イスビェルゲット(Isbjerget)

「イスビェルゲット」のご紹介

 

北極や南極に近い冷たい海には大小の氷の塊が浮かんでいます。その中でも比較的大きな塊は「氷山」と呼ばれ、危険なこともありますが、移り変わる美しい姿を見せてくれます。白く見える氷の山と周囲の水の色や影の色合いが絶妙なコントラストを浮かび上がらせます。北欧の街の海辺に建設された「イスビェルゲット」は、名前の通り「氷山」の形と色合いを備えた建物です。

「イスビェルゲット」の設計者

 

「イスビェルゲット」は、複数の建築家や建築事務所が共同でデザインや設計を行った企画です。「セブラ」は、2001年にミッケル・フロスト、カーステン・プリムダール、コルジャ・ニールセンの3人の建築家が共同でデンマークのオーフスに開設した建築事務所です。彼らは、人の心を動かし、刺激を与える建築を目指していて、教育や文化に関する施設と住宅建設に重点を置いています。現在はオーフスとアラブ首長国連邦のアブダビに拠点を置き、約50人のスタッフと共にヨーロッパや中東を主体に活動しています。「サーチ」はオランダのアムステルダムに本部がある建築事務所で、2人の建築家によって創設されましたが、現在はビャルネ・マステンブロークが運営しています。彼は、1964年にオランダ西部の町で生まれ、オランダの有名な工科大学で建築を学びました。主にオランダ国内で活躍しています。「ジュリアン・デ・スメット」は、ベルギーの首都ブリュッセルで1975年に生まれ、2006年に自らの建築事務所を開設しています。独立する前は、ヨーロッパの著名な建築家の元で働き、共同で建築事務所を開設していたこともありました。彼の事務所はヨーロッパは元より、南米や中国にもオフィスを構え、世界中で活躍しています。フランスのパリに事務所を置く「ルイ・パイヤール」は、国内のいくつかの学校で建築を学び、2003年に独立しています。彼は、建設の為の土地から発想を得た建物を作り出していて、人を中心とした様々な事柄を実践できる建築を目指しています。

ジュリアン・デ・スメット

「イスビェルゲット」の所在地

 

「イスビェルゲット」はデンマーク王国の都市オーフスに建設されています。オーフスは首都のコペンハーゲンに次ぐ国で2番目に大きな都市で、国の三分の二を構成するユトランド半島で最大の街です。この街は、ユトランド半島の東側に位置し、北海から回り込んだオーフス湾に面しています。遥か昔には北欧で見られるフィヨルドがあったようですが、堆積物によって現在はオーフス川をはじめとする複数の川と街の西にある2つの湖がその痕跡となっています。オーフス湾は陸から至近距離で水深が10mにもなり、天然の良い港となっていたことから、9世紀頃には交易の拠点となる街が築かれ、デンマーク国内でも最古の都市の1つに数えられています。この時代はヴァイキングが活発に活動していた時期で、海賊行為も行っていましたが、積極的に交易も行っていました。街を流れるオーフス川はこの街が発展するために大きな役割を果たしていました。しかし、近代では工業化が進み、人口も増えてきたことから川の汚染が進み、20世紀の初めころに街の中心部を流れる部分は暗渠となりました。20世紀の終わりころには工業地帯の移転が進み、オーフス川を再び通常の河川として復活させることが決まり、近年の気候変動による水害を想定して、水門やポンプシステムも整備されています。

 

「イスビェルゲット」の特徴

 

「イスビェルゲット」とはデンマークの言葉で「氷山」を表す単語で、2013年に完成した集合住宅です。名前の通り、北極海に浮かぶ氷山のような見た目をしています。先の尖った様々な形の建物がたくさん寄り集まっているように見えますが、実際は4つの建物で構成されています。1番港に近い建物が最小で、屋根の部分は三角の頂点のようになっている四角い形をしています。残りの3つの建物は途中で直角になっていて、岸壁から1番遠い建物が最大です。岸壁に近い建物を囲むような位置に2番目の建物があり、順番に囲い込むような位置に次の建物が建てられています。それぞれの建物は複数の頂点がある屋根の形になっている為、たくさんの建物が集うような印象を与えています。このような形になったのは、奥の建物からでも海辺の風景が見られるようにした為で、不規則なように見えて、全ての部屋から海辺の眺望と自然光による採光が得られるように緻密な計算の上で成り立っています。白い外壁と、それぞれの部屋から突き出たバルコニーの壁の青い色が実物の氷山を忠実に再現しています。外壁の白は、大理石や御影石などの天然石を砕いたものと白いセメントを混ぜ合わせて作られたテラゾーと呼ばれる人造石で作られています。バルコニーのガラス壁は下層階が1番濃い青色をしていて、上層階に行くに従って色が薄くなるように青い色のグラデーションを描いています。

「イスビェルゲット」のまとめ

 

「イスビェルゲット」は、オーフスの街の再開発計画の一端を担っています。以前は港湾地域に工場や倉庫が建ち並んでいました。それらの施設が郊外に移転して、新しい街づくりを様々な企業や建築家が手掛けることになりました。複数の建築事務所と建築家が案を出して建設された「イスビェルゲット」は、北極海に浮かぶ浮遊氷山から発想が得られました。デンマークは北極圏には属していませんが、少し北に行けば氷山が浮かぶ海があります。このような地理に位置するオーフスの岸壁に建つ「イスビェルゲット」の姿は、この地にふさわしい建物と言えるのではないでしょうか。

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