ティペット ライズ アートセンターのザイレム(PAVILION XYLEM – MONTANA TIPPET RISE ART CENTER)

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」のご紹介

 

丸太を使って建物を作ることは世界中で古くから行われていて、その建設方法のほとんどは丸太を横にして積み重ねています。アメリカの広大な牧草地に作られた芸術作品を展示したり、音楽を楽しんだりする施設にも丸太を使った建造物があります。しかし、その建設は通常の丸太の建築物とは違い、丸太を縦に束ねて使用されています。「ティペット ライズ アートセンター」に建設された「ザイレム」は、丸太で木を表している建物です。

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」の設計者

 

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」を手掛けたのは、アフリカの西部にある内陸の国、ブルキナファソ出身のディエベト・フランシス・ケレです。彼は、1965年にブルキナファソの小さな村で村長の息子として生まれました。父親は長男には良い教育を受けさせたいと考えていましたが、村には学校が無かったことから隣の町に住む叔父に彼は預けられ、その町の学校で初等教育を受けました。学校を卒業してからは、村で大工の見習いとなって、伝統的な建築方法を学んでいました。20歳の時にドイツにある国際的な人材育成を目的とした機関から奨学金を得ることができてドイツへ渡りました。ドイツでは高等教育受けた後にベルリンの工科大学で本格的に建築を学び、大学を卒業してすぐに自らの建築事務所を開設しました。彼は学生時代に故郷の村に学校を作ることを考え、実際に村の住人と共に小学校を建設しました。彼の経歴の中で最初に実現した学校の建設で学業の途中でありながら、国際的な賞を受賞しています。それ以来、故郷の国や開発途上の国での活躍が多く、その地の伝統的な建設方法を組み入れた建物や施設を手掛けています。このような試みに加えて、経済的に裕福ではない、資源も乏しい開発途上の地域で建設される建物に必要とされる様々な設備を持続可能なものにすることも心がけています。彼の取り組みは高く評価され、建築家のノーベル賞と呼ばれるプリッカー賞をアフリカ出身の建築家として初めて受賞しています。

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」の所在地

 

「ティペット ライズ アートセンター」はアメリカ合衆国の北部、カナダと国境を接するモンタナ州にあります。モンタナ州がアメリカの領土となったのは19世紀のはじめですが、合衆国の正式な州となったのは41番目です。州の面積は国内で4番目に広い割には人口が少なく、人口密度がとても低い州です。「ティペット ライズ アートセンター」が開設された場所は州の南部で、隣接するワイオミング州にある世界的に有名な自然公園のイエローストーン国立公園のすぐ北に広がっています。住人が数十人ほどの小さなコミュニティのそばの広大な草原地帯で、広さは東京の南に浮かぶ三宅島より少し狭いくらいの面積を有していて、州で最大の都市であるビリングスから車で約1時間半かかります。州内には多くの山岳地帯がありますが、「ティペット ライズ アートセンター」はその中のベアトゥース山脈の麓にあたります。この地域は、北半球の温帯地域で人の手がほとんど入っていない豊かな生態系が残る「グレーター・イエローストーン生態系」の1部となっています。多くの稀少な動植物が生息していますが、20世紀の後半には生息数が激減した種もありました。近年では生態系を回復させる試みも行われ、中でもオオカミの再導入には大きな成果が現れているようです。加えて、森林の保全にも力がそそがれています。

 

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」の特徴

 

2016年に開設された「ティペット ライズ アートセンター」に「ザイレム」が建設されたのは2019年のことです。「ザイレム」とは直訳して「木質」となりますが、正に木の質感と構造を表す建造物です。この施設の主要な建物とハイキングコースの間に作られた壁の無い東屋のような建物で、腰かけてゆっくりと過ごせる場所になっています。西アフリカの部族に伝わる神聖な建造物の「トグナ」を参考にしてデザインされていて、屋根と柱とベンチだけの建物で、とても開放感があります。基礎はコンクリートで7本の鋼鉄の柱と、屋根の支えとなる六角形の鋼鉄製の骨組みで作られています。建材となっている丸太は、2種類の松の木で、病害虫などによって枯死したり、他の健康な木に病害虫がうつる危険を回避するために伐採された木が使用されています。屋根の形状は自然に波打つような形で、敷地の形状に合わせてあります。束ねられた丸太が六角形の枠に差し込まれて、上から見ると蜂の巣のような形になっていて、柱と屋根の1番外側も丸太で囲まれて鋼鉄の枠組みは見えないようになっています。屋根に差し込まれた木材の長さは、屋根の部分は滑らかになるようになっていますが、天井の部分は不規則に長さが変えられていて、上部から木が伸びているようにも見えます。ベンチも丸太を縦に束ねた形で、背もたれの部分は滑らかに削られています。

「ティペット ライズ アートセンターのザイレム」のまとめ

 

「ザイレム」のデザインの元となっている「トグナ」は、わざと天井を低くした壁の無い建物で、神に祈ったり、話し合いをする所です。天井が低い理由は、話し合いがこじれても立ち上がって争いに発展しないためと言われています。静かな時間を過ごせるようにと、そのままでは捨てられる運命の木で作られた「ザイレム」は、根源は違っても平和を愛し、自然を大事にすると言う意味では、基は「トグナ」と同じと言えるのでははないでしょうか。

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