マプングブウェ解説センター(Mapungubwe Interpretation Centre)

「マプングブウェ解説センター」のご紹介

 

人類の長い歴史の中では、様々な地域で多様な文明が栄え、多くの国が生まれては衰退してきました。その全てが史実として伝えられているわけではなく、忘れ去られた文明や国もあります。しかし、長い年月が過ぎて再び発見される事もあります。始まりの大陸とも言われるアフリカの南部でも、そのような国が数百年ぶりに見つかりました。「マプングブウェ解説センター」は、遥か昔に栄えたその国で使われていた工法と素材で建設されています。

「マプングブウェ解説センター」の設計者

 

「マプングブウェ解説センター」を手掛けたのは、南アフリカの建築家、ピーター・リッチです。彼は、1945年に南アフリカで最大の都市であるヨハネスブルグで生まれました。両親が建築事務所で働いてことが結果的に彼が建築家になったことに繋がっていますが、若い頃は世界でもトップクラスのアスリートでした。ハードル競技の選手として活躍していて、世界ランク6位になったこともありました。しかし、南アフリカの人種差別を増長する法律に反発した多くの人によって、オリンピックの出場を拒否したりするスポーツボイコットや、彼がその法律に対して嫌悪を感じていたこともあってハードル競技は引退しました。国内でも長い歴史を持つ大学で建築を学んでいた頃も、アパルトヘイトに対して彼の考えは変わらず、現在も建築を通して社会問題に取り組んでいます。大学を卒業して、ある建築事務所に勤めましたが、そこでの建築は自分の思いとは違うようでした。彼に大きな影響を与えたのは、アフリカ大陸の南東に位置するモザンビークで活動していたポルトガル出身の建築家でした。また、南アフリカの小さな部族であるンデベレ族の文化に大きな興味を持ちました。この2つの事柄が以降の彼の作品と建築に対する姿勢に繋がっています。

「マプングブウェ解説センター」の所在地

 

南アフリカ共和国の最北部にあるリンポポ州には、数百年前に栄えた王国の史跡が残っています。その王国の歴史と周囲の自然を紹介するために建設されたのが「マプングブウェ解説センター」です。リンポポ州は隣国のボツワナとジンバブエ、モザンビークと国境を接する州です。様々な地下資源が眠る南アフリカの中でも多種多様な鉱物資源があり、プラチナの鉱床は国内最大量を誇っています。豊かな生物相が育まれ、複数の自然保護区が制定されていて、世界でも有数の野生動物が暮らす広大な国立公園があります。「マプングブウェ解説センター」が建っている所も国立公園に指定されていますが、野生動物や森林の保護と、マプングブウェ王国の史跡を保存する目的があります。マプングブウェ王国は10世紀頃から約150年間栄えた、最盛期でも人口がおよそ5,000人だった小さな王国です。長い間忘れ去られていた国でしたが、20世紀になってから、伝説を元に幻の王国を探していた人物に再発見されました。マプングブウェの丘と呼ばれる小高い丘に、石組の建物の跡が見つかり、金で作られた小さなビーズや細工物が発掘されています。周辺には幹の周囲が30m以上あるバオバブをはじめ豊かな植生があり、多種の猛禽を頂点とした400種以上の鳥類が生息しています。また、アフリカに生息する大型哺乳類のほとんどの種を見ることも出来ます。

 

「マプングブウェ解説センター」の特徴

 

マプングブウェ王国に関する博物館と、マプングブェ国立公園の案内を兼ねた建物が2009年に完成した「マプングブウェ解説センター」です。建物の形状は、マプングブウェ王国の中心があったと言われるマプングブウェの丘の景色を写し取った形になっています。最高で高さが14mの10個のドームで構成されている建物で、それぞれのドームは通路でつなぎ合わせられています。20万枚以上のタイルで作られていますが、その為の材料は建設地で賄い、製造もその地で行われました。建設地の土とセメントを混ぜ合わせたソイルセメントをタイル状に仕上げた物を積み上げたり、組み合わせて建設されています。その為に建物の色合いが、周囲の地面の色と同じになり、風景に同化しています。敷地が緩やかな斜面になっているので、丘に点々と転がっている岩のように見えます。屋内はアーチ型の天井の中心部に円形の穴が開いていて、そこから太陽の光が差し込むようになっています。緩やかなカーブを描く天井は色彩と共に、まるで洞窟の内部のようです。失われた王国では洞窟は避難所であり、神聖な儀式を行う場所でもあったようで、その形を再現するような形になっています。建設方法は、発見された遺跡の作り方に近い工法が取られていて、大規模な型枠や鋼鉄の骨組みは使用されていません。

「マプングブウェ解説センター」のまとめ

 

「マプングブウェ解説センター」の建設にあたって、設計者は地元の人々に技能を身に着けてもらうことも企画の一つに入れていました。「マプングブウェ解説センター」が建つリンポポ州は国内でも経済活動が低く、そこに住む人々の収入も少ない地域です。いわゆる手に職を持つと言うことは、収入を得る大きな手段となります。その効果を期待して20万枚のタイル製造と、その組み合わせを地元の人々に指導しました。「マプングブウェ解説センター」は建設地の素材を使い、地元の人の手で完成した、見た目も含めて、正しくその地に根付いたと言える建物ではないでしょうか。

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