「司馬遼太郎 記念館」のご紹介
本を読むことが大好きな人にとっては夢のような空間があります。通常の図書館は本を読むためだけでなく、調べ物をしたり、勉強をしたりと様々な目的で訪れます。しかし、「司馬遼太郎 記念館」は純粋に本を読むことが好きな人が訪れている場所と言えます。この建物には、作家の司馬遼太郎が作品を書くために資料などの目的で集めた数万冊の本が所狭しと並べられています。
「司馬遼太郎 記念館」の設計者
「司馬遼太郎 記念館」は司馬遼太郎と同じく大阪府出身の建築家、安藤忠雄(あんどう ただお)が手掛けました。1941年に3人兄弟の長男として大阪市港区で生を受けました。双子の弟は都市計画家で、下の弟は彼と同じく建築家として活動しています。大学などで建築の専門的な教育を受けていない彼は、たったの1年の独学で建築士の資格を取得しているたぐいまれな人物です。高齢者と呼ばれる現在の年齢でも精力的に活躍していますが、70歳の頃にガンが見つかり手術を受けています。その後、もう1度ガンの手術を受け、高齢の域に達していることもあって、それまでがむしゃらに働いていた生活を見直したと言われています。医者の勧めで午後の一定時間を休息にあてるようになって、その時間はそれまで出来なかった読書に使い、様々な本から得られる事柄から新しい発想も生まれているようです。そのような経緯もあったことから、彼は「こども本の森」と言う企画を立ち上げています。子供の活字離れを憂慮して子供向けの図書館を作ることを提言しました。最初に地元の大阪に建設する計画を立て、自治体の賛同もあり、寄付を集めることが出来ました。その後も岩手県の遠野市や兵庫県の神戸市にも「こども本の森」が建設され、更に複数の地方にも建設が計画されています。この企画は自費を投じていますが、子供のころから経済的に恵まれていなかった彼曰く「お金を持っては死ねない」という信念があるとのことです。
「司馬遼太郎 記念館」の所在地
大阪市の東隣に位置する東大阪市に司馬遼太郎の自宅があり、その隣に「司馬遼太郎 記念館」が建設されました。東大阪市は、毎年冬に開催される全国高校ラグビーフットボール大会で有名な「花園ラグビー場」がある街で、1967年に3つの市が合併してできた自治体です。この地域は古代には大阪湾の最奥に位置していて、現在の大和川から運ばれる土砂によって次第に陸地となってきました。そのような経緯から平坦な地形で、湿地帯の多い土地柄でした。そのような地形であることから、昔から幾度も洪水が起きていました。洪水の被害を軽減するために江戸時代に川の付け替えが行われ、干上がった元の川床を利用した綿花栽培が始まりました。「河内木綿」として明治維新の頃まで綿花の栽培と木綿産業が盛んでしたが、明治維新の後に、外国から安価で使いやすい綿花が大量に国内に入るようになってからは、次第に衰退していきました。しかし、木綿産業で培った様々な技術は後世に伝えられ、「ものづくりの街」として再び発展してきました。東大阪市は国内で5番目に製造業が多い街で、工場の密度は日本一となっています。いわゆる町工場と呼ばれる零細企業が多いのですが、高い技術力を持っています。この街は、日常生活に必要な様々な機器の部品から、世界の最先端技術を支える部品など多岐に亘る製品を生み出しています。
「司馬遼太郎 記念館」の特徴
田舎の里山を彷彿とさせる雑木林に埋もれたような印象を持つ建物が「司馬遼太郎 記念館」です。建物は45度で切り取った円の形で、司馬遼太郎の自宅が弧の内側にくるように建設されています。弧の外側は館内の入り口に至る通路があり、建物のコンクリートの壁とそれを覆うようなガラスの壁の間を通るようになっています。一応は地下1階、地上2階になっていますが、半分地下に埋もれた形で、館内のメインになる書棚が設置してある場所は3階分の高さがある広い空間になっています。両方の壁は床から天井まで本で埋め尽くされています。片側には、日本家屋に昔からある収納ができる箱を積み重ねた形状の箱階段が移動できるように設置されています。上方には鉄製の幅の狭い通路が設置されていて、本を探して移動できるようになっています。建物が弧を描いているので、壁に設置されている本棚も内側と外側に向いた緩やかな曲線になっています。そのような形なので、更に本に埋もれるような感覚に陥るような印象があります。また、両側の壁を繋ぐような形の渡り廊下のような場所も作られています。弧を描く建物の東側の端には、様々な四角形をつないだ色ガラスの無いステンドグラスがはめ込まれ、屋内に優しい明るさを提供しています。天井は、設計者が得意とする打ち放しのコンクリートそのままになっています。外観はコンクリートの灰色の地肌がそのままですが、館内の書棚や床は木のぬくもりを感じさせる室内装飾になっています。
「司馬遼太郎 記念館」のまとめ
「司馬遼太郎 記念館」に納められている本は、およそ2万冊です。正に本に埋もれた空間は、本好きには至福の場所ではないでしょうか。作家が良い作品を生み出すために集めた膨大な数の本を、美しく整然と並べることが出来たのは設計者の力量が働いた結果と言えます。無機質のコンクリートの建物ですが、作家の好んだ雑木に囲まれ、自然と人工物が一体化できる事を実証したと言える施設が「司馬遼太郎 記念館」ではないでしょうか。
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