「瞑想の森」のご紹介
瞑想とは様々な意見がありますが、雑念を払って何も考えずに心を静かにして、自分を見つめなおすことや、祈る事などと言われています。多様な宗教で言葉は違っても同じような事を行っています。近年では精神の安定の為にも、瞑想することは効果があるとされています。近しい人との最後の時間を静かに過ごすという意味合いも込めて「瞑想の森」と名付けられた市営の斎場は、心静かに過ごせるように、ゆったりと自然に包まれるような印象のある建物です。
「瞑想の森」の設計者
1941年に現在のソウルで生まれ、長野県の諏訪湖の近くで育った伊東豊雄が「瞑想の森」を手掛けています。成績が優秀だったことから東京の進学校へ進み、東京大学へ進学しましたが、「昔は神童と呼ばれていても、大人になったら普通の人になっていた」と自分自身で言うように大学では希望する学部へ進むことはできませんでした。そこで、消去法によって、ここなら入れると思った建築学科に進むことにしました。工学部の落ちこぼれと揶揄される所であり、当時は建築にまったく興味を持っていなかったということです。しかし、そこで出会った学生たちと共に議論を交わすうちに建築は面白いと思うようになったそうです。学生時代にわずか一カ月の間でしたが、福岡出身の建築家の元でアルバイトをした経験が建築に対する思いを更に強くしたようです。時間がいくらあっても足りないくらいに凝縮された一カ月だったようで、卒業したらそこで働きたいと申し出たところ、すぐに承諾の返事を貰い、その建築事務所で働くようになりました。その後しばらくはその事務所で働いていましたが、社会情勢などの時代の流れの中で自分の思いとの違いが浮かび上がり、4年で退職しています。暫くは落ち着かない生活が続き、お金は無くても友人たちとの繋がりがあって楽しい時間もあったと語っています。そのような経験を積んだ彼は、建築のための建物ではなく、人のための空間を作っていきたいと考えています。
「瞑想の森」の所在地
愛知県との県境に接する岐阜県各務原市の斎場が「瞑想の森」です。木曽川の北側に広がる街で、中山道にある宿場町として江戸時代にはすでに町となって栄えていました。市の中心部には航空自衛隊の基地があり、隣接したところに航空、宇宙博物館があります。また、川崎重工の航空機工場もあって、航空機産業の街と謳われています。周辺の自治体と共に航空産業の集積地として国から指定されていて、国内の航空機産業の半数以上を担っています。この街には世界に誇れる施設があります。それは、世界最大級規模の淡水魚専門の水族館です。「アクア・トトぎふ(正式には世界淡水魚水族館)」には、日本だけでなく世界中の淡水魚の他に淡水に棲む甲殻類などの水生生物、カピバラ、カワウソなどの哺乳類、ゾウガメを含む水辺で暮らす動物が200種以上、飼育されています。この水族館は、国や岐阜県が運営する複数の施設で構成される複合公園の「河川環境楽園」の中に含まれています。木曽川の河川敷にあたる広い公園内には、河川や水辺の様々な事柄を学習できる施設や、水産や土木に関する研究所など、多くの施設が点在しています。
「瞑想の森」の特徴
「瞑想の森」は木々に囲まれた柔らかな雰囲気を漂わせている白い建物です。コンクリートで作られた緩やかな曲線を持つ外観で、入り口や池に面しているところは透明なガラス壁になっています。屋根は風に舞う白い布のような印象があり、空に浮かぶ白い雲と表現されることもあります。屋根からそのまま続くような柱は、漏斗状になっていて、屋根と壁、柱が一体化するように仕上げられています。12本の柱は天井から流れ落ちる水のような見た目で、複数の部分に分解された曲線をもつ型枠を使って作られています。また、この柱の中心には降った雨水を通すための管が取り付けられているので、柱のある部分は水が流れるように屋根に窪みができるような形になっています。屋根の形状も曲線が多用されているので、複雑な工程で作られています。柱を作った後に、そこから伸びるような形に鉄筋や型枠を使って作られますが、滑らかな形状で均一の厚みにするには、流し込んだコンクリートが固まる時間が早過ぎず遅すぎないようにすることが必須でした。建物の北側には円形の池が作られていて、池に沿うような形になっています。池に面している方に設置されたガラス壁は、全体で1枚に見えるように緩やかなカーブを描いたはめ込みになっていて、屋内と外の境界も曖昧にされています。屋内の壁や床は大理石のトラバーチンが使用されていて、木材のような色合いと独特の縞模様が温もりのある雰囲気を醸し出しています。床には木材を使用した部分もあります。天井や内壁、柱も明確な区切りが無く曖昧になっています。加えて、照明も壁などに隠された間接照明が多用され、建物の形状と共に優しい雰囲気を作り出しています。
「瞑想の森」のまとめ
各務原市は「静けさと自然に帰る」という概念の元で、「瞑想の森」と名付けて斎場と公園墓地を整備しています。以前の斎場のイメージは暗いものが多く、そこを利用する人々の心情をさらに強くするような施設が多数でした。近年では、老朽化などで建て替える自治体も多く、時代に沿った外観にした建物も増えています。2006年に完成した「瞑想の森」も、そこに来る人の心に寄り添える建物になっているのではないでしょうか。
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