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「l’arbre blanc」(ラルブル ブラン)のご紹介
白い木で連想できるものと言えば、高原の白樺(しらかんば、しらかば)林や、湖や池に沈んだ幽玄な水没林など細く華奢な木を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。地中海に近い街に建つ集合住宅も白い木と呼ばれていますが、この白い木は、鮮やかな青空に映える白い巨木です。
「l’arbre blanc」の設計者
日本人の建築家が、フランスの若手建築家や都市計画家などと共同で取り組んだプロジェクトが「l’arbre blanc」です。基本的な案や設計を建築家の藤本壮介(ふじもと そうすけ)が担当しています。彼は、1971年に北海道の北部、旭川市の近郊にある東神楽町で精神科医の父の元に生まれました。東神楽町は旭川空港があることで有名な町です。高等学校卒業までは北海道で暮らしていましたが、進学のために上京して、東京大学で建築を学びました。彼の経歴で一番多く語られるのが、大学を卒業した後の6年間のことではないでしょうか。日本各地に残る「三年寝太郎」と言う民話の主人公のような印象がある6年間です。三年間ぐうたらと寝てばかりいた男がある日突然起き出して人々の為に灌漑を行ったと言う、各地に様々な言い回しが残されている民話です。この話にはモデルとなる人物が居て、彼と似た所があります。特に何もしていなかったと周囲が見ていても、実際には様々な事柄に思いを馳せ、思案を重ねていたことです。彼の6年間は東京の町をぶらぶらと散歩をしたり、世界中の著名な建築家の理念を考察したり、ちょっと変わった志向の建築コンペに応募したりと言った生活を送っていたようです。このような年月を過ごしたことで、今の彼の作品が素晴らしいものとなって世に送り出されていますが、彼は両親の援助があったお陰だと言っています。2000年に行われた青森の建築競技会で2位に輝いたことが、本格的に建築家として活動する起因となって事務所を開設しています。
「l’arbre blanc」の所在地
フランス共和国の地中海側、ほぼ中央に位置するモンペリエの川沿いに「l’arbre blanc」が建てられています。国内でも規模の大きな都市で、地中海側では3番目に大きな街です。モンペリエの名称が初めて歴史に登場したのは10世紀の頃で、2つの集落をまとめて町を作ったことが文書に残されています。海岸から数㎞に位置する為、海賊などの被害も少なかったようですが、城を建て城壁に囲まれた町でした。この街は学園都市として世界にも名高く、特に大学の医学部は世界で一番長い歴史を誇っています。正式には13世紀に設立されたモンペリエ大学は、世界で最古の大学の一つと言われ、医学部と共に法学部も古い歴史のある学部です。医学部の卒業生には多くの著名人が居て、少し変わった所では、預言者として有名なノストラダムスも在籍していたと言われています。また、法学部では、フランス民法の基礎と言われている「ナポレオン法典」の原案にも携わっていました。現在も多くの学生が暮らしていて、街の人口のおよそ3分の1は学生が占めています。他にも、カンヌ映画祭に継ぐ映画祭が20世紀の終わり頃から開催されるようになり、規模の大きなコンサートホールも2つあって、急速に発展している文化都市でもあります。
「l’arbre blanc」の特徴
「l’arbre blanc」は、フランス語で、l’arbre (ラルブル)は木を、blanc(ブラン)は白を表している、名前の通りの白い巨木のように見える建物です。長さの違うバルコニーがあちこちに突き出ている様子が、木の枝のように見えることから、このような名前になっています。建物全体が白い色をしていて、設計者の藤本壮介の作品らしい雰囲気があります。2019年に完成した新しい複合集合住宅で、17階の内1階と2階はレストランやギャラリーがあり、最上階の屋上にはバーが入っていて、他の階は112戸の住宅になっています。平面で見ると、楕円を中心部で少し曲げたような形で、中央部に階段やエレベーターなどの移動手段が設置されています。この建物の一番の特徴であるバルコニーは、建物全体で193カ所あり、1つの住宅に2~3カ所取り付けられています。カンチレバーと呼ばれる橋を掛ける時に行われるような工法が使われています。壁や柱から張り出しているような見た目で、近年の技術向上によって最長7.5mの長さで安定したバルコニーが設置できるようになりました。この長さは現時点で世界最長のバルコニーとなっています。また、鎧戸を横にしたような形の屋根も取り付けられていて、1年の8割が晴天と言うこの街にふりそそぐ地中海沿岸部の強い日差しを遮りながら、風を良く通すようになっています。
「l’arbre blanc」のまとめ
思い思いに突き出たようなバルコニーは、高い建物の住宅にも庭と呼べる屋外の空間を作ることが出来た結果ではないでしょうか。設計者の藤本壮介は、社会に於ける相反するものの境界を曖昧にすることを基本的な理念の一つに挙げているようですが、部屋と言う閉鎖的な空間と屋外の広い空間をまとめたような高層住宅は、都市での生活をより人間的に出来るのではないでしょうか。夜間の照明が灯った「l’arbre blanc」のレズ川に映る姿は、白い巨木を一層美しく見せてくれます。
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