キンタモンロイ(Quinta-Monroy)

「キンタモンロイ」のご紹介

 

現代は多様性に富み、豊かで活発な文明を築き上げているように見えます。しかしその反面、様々な社会的問題が発生しているのも事実です。その様な社会問題に建築で解決できることを試行している建築家が南米にいます。実験的な集合住宅「キンタモンロイ」は、半分だけ作られている住宅です。

「キンタモンロイ」の設計者

 

南アメリカの国チリの首都、サンティアゴで1967年に生まれたアレハンドロ・アラヴェナ(アレハンドロ・ガストン・アラヴェナ・モリ)と、彼が創設した「エレメンタルSA」と言うスタジオが「キンタモンロイ」を手掛けました。建築はサンティアゴの大学で学び、イタリアでは美術史などの研究を重ねてきました。学業を終えた後の1994年に自らの建築事務所、アレハンドロ・アラヴェナ アーキテクツを設立して建築家としての活動を始めました。2001年に創設した「エレメンタルSA」では、社会の様々な問題を解決するための研究や、プロジェクトの遂行を行っています。今までになかった新しい概念を披露したり、実験的な計画を試行したりして建築で解決できることを行っています。住宅の他にも、インフラストラクチャ(インフラ、生活していく上で欠かせない基礎の事。水道や電気、通信、交通など)や公共の福祉や利益などの研究も重ねています。当初は母国のチリだけの活動でしたが、現在はアメリカやメキシコ、スイス、中国で住宅問題の解決に向けた活動を行っています。また、美術史を研究してきたことから、芸術に関する様々な展覧会や展示会の運営にも関与しています。2016年には、100年以上の歴史があり、世界でも最大規模のヴェネツィア・ビエンナーレの総監督を務めています。

「キンタモンロイ」の所在地

 

南北に細長い南米の国、チリ共和国の北部にあるタラパカ州の州都イキケに「キンタモンロイ」が建設されました。地球上で一番乾燥していると言われるアタカマ砂漠の北の端に近い所で、気候は年間を通して熱く乾燥しています。太平洋岸のこの地域は日本と同じく地震が多く、過去に何度も大きな地震によって甚大な被害を被ってきました。太古から人が暮らしていた痕跡が残っていますが、16世紀にヨーロッパからの植民が始まり、19世紀まではスペインの植民地となっていました。19世紀の後半までは隣国ペルーの領土でしたが、硝石の採掘をめぐって東隣のボリビアと3つの国で領土を争う戦いが勃発しました。5年に及んだその戦いにチリが勝ち、イキケ周辺はチリの領土となりました。その結果、イキケはヨーロッパへ硝石を輸出するための拠点となり、港湾都市として大きく発展し、人々の流入も増えてきました。硝石(硝酸カリウム)は黒色火薬を製造するための原料の1つで、食品添加物の原料にもなっている鉱物です。1960年代には硝石の採掘も衰退してきて、鉱山は閉山してしまいました。多くの人が働いていた鉱山や周辺の工場群はそのまま放置され、廃工場となってしまいましたが、2005年に砂漠の真ん中にある廃工場群はユネスコの世界遺産に登録されました。

 

「キンタモンロイ」の特徴

 

「キンタモンロイ」は、「インクリメンタル住宅」の概念に沿った初めての集合住宅として2003年に93戸が完成しました。「インクリメンタル」とは、増加していく、または、増えていくと言うような意味のある言葉で、その名の通り「キンタモンロイ」は、とりあえずの完成の後に部屋が増えていくような作りになっています。昔の日本にあった長屋のような構造の数件の家が繋がった形になっています。他にも、広い敷地に公共の広場も作れるように「コ」の字型に組まれた場所もあります。政府からの補助金で出来るギリギリの設備だけが作られ、後は住民が努力して増やせるようになっています。敷地の面積と建設する戸数を計算して、3階建になりました。一番下はキッチンやトイレなど水回りの設備を必要とする部屋が作られました。2階と3階は半分だけ作られ、半分は屋根も何も作られてなく、そのままだとバルコニーのようになっています。屋外から家に入るための階段と、屋内の簡単な階段が設置されています。屋内は柱と簡単な仕切りがあるだけで、窓もそれぞれの階に一つづつ取り付けられています。そこに住むことになっている人たちは、この半分だけ完成した家の部屋を増やすことが出来ますが、設計者の率いる「エレメンタルSA」がその手助けや助言を受けられるようになっています。

「キンタモンロイ」のまとめ

 

「キンタモンロイ」は大きな社会問題を解決に導くために建設されました。「キンタモンロイ」が建設される前には、広大な土地に不法な住人が多く住んでいました。いわゆる貧困層の人々が住みついた所で、イキケの街としては衛生問題や治安の問題も抱えていました。その人々を追い出すのではなく、安定した暮らしができるように援助するために実験的な集合住宅の「キンタモンロイ」が作られました。結果として実験は成功したと言えるようで、完成当初と現在の姿はずいぶんと違っています。住む人の個性が現れた南国にふさわしい住宅に育っています。この試みが成功したことから、いくつかの国でも住宅問題を解決するためにこの方法が使われています。

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