「グーテ小屋」のご紹介
一言で山に登ると言っても登山には様々なスタイルがあります。ハイキングのような軽い山登りから、何日もかけて稜線を歩く縦走や地球の屋根とも言える高峰への本格的なものまで世界中に山を愛する人々がいます。高い山には人工的なものはほとんどありませんが、様々なサービスやサポートを提供する山小屋は登山家にとっては大変重要な施設ではないでしょうか。アルプス山脈の片隅に建つ「グーテ小屋」はちょっと不思議な形をしている山小屋です。
「グーテ小屋」の設計者
現在建っている「グーテ小屋」はスイス人の建築家エルヴェ・デシモス(Herve’ Dessimos)が手掛けました。彼は1953年にスイスの南西部にあるコンテエと言う町で事業家の父の元に生まれました。この町で初等教育を終えてからは、父親に勧められてジュネーヴにある男子のみ受け入れていた寄宿学校で兄弟と共に高等教育を受けました。学校を卒業する頃に父親が彼には建築家に弟には技術者に向いていると助言したそうです。その後、数々の著名な建築家を育てたスイスの工科大学で建築を学び、同時に社会に於ける建築のあり方など都市計画についても研究していました。卒業後はしばらくフリーランスとして働いていましたが、1990年に彼の名を冠したグループHと言う建築事務所を立ち上げました。当時スイス国内は非常な不況に陥っていましたが、ジュネーヴとパリの2カ所にオフィスを構え、建築設計だけでなく建物の建築に欠かせない構造エンジニアリングに重点を置いて他の建築事務所との差別化を図っていたようです。その査証に彼の弟がエンジニアとしてこの事務所に在籍しています。事務所開設の2年後にはイタリアにもオフィスを開設して、様々な分野の専門家と共に事務所の基本理念とする多岐にわたる挑戦と持続可能な開発を目指しています。
「グーテ小屋」の所在地
アルプス山脈の最高峰モンブランを含むモンブラン山塊に「グーテ小屋」が建てられています。モンブラン山塊は全長約46km、一番広い所で幅が約20kmと範囲が広く、フランスとイタリア、スイスの3カ国にまたがっています。モンブランの名称はフランス語で「白い山」を表していて、イタリア語ではモンテ・ビアンコと呼ばれています。この山に登るための一般的な登山口にあたる場所がフランスのオート=サヴォア県にあるサンジェルヴェレバンと言う小さな町で、「グーテ小屋」の所在地もこの町となっています。この町には以前から人が住んでいましたが、辺境の村として細々とした暮らしを送っていたようです。しかし、20世紀の初めころからリゾート地として注目を浴びるようになってきました。モンブラン登頂を目指す本格登山だけでなく、夏季にはマウンテンバイクやパラグライダー、トレッキングなどの山でのスポーツを楽しむことが出来ます。冬季にはフランス国内で3番目を誇る広さのスキー場があり、良い温泉も湧き出ています。オート=サヴォアには、モンブランの下に作られたイタリアへ抜ける高速道路のトンネルのフランス側出入口があります。1965年に開通したモンブラントンネルは約11kmの長さがあり、両国間の流通を円滑にしています。また、世界で始めて冬季オリンピックが開催されたのもオート=サヴォアでした。
「グーテ小屋」の特徴
モンブランに登頂するためにこの地に初めて山小屋が作られたのは1858年にさかのぼります。現在使用されている「グーテ小屋」は2013年に完成した建物で、最初の小屋から200m離れた位置に建てられました。建物自体は地元産の木材が使用された木造で、古来より建てられてきた丸太の柱に梁を渡す日本家屋の構造と基本的には同じ方法で作られています。全体の形が卵を横にしたような楕円で、外壁はステンレスで覆われているので、SF映画に出てくる何かの基地のようです。55カ所あるガラス窓は特殊なガスを封入した3重構造になっているので、氷点下20℃にもなる外の冷気を侵入させないようになっています。大型台風が引き起こす風に引けを取らない強風が吹く場所なので、風の影響に負けない建物にする必要がありました。「グーテ小屋」の形は人が安全に過ごすための、自然に対する必然の形となっています。また、斜面に埋め込まれたように建設されたのも、景観を損なわないようにする配慮がされた為です。しかし、建物の約3分の1は岩から離れて浮いた状態となっていて、70本近い金属の杭が基礎となり建物を支えています。これは、ここで使用される水を雪を溶かして使う為の大きな融雪機を建物の下に設置する為です。「グーテ小屋」で使用される電気は屋根の部分と外壁に設置された太陽光発電で賄われています。このような場所で初めから建設するのは大変な困難がありますが、「グーテ小屋」は麓で大まかな部品に分けて作られ、建設現場で組み立てる方法がとられました。
「グーテ小屋」のまとめ
設計者のエルヴェ・デシモスは、環境に配慮した持続可能な建物を建設する事に重きを置いている建築家です。彼は標高4,000mの場所に作られた「グーテ小屋」の様々なシステムが円滑に稼働していることから、地上でもエネルギー的に自律した建物が作れることを確信したと言っています。「グーテ小屋」の未来的な雰囲気の建物は、奇をてらった為でなく、強風や積雪など自然の脅威を逸らす事を考えた時にたどり着いた形と言えるのではないでしょうか。
コメントを残す