人考えでも柔軟な発想で企画を進めると、新しい解決方法が見つかることがあります。彼らの事務所はそのような手法で評価を得ています。3人で始めた建築事務所ですが、創設者の1人ステファン・ペルテュジエは2014年に48歳の若さでこの世を去り、現在は2人を中心に40人以上の様々な能力を持つ従業員と共に事務所の運営にあたっています。

「ザ・ドックス」の所在地

 

「ザ・ドックス」が建っているのは、フランス共和国の首都パリに隣接するサン=トゥアン(サン・トゥアン・シュル・セーヌ)という町です。この町はパリの北側に位置していて、パリの中心部を流れるセーヌ川が大きく蛇行する最初の場所で、川の右岸に広がっています。この町には世界に誇る催し物があります。19世紀から続く蚤の市です。毎週、土曜と日曜、月曜の3日間、2,000店以上の骨董や美術品、様々な品物を扱う店が集まり、1年間に500万人が訪れる世界最大規模の市となっています。町の歴史は古く、5世紀頃から8世紀頃までの約300年間、現在の中央から西ヨーロッパまでを支配していた王朝の時代で王家の別荘が建設されたと記されています。近代の19世紀の前半にはセーヌ川に港が開かれ、そのころすでに都市だったパリに向けての物資を輸送する重要な拠点となって、経済活動が活発になりました。その時に鉄道も敷かれ、輸送路ができあがったことから工業地帯となってきました。フランスの大手自動車企業の工場などが建設され、町はにぎわうようになりました。しかし、20世紀後半になると都市部での工場運営が難しくなって、工場の移転により産業の空洞化が進みました。広い工場の跡地を活用するために、21世紀に入って再開発事業が進められています。

 

「ザ・ドックス」の特徴

 

2015年に完成した「ザ・ドックス」は、90戸の住宅が入る菜園付きの集合住宅です。この建物は、20世紀には工場地帯だった場所の再開発として、自治体が進める大がかりな企画の1部です。建物の基本はコンクリート製の白と灰色をしていて、以前、このあたりに建ち並んでいた大きな工場の印象を受け継いでいます。しかし、その建物にはいろいろな新しい趣旨が盛り込まれています。まず、外観に見られる明るく濃い色合いの朱色に近いオレンジ色です。通常のパンチングメタルより大き目の丸い穴がたくさん開けられたパネルが外側通路やテラスの柵になって、同じ色の鉄製の柱と屋根にあたる部分の桟と共に建物に彩を添えています。次に、近年見られる植栽を施した建物であることが挙げられますが、「ザ・ドックス」に植えられている植物は鑑賞用のものではなく、野菜が作られていることです。6階建てのこの建物は不規則な作りになっていて、屋上がいくつもあり、ウッドデッキに囲まれた畑が複数作られています。設計者は都市には空き地が少なく、家庭菜園を作る隙間もないことを憂えていて、建物の開いている部分である屋上を畑として利用することを思いつきました。深さが約40cmで作られた畑は、通路や畑の仕切りに木材が使用されていて、洗練された都会的な畑がつくりあげられています。

「ザ・ドックス」のまとめ

 

食事をとるときに栄養バランスを心がける人は多いのではないでしょうか。そのうえで野菜は食事の器に彩も添えられます。自分で育てた作物は、小さなものでも一味違う満足感も与えてくれます。高層建築物でも近年では緑に覆われたものが建設されています。地球や街の環境のためにも少しは役立つグリーンビルですが、そこに菜園を取り入れようと思いついたことは画期的な考えで、何事も柔軟な思考は色々な形の解決策を生み出せるという良い例となっています。

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