「タラガオン博物館」のご紹介
長い歴史を持つ街に新しいものを加えることには勇気が必要となるのではないでしょうか。地球の屋根へ向かう入り口の街は千年以上も前からこの地域の中心でした。その街に初めて建設されたモダニズムの建物は、斬新な形と異国風の印象がありますが、違和感なく街になじんでいます。現在は博物館となっている「タラガオン博物館」は、異国の才能ある芸術家や探求心あふれる学者のための女性専用の宿泊施設として建設されました。
「タラガオン博物館」の設計者
「タラガオン博物館」は、ネパールの教育者であり、社会活動家でもあった女性が、当時、国連のネパール政府顧問としてカトマンズに滞在していた、建築家のカール・プルシェに依頼して建設されました。カール・プルシェは、1936年にオーストリアの西部にある都市のインスブルックで生まれました。首都ウィーンの美術アカデミーで建築を学んだ後にアメリカへ渡り、ハーバード大学で都市計画を学びました。大学を卒業した後に、彼はそのままアメリカで建築家としてニューヨークの事務所で働いていました。数年間の実務経験を経て、国連から都市計画の専門知識と経験を買われ、1964年にネパール政府の顧問となりました。ネパールでは地域の活性化や、首都カトマンズの都市開発の計画を進めていました。その間、カトマンズの歴史ある建築物などをユネスコの世界遺産に登録するために尽力し、多くの建物を文化遺産として登録することができました。カトマンズに滞在していたころに、自らの建築事務所も開設していて、ネパールの伝統に西洋の現代建築を加える試みを行っています。ネパールでの国連の仕事を終えた後に故郷のオーストリアへ帰国して、母校である美術アカデミーで教鞭を執り、3年間は学長も勤めました。学長を退いた後も、後進を育てる為に教壇に立ち、自らの経験と研究の成果を執筆しています。
「タラガオン博物館」の所在地
「タラガオン博物館」は、地球の屋根と謳われるヒマラヤ山脈の南に位置するネパールの首都カトマンズに建てられています。カトマンズの歴史は大変古く、神話や伝説が書かれた古代の本によると、この地には古代の文明が栄えていたと記されています。それは、考古学的な発掘によって、2,000年以上前の古代文明の痕跡が見つかったことにより確かめられています。カトマンズの名称は、街の広場に建つ木造の大型建築物に由来しています。3階建ての寺院を含む複合的な建物で、「木の家」と言う意味を持つ名前の建物です。伝説によれば1本の木から作られたとされていますが、実際に全て木で建設されていて、金属の釘なども使われていません。何度か立て直されていて、近年では2015年の地震で大きく損壊しましたが、すぐに再建されています。この街は名実ともに国の中心で、地方の山岳部や農村部に住む人々は、カトマンズに行くことを「ネパールに行く」と言っているようです。ヒンズー教をはじめ、仏教や太古から信仰されてきた宗教が入り混じった文化があり、複数の宗教の聖地が数多く存在しています。そのため、独特の文化が育まれ、多くの寺院が建てられていて、現在は大きな観光資源と建っています。加えて、ヒマラヤ山脈への登山に向かう入り口としての機能も持っています。
「タラガオン博物館」の特徴
「タラガオン博物館」は、1974年に西洋から訪れる女性の芸術家や学者のための宿泊施設として建設されました。カトマンズで古くから暮らしている人々が暮らす建物の建築方法と、ヨーロッパの建築方法を融合させた建物で、ネパールで建設された初めてのモダニズム建築と言われています。この地域で古くから建設されていた僧院を参考に、小さな複数の建物で構成されています。僧院は修行僧が寝泊りしたり、旅人のための宿泊施設として建設されていました。使用された建材は、この地の伝統的な作り方をしたレンガです。ダッチアッパレンガと呼ばれるレンガで、高温で焼かれているために色が濃く、光沢を帯びるようになります。その為、建物全体が深味のあるくすんだ赤色をしています。主な建物は横にした筒を箱の上に乗せたような形をしていて、両端に円形の大きな窓が取り付けられています。入り口は、円形の窓の下にあって、大きな鍵穴を連想させる形をしています。また、ピラミッドの1部を切り取ったような直線的な建物もあります。複数の建物を繋いでいる小道や、小さな広場のような敷地にも建物と同じレンガが使用されていて、それぞれの建物と共に一体感を醸し出しています。「タラガオン博物館」は、未来的な印象を持ち合わせた建物ですが、建設されて約50年が経ち、周囲を木々に囲まれていることから古代の遺跡のような雰囲気も漂わせています。
「タラガオン博物館」のまとめ
政治形態が変わったことから「タラガオン博物館」は、宿泊施設から博物館へと利用目的が変わりました。一時は何にも使用されずにいた空白の期間もありましたが、この建物を購入した人物が設計者に依頼して修復が行われました。宿泊施設として20数年使用され、建設からおよそ半世紀が過ぎて新たな施設として生まれ変わった「タラガオン博物館」は、多様な文化が混じり合うこの街を表す象徴の1つと言えるのではないでしょうか。
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