「行間を読む」のご紹介
見る角度を変えると違う絵に見えるカードを見たことがある人はたくさんいるのではないでしょうか。レンチキュラーと呼ばれる方法で印刷されたカードは、角度を変えて見ると違う絵や、絵が動いているように見えます。このような目の錯覚とも言える建築物がヨーロッパの町にある遊歩道のそばに建っています。「行間を読む」と名付けられた建物は、「透明な教会」や「シースルー教会」とも呼ばれる不思議な建物です。
「行間を読む」の設計者
「行間を読む」を手掛けたのは、ベルギーの建築や芸術作品を扱うスタジオのギズ・ヴァン・ファーレンバーグです。この事務所は、ピーターヤン・ギスとアルナウト・ヴァン・ファーレンバーグの2人のベルギー人が運営しています。彼らは共に、1983年にベルギーの中央部に位置するルーヴェンと言う街で生まれ、建築を学ぶために通っていた学校で知り合ったそうです。2007年に共同で開設したスタジオは彼らの故郷であるルーベンにあります。彼らが生み出す作品は、建築のように見えて芸術品だったり、芸術品のようで実は建築物だったと言うようなものを作り出しています。建築と芸術作品の境界を曖昧にして、視覚的な手品のような、誰も思いつかなかった建築物を作っている彼らは、建築そのものに対しても一風変わった考えを持っています。彼らは、いわゆる普通の建物は作っていません。しかし、建築物の基本的な外観などは古くから建設地に伝わる建築物を踏襲していて、一見すると古典的な見た目の建物になっているものがあります。その形に新しい解釈を加えて作っています。建築の実験と実験的な建築物を創造していて、それらの作品は見る人に判断してもらうと、彼らは語っています。
「行間を読む」の所在地
「行間を読む」は、西ヨーロッパに含まれるベルギー王国の北東部のあるリンブルフ州の小さな町に建っています。オランダと国境を接していて、19世紀から20世紀にかけての24年間存在したネーデルランド連合王国の1部でした。そのような歴史から、リンブルフ州はベルギーとオランダの両方に存在していて、それぞれ「ベルギーのリンブルフ」、「オランダのリンブルフ」と呼ばれています。州都のハッセルトから南へ15km弱に位置するボルグローンという町に「行間を読む」は建設されています。1977年に12のちいさな町や村が合併した自治体ですが、古い歴史もあります。ボルグローンの地名は、古い言葉で「木の茂った丘」を表す「ローン」から付けられていて、11世紀には地名が文章で残されています。古代ローマ時代にヨーロッパの各地を繋いだローマ街道がこの地域を通っていて、中継点となる町には教会や邸宅などが作られました。以前は小さなお城もありましたが、現在も残る教会や、今は自治体の庁舎となっている邸宅もあり、庁舎は「伯爵の家」と呼ばれています。保存状態の良い中世の建築物は町の観光資源となっていますが、近代の建物にも重要なところがあります。19世紀に建設された蒸気機関で稼働していた果物のシロップを製造する工場です。現在この工場は国の産業記念物として保存され、1部は見学もできます。
「行間を読む」の特徴
2011年に完成した「行間を読む」は金属で建設された透明に見える教会です。基本的な外観は、この町に古くからある教会の形です。高さが10mで100層の耐候性を上げた鋼板と、それを重ね合わせるために使われた短く四角い筒のような鋼の柱を2,000本使って作られています。コルテン鋼と呼ばれる、腐食性を高めるためにあらかじめ錆を浮かせた鋼が全部で33トン使用されていて、赤錆のレンガのような色になっています。建物を10cm間隔で輪切りにして、厚さ1cmの鋼板を9cmの隙間を開けながら重ね合わせたような作り方です。建物の中に入るための開口部は1個所だけで、窓などの開口部はありません。しかし、柱の位置は綿密に計算されていて、側面にはアーチ型の窓に見えるような所があります。100層分の鋼板は、100枚の平面図の通りに工場で切られた部品を繋ぎ合わせて1枚づつの鋼板に仕上げられています。それを、順番に途中まで重ねられたいくつかの部分が作られて、建設地で更に重ね合わせて組み立てられました。細かく計算された隙間が作られていることから、訪れた人の視点でいくつもの見え方があります。例えば、歩いたり、自転車などでそばを通り過ぎるときに、どの時点でも違う見え方になります。そして、実際に透明になってしまうような場合もあります。設計者は正に行間を読むように、外観だけでなく、内側からの風景も見る人の感性で見てほしいと言っています。
「行間を読む」のまとめ
「行間を読む」は、建設地の州都であるハッセルトにある美術館が企画した公共の場における作品展の一つとして建設されました。設計者は建設地の近隣に建つ古い教会のうち半数が使われないままになっていることを憂えていて、その思いもあって、この建築物を教会の形にしたそうです。また、彼らは建築物と芸術作品の境界を曖昧にすることも活動の理念の一つにしています。「行間を読む」は、物理的にも心理的にも訪れる人に何かを訴えかけることのできる建築物ではないでしょうか。
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