「種の聖殿」のご紹介
世界中のあらゆるものを集めて開催される国際博覧会は、世界的な条約によって開催が決定されます。19世紀の半ばにロンドンで第一回目が開かれてから、様々な国で政府や民間の主催で行われてきました。2010年の上海国際博覧会の会場には、ふわふわとしたイメージのパビリオンが建っていました。
「種の聖殿」の設計者
自分のことを紹介する時に建築家ではなく、三次元デザイナーと言っているイギリス人のトーマス・ヘザーウィックが「種の聖殿」をデザイン、設計しました。三次元デザイン(3Dデザイン)とは高さと幅だけでなく奥行きも加えたデザインの事で、建築物をはじめとする様々な物に適応できます。彼は、建物の設計だけでなく、家具のデザインや芸術品も作成しているオールマイティな人物です。いくつかの大学で多くの事を学び、卒業後の1994年にオフィスを開設しました。ロンドンに事務所を構えている彼は、2006年には王立英国建築家協会国際賞を受賞し、世界中の多種多様なプロジェクトに参加しています。本国での活躍としては、有名な2階建てのロンドンバスのデザインを変更するためのデザイナーに選ばれています。ロンドン市長が、ドアのない乗降口を再現して欲しいと要請しているようで、新しい型のバスを作るのは50年ぶりだと言うことです。
「種の聖殿」の所在地
2010年に中華人民共和国の上海で開催された国際博覧会のイギリス館として建てられたのが「種の聖殿」です。「より良い都市、より良い生活」をテーマに190の国と地域が参加し、250のパビリオンが建築されました。シンボルカラーは緑とオレンジ色が使われていました。世界各国から訪れた入場者数は7,300万人以上で、1日の入場者が100万人を超えた日もあり、国際博覧会史上に名を遺しました。閉会後は撤去された建物もありますが、そのまま残されているパビリオンもあります。中国館だった建物は再利用され、世界でも有数のコレクションを持つ美術館に生まれ変わっています。また、「上海メルセデスベンツ・アリーナ」は、大型のレジャー複合施設として現在でも多くの人で賑わっています。ここでは有名なアーティストのコンサートやライブも行われています。
「種の聖殿」の特徴
「種の聖殿(seed cathedral)」は、ふわふわとした綿毛か毛玉ように見えるイギリスの展示館です。若しくは、一時流行った「ケサラン・パサラン」みたいな雰囲気がある建物です。角の丸いキューブ状の建物と言うよりは物体で、「たんぽぽ」と言う愛称が公募によって決まりました。2020年までに地球上にある25%の種子を集めるというイギリスのプロジェクトからヒントを受けて造られました。1本が6,7mの棒状のアクリルが約6万本、壁や天井、床を突き抜けて設置されています。屋内側の先端には芥子粒のような小さなものから、ドングリや松ぼっくりのような大きなものまで、様々な種子がおよそ6万種、約25万個埋め込まれています。基本の建物は、床を高くした長方形の単純な形になっています。入り口以外のすべての方向にアクリル棒が突き出ているので、種子から綿毛が生えているように見えます。また、アクリル棒は先端に行くに従って棒の隙間が大きくなるので、少し離れて見ると透明感もあります。日中は外の光がアクリル棒を通して館内に差し込み、夜は館内の照明が外に向かって光ります。アクリルの棒は風が吹くとそよぐようになっていて、正にたんぽぽの綿毛の様です。設計者は、イギリスの小麦畑の小麦が風に揺れ動く様を見て、デザインの発想を得たと言っています。「種の聖殿」の展示物はアクリル棒に封じ込められた種子だけですが、屋内の床の中央部には下を見下ろせるように大きくくり抜いてある場所もあります。天井にもたくさんのアクリル棒が下がっているので、360度種子に囲まれていると言える空間が作られています。
「種の聖殿」のまとめ
トーマス・ヘザーウィックはこのプロジェクトを受けた時に、政府から「人気No5に入るように」と釘を刺されたとのことです。いろいろな事柄を詰め込むより、一つのことに集中したテーマで作るのが良いのではないかとの結論に達し、「種の聖殿」の形と内容になりました。館内は何も置いていない空間だけが広がっていますが、25万個以上の種子が何かを語っていたのでしょう。ニックネームの「たんぽぽ」は外観の見た目と、漢字表記にイギリスを表す「英」の字があることで決まったようです。
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