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「DOX現代美術センターのガリバー」のご紹介
「DOX現代美術センター」は、元々倉庫や工場として建設された建物です。所有者が幾度か変わった後、21世紀に入ってすぐにこの建物を購入した人物が「DOX現代美術センター」の創設者です。100年の歴史ある建物ですが、創設者はこの建物に何かを付け加えたいと考えていました。建物とは対極になるような何かを地元の建築家に依頼しましたが、届けられた案はすぐに承諾されました。しかし、1日で意見が変わって、デザインが変更されました。その結果、美術館に遊び心満載の付属物が付け加えられました。「DOX現代美術センターのガリバー」は大人の子供心をくすぐる構造物です。
「DOX現代美術センターのガリバー」の設計者
「DOX現代美術センターのガリバー」をデザインしたのはチェコの建築家、マーティン・ラジニスです。1944年に当時のチェコスロバキアの首都であるプラハで実業家であり、技師でもあった父の元に生まれました。街の中で育ちましたが、比較的裕福な家庭であったことから田園地帯で過ごす機会もありました。自然の中で過ごした幼いころの体験が、後の彼の建築に対する理念に反映している部分もあります。初等と中等教育を終えた彼は、プラハの工科大学で建築を学び始めました。学生時代には、当時の西ドイツで大聖堂の修復に携わっています。また、当時は政治的にも不安定な時期で、近隣の国とも不穏な時があり、それらに対する抗議活動に参加しています。学業を終えてからの10年間は、チェコの著名な建築家2人が率いる事務所に所属して、経験を積みました。その後、同僚だった人物と共に共同で建築事務所を開き独立しています。建築家として活動を始めたころは、モダニズムやブルータニズム建築と呼ばれるコンクリートの建物を手掛けていましたが、21世紀に入った頃に彼の作品は現在のように自然を基とした物に変わってきました。現在の彼の建築に対する考えは、哲学とも呼べそうな自然を根幹としたものとなっています。
「DOX現代美術センターのガリバー」の所在地
「DOX現代美術センターのガリバー」は中央ヨーロッパの内陸の国、チェコ共和国の首都プラハに建設されています。街の中心を古くから交易に利用されてきたヴルタヴァ川が流れていて、古来より集落が作られて人々が暮らしていました。ヴルタヴァ川はドイツ語でモルダウと言い、チェコの作曲家ベドルジハ・スメタナが作曲した6つの交響詩からなる「わが祖国」で有名な川です。川の名前は「野生の水」と言う意味があって、街の名前のプラハもそれに由来しています。この川は街の中心で大きく蛇行していて、川の流れがゆるやかになることから、その近辺に紀元前から集落が出来て発展してきました。しかし、このように重要な所であったことで、古くから争いの絶えない場所でもありました。多くの民族や様々な権力者の支配を受けてきた歴史があります。その時々の支配者が建設した城や、その時の信仰に基づいた教会や聖堂が残されていて、数多くの尖塔が見えることから「百搭の街」と言う別名があります。このような地形的な利点と、歴史からヨーロッパ文化の中心地の1つとも言われる街なので、多くの劇場やコンサートホールがあり、世界的なコンクールやフェスティバルが開催されています。古い街であることから、この街は京都市と姉妹都市の提携を結んでいます。
「DOX現代美術センターのガリバー」の特徴
石造りの殺風景な建物が「DOX現代美術センター」ですが、屋上に“着陸”した飛行船型の「ガリバー」によって美術館としての外観が1段と上がりました。長さが40m弱で最大の直径が9mの構造物で、2つの建物を歩いて渡るための渡り廊下のような役割と、様々な講演会やイベントが開催できる空間となっています。「ガリバー」は、20世紀の初頭にドイツのツェッペリン社が製造していた飛行船の形をしています。いわゆるツェッペリン型と呼ばれる、飛行船と聞いて誰でもが思い浮かべる形です。2つの建物の屋上にまたがるように設置されていて、片方の建物が低いので、白く塗られた鉄骨の柱で支えられています。わずかに斜めになっている姿が、まるで今にも着陸しそうな、若しくは離陸するような風景に見えます。当初は木材だけで建設する予定でしたが、強風に耐える構造でなければいけないことと、鋼の骨組みを使っても建物が耐えることが判明したので、基本の骨組みは鉄骨が使われています。「ガリバー」は、カラマツを原料とした集成材が使用されています。14個の直径が最大9mの木製リングに50cm間隔で骨組みとなる太い木材が渡され、その隙間を幅が約8cmで厚みが約3cmの板で埋められています。完全に密閉してあるわけではないので、雨が降れば濡れてしまうことから、上部半分は透明な樹脂製の覆いが被せられています。
「DOX現代美術センターのガリバー」のまとめ
飛行船が発明されたのは19世紀の中頃です。現代でも、空を飛びたいと思う気持ちを具現化した形に飛行船が挙げられることはよくあります。「DOX現代美術センター」の上に設置された飛行船の「ガリバー」は、イギリスの作家が書いた「ガリバー旅行記」の主人公の名前です。人々の心にある夢や理想郷を1つの形にしたのがこの飛行船であったことから名付けられましたが、「DOX現代美術センターのガリバー」はいつまでも子供の心を忘れない人の夢を実体化したものと言えるのではないでしょうか。
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