「ヘルシンキ現代美術館」のご紹介
建築家にとって、美術館の設計は頭を悩ます案件の一つではないでしょうか。館内に収められる数々の美術品の品位を下げることなく、入れ物としての建物の外観をいかにアピールするかと言う、デザイン性の上で難しい要求を果たすことが求められるでしょう。「ヘルシンキ現代美術館」はシンプルな中に個性が光る美術館です。
「ヘルシンキ現代美術館」の設計者
「ヘルシンキ現代美術館」の設計を担当したアメリカ人のスティーヴン・ホールは、とても個性的な方法で建物の設計をします。まず、依頼の内容を精査して、周りの環境や依頼の要求をスケッチして表現するのです。彼は、毎日最低でも一枚の水彩画を描くことを日課としていると言っています。スケジュールが詰まっているときは、早起きしても絵を描いています。
スティーヴン・ホールは建築家としてだけでなく、水彩画家としても有名ですが、古来より優れた建築物は芸術作品と呼んで良いものも数多くあることからも、彼の作品が芸術性の高いものになっていることが伺えます。現在、彼は世界中で活躍していますが、どこにいてもスケッチすることができるようにしています。優秀なスタッフが周りにいて、中国からアメリカに帰る前にスケッチをオフィスに送り事務所に帰った時には、それを元にスタッフが図面化し、3Dの模型も作り上げている。と、言うエピソードもあります。今世紀に入って、アメリカの有名な雑誌であるタイム誌に「目と心の両方を満たすことのできる最高の建築家」と称賛されています。
「ヘルシンキ現代美術館」の所在地
フィンランド共和国の玄関口と言われる首都ヘルシンキに、この美術館はあります。北欧の国フィンランドの南部、バルト海の奥にあるフィンランド湾に面した街です。バルト海沿岸には古くから数々の国があります。その国々との交易の為に、また、ライバルとされていた現在のエストニアの首都エリンに対抗する為に16世紀にヘルシンキの街が作られました。しかし、都市に発展するまでには長い年月を要しました。中世のヨーロッパにおける様々な要素と混乱に翻弄されて、19世紀になってやっと都市としての様相が表れてきました。緯度が高いわりに気候は穏やかで、中世の佇まいを多く残すこの街はフィンランドを訪れる人々を引き寄せ、にぎやかな様子を見せています。また、半島や入り組んだ湾、多くの小島もあり、複雑な地形を持っている為、豊かな自然も存在しています。「ヘルシンキ現代美術館」のある地域も、中央公園の周辺でトーロと呼ばれる水辺には希少な生物も生息しています。
「ヘルシンキ現代美術館」の特徴
この美術館は「キアズマ」と呼ばれていて、1998年に開館しました。「キアズマ」とは簡単に説明すると交差、または、目が物を見る際の生物学的(視神経)な状態を指します。この名称は、設計者のスティーヴン・ホールがコンペの時に提出した作品のタイトルに使っていました。最終的に彼の作品が選ばれて、出来上がった美術館の愛称としても採用されました。正面から見ると、逆Dの字を細長く引き伸ばしたような形で、直線と曲線をうまく混ぜて使われています。引き延ばされた側面も湾曲していて、館内もその形にあわせてゆるやかなカーブを描いています。
敷地が狭いことが難題でしたが、上下の空間をうまく使うことで克服しています。通路や休憩のスペースに高い吹き抜けを随所に設けていて、外観からは想像できない広さを感じさせることが出来ます。この建物には、美術館としては珍しく、自然の光を採り入れることのできる天窓のようなものがあり、日の光が差す所があちこちで見られます。また、展示ホールは美術館と言うこともあって、白を基調としたシンプルなものとなっていますが、エントランスや階段などには設計者の思いが込められたデザインとなっています。
「ヘルシンキ現代美術館」のまとめ
この美術館は、単に美術品を鑑賞する為だけに作られたわけではありません。市街地にあるこの美術館は、館内にカフェなどもあり市民の憩いの場を提供しています。また、体験コーナーもあり、美術に関する様々なことを実際にやってみることができるようになっていて、子供たちに人気のあるコーナーになっているようです。見るだけでなく、興味をそそり、関心を高める機能を備えた美術館なのです。
余談ですが、斬新な建築物は完成した直後には賛否両論あることは常です。「ヘルシンキ現代美術館」も同じく、完成した頃には市民による「市内で最も醜い家」と言う非公式の投票でトップに選ばれました。とても不名誉な事かもせれませんが、それだけ話題を提供したと言うことではないでしょうか。しかし、市内にある有名大学の建築関係の教授は「評価は後からついてくる」と言っていたようです。
コメントを残す