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「泰安セレモニーホール(故郷の月)」のご紹介
秋の風物詩である中秋の名月を人工的に作り上げ、常に鑑賞できるような外見の建築物が中国の山間部に建設されています。旧暦の8月15日の中秋節はアジアの広範囲で様々な行事が行われていて、その日に近い満月を「中秋の名月」と称し、古来より中国ではお月見をする習慣があります。その美しい満月を地上に留まらせているのが「泰安セレモニーホール(故郷の月)」です。
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」の設計者
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」のプロジェクトを手掛けたのは、中国人のZou Yingxi (鄒 英希 ゾウ インシー)が率いるSYNアーキテクトです。彼はドイツのベルリンにある大学で建築を学び、中国の有名な美術系大学で環境デザインを学びました。建築家として活動を始めた最初の頃は、世界遺産にもなっている河南省の石窟のそばに建つ巨大な博物館や歴史ある大学のキャンパスなど、公共の建物などの大規模な企画を手掛けていました。近年は農村部の開発にも着手するようになり、数年で多くの地方創生に関するプロジェクトを成功させています。2015年に北京でSYNアーキテクトを開設し、現在は上海と成都にも事務所を構えて、多くのスタッフと共に、建築に於ける農村部と都市部を繋ぐための計画を推進しています。それに加えて、「カラン文化産業グループ」と言う都市と農村を繋ぐための問題を解決し、様々なサービスを充実させるために、多種多様な業種と手を携えることが出来るようにする組織を作り上げています。彼らの言う地方創生とは、単なる観光だけでなく、文化交流などもできる観光開発や、地方自治体と協力して新しい事を始めるような事です。その中でよく使われる「牧歌的」と言う言葉は、素朴で落ち着いた場所、のんびりできる時間を表していて、田舎の様々な環境を大事にしながら人々を引き付けることが出来るようにと言う考えを示しています。現在彼は、母校や他の美術系大学で後進の為に教鞭も取っています。
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」の所在地
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」は中華人民共和国山東省泰安市の山の中に建てられています。山東省は古くから日本との交流がある地域です。泰安市は山東省の中央部に位置する内陸の市で、道教や仏教の聖地と言われる「泰山(たいざん)」があります。泰山は標高が1,500mほどで、それほど高い山ではありません。しかし、中国にある聖なる山と呼ばれる5霊山の代表となる山で、古代に於いては皇帝が天に即位の報告と治世が平和であることを祈願する「封禅(ほうぜん)の儀式」が行われていました。泰安の地名は、「泰山が安寧なら国も人々も平和である」と言う趣旨のことわざから付けられた名称と言われています。地形は山がちですが、穀物の栽培が盛んで山東省内でも重要な生産地です。他にも、漢方薬の原料となる薬草や、桃や栗などの果樹栽培が盛んに行われています。この地域の主な産業は鉱物資源の採掘が賄っています。硫黄の採掘はアジア圏で1番多く、建材や生薬としても利用される石膏は中国で1番の埋蔵量を誇っています。他にも鉄や銅の鉱石や、石灰岩、花崗岩などの石材、岩塩など多種に渡る地下資源が眠っています。日本との交流の歴史が古くからあることから、泰安市は日本の複数の市と姉妹都市の協定を結んでいて、活発な交流が行われています。
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」の特徴
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」は、いくつもの月の姿を見せてくれる建築物です。2021年に完成した式典やイベントが行われるホールを備えた施設で、中国特有の険しい山々を背景に建っています。「泰安セレモニーホール(故郷の月)」の1番の特徴は名前が示す通り、美しい月を模した建造物です。コンクリート製の複数の円柱に支えられた、水深が約50cmの水盤が屋根の役を果たしています。その水盤の山側の端には半球形の白い構造物が作られていて、水に映る半球と合わせた姿が満月を表しています。日中は青空に浮かぶ半透明の白い月のように見え、夜間は内部の照明によって煌々と輝く満月のように見えます。この白い構造物はコンクリート製で、半球の切り口にはガラスがはめ込まれています。水の上には半球の上半分が浮かび、下半分は水盤の下にあるホールの天井から下がるように設置されています。ホールの天井は、少し歪みを持たせた鏡が張り付けられていて、屋根の水盤と同じような揺らめきを作り出しています。この天井に半球の下半分が映って、ホールにも満月が表れるようになっています。日中は自然光が半球の球の部分に反射してホールを明るくし、夜間はホールの照明が反対に上部の半球を満月に仕立てています。ホールの床には、岩や、土で付近の山々に似せた形にして表面を苔で覆った装飾物が置かれています。
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」のまとめ
「泰安セレモニーホール(故郷の月)」の谷を挟んだ反対側の山には「故郷の雲」と呼ばれる展望台が建設されています。奇岩や急峻な崖のある山間部の集落は、これらの建物をあわせた施設が出来上がった事で多くの人を惹きつけています。「泰安セレモニーホール(故郷の月)」は、自治体の依頼を受けて設計者が率いるグループが、山間部の農村をのどかなまま開発すると言う難しい計画を見事に実行できた証と言えるのではないでしょうか。
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