「アレシア博物館」のご紹介
悲しい事ではありますが、古来より人が暮らしている所では様々な理由で戦いが起こっています。ヨーロッパでも大変古くから人々が暮らし、いくつもの大きな国が栄えては衰退してきました。強大な国が攻めてきた時に、大帝国をてこずらせた人々がフランスの東部で暮らしていました。周りの風景に溶け込む様な建物の「アレシア博物館」は、その戦いの軌跡を記した博物館です。
「アレシア博物館」の設計者
父親が著名な建築家で母親はフランス人のベルナール・チュミが「アレシア博物館」の設計者です。1944年にスイス西部のフランス国境に近いローザンヌで生まれました。父親はスイスの高名な建築家で、現在も世界で活躍する建築家に授ける重要な賞を設けている国際建築家連合の設立メンバーでした。3年ごとに建築に於ける評論や教育に大きく貢献した人物に授ける賞に、父親のジャン・チュミの名前が冠してあります。ベルナール・チュミは、スイス最大の都市にあるチューリッヒ工科大学で建築を学んだ後に、ヨーロッパやアメリカの複数の大学で教鞭をとっていました。1988年にアメリカのニューヨークに建築事務所を構えるまでは、後進の指導と共に、建築に対する様々な考察や理論を発表していました。彼は、建築家や都市計画家としてだけでなく、建築に対する評論や、時としては哲学とも言えるような考えを表しています。例えば、「建築は社会構造を具現化したものではない。その構造に疑問を投げかけて、修正しなくてはいけない物事は修正する。建築は、その為の道具である。」と言っていますが、一般的にこの理論には賞賛と批判が混在しています。また、近年の建築家を目指す若者が、建築物の外観だけを考慮することに懸念を抱いています。「建築はファッションではなく、美しい外観は必要な構造を考慮した結果であって、目的ではない。」とも言っています。
「アレシア博物館」の所在地
「アレシア博物館」が建っているのは、フランス共和国の東部にあるコート=ドール県のアリーズ・サント・レーヌと言う村で、フランス産ワインの代表的な産地であるブルゴーニュ地方に含まれています。この村は、紀元前52年に起こった包囲戦で長い間ローマの軍勢を苦しめたことで有名な所です。古代ローマの時代に於いて最大の包囲戦と言われた「アレシアの戦い」の現場でした。当時の要塞で石造りの部分は今でも遺跡として残っています。また、フランスで最初の英雄と謳われた人物の記念碑もこの村に建てられています。この記念碑はナポレオン一世の甥で、フランスの初代大統領のナポレオン三世の命で19世紀の半ばに建立されました。アリーズ・サント・レーヌの村を含むコート=ドール県の北部には、シャティロネと呼ばれる石灰岩地質の台地が広がっています。フランスで2番目に長いセーヌ川の源流もこの地域にあり、多種多様な動植物が生息する豊かな森林を育んでいます。石灰岩地質の土地はブドウの栽培に適していて、良質なワインを醸造するための良いブドウが生産されています。また、国内でも最高品質の大理石が産出する採石場もあります。
「アレシア博物館」の特徴
飛鳥時代から続く日本の伝統工芸の一つ、小さな木片を繋ぎ合わせて色々な模様を描き出す組子細工を思い起こさせるような外観をした建物が、「アレシア博物館」です。遥かな昔に起こった戦いの記録を残し、様々な出土品を展示している博物館で、2012年に開館しました。直径がおよそ50mの円形で、建物本体はコンクリート製です。周囲はガラスで覆われていて、木組みのカーテンウォールがそれを覆っています。元々カーテンウォールはガラスが割れた時の飛散防止のために取り付けられていましたが、近年では建物のデザイン性を上げる役割も持っています。使用されている木材は、地元に自生しているカラマツが使われていて、近くに再建されている木製の要塞と同じ素材です。建物に対して平行に渡された部分を繋ぐように、斜めの木材が不規則に取り付けられています。かなりの隙間もあるので、屋内から外の様子がよく見えます。屋上には背の低い樹木が植えられていて、その間に遊歩道のような通路が作られています。訪問者はその歩道から360度の風景を見ることが出来ます。屋上に樹木が植えられた理由は、少し離れた小高い場所から見る「アレシア博物館」が風景に溶け込むようにと考えられた結果です。しかし、「アレシア博物館」は存在感も必要とされていたので、遠景からは周囲の地面に擬装されているようになって、近づくに従って「アレシア博物館」が現れるような仕掛けになっているようです。
「アレシア博物館」のまとめ
包囲戦があった広い場所に残された石組の濠の遺跡や、当時のままに再現された木製の要塞と共に「アレシア博物館」が加わり広い歴史公園が整備されました。ジュリアス・シーザーが率いるローマ軍に抵抗した、古代史に於いて最長、最大の包囲戦と記された戦いの記録がここに残されています。強大な軍を相手に自分たちの住む場所を守る為に勇敢に戦った史実は、この地に住んでいた人々の子孫にとって誇れる事柄の一つになっているのではないでしょうか。控え目ではありながら存在感も持ち合わせている「アレシア博物館」は、その象徴と言えるでしょう。
コメントを残す