「ダンダジ地域市場」のご紹介
例え住んだことはなくても、祖父母のいる所を古里と感じる人は多いのではないでしょうか。自分の起源がある所に貢献できる機会を得た建築家は、その地の活性化に一役買うことができました。アフリカの小さな村の発展の為に様々な取り組みを行ったのは、村の長を務めていた人物の孫娘です。「ダンダジ地域市場」は、ダンダジ村で行われた色々な企画の中の1つです。
「ダンダジ地域市場」の設計者
「ダンダジ地域市場」を手掛けたのは、ニジェールの建築家であるマリアム・カマラ(マリアム・イフス・カマラ)です。彼女は政治家で鉱山技師でもある父親の元に1979年にフランス南部の街で生まれました。幼少期は首都ニアメで育ちましたが、6歳の頃に家族と共に、以前父親が鉱山技師として働いていたニジェール中央部の都市であるアガデス近郊に移住しました。そこで幼い彼女は父親に連れられ、洞窟に描かれた古代の岩絵や遺跡を見る機会があり、その地域の伝統的な建築に触れたことから、将来は建築家になりたいと考えていたようです。アメリカで学ぶ機会が与えられた彼女は、コンピュータの技師になるための勉強を始め、卒業後の数年間はIT(情報技術)関連の職業に就いていました。しかし、子供の頃の夢が捨てきれず、再び大学に通い、建築を学びました。アメリカでは「ユナイテッド4デザイン」と言う建築事務所を共同設立し、ニジェールに帰国してからは「アトリエ マソミ」を開設しています。ニジェールの発展を主体として活動していますが、アメリカやヨーロッパの大学で教鞭も執っています。彼女の手掛ける企画は公共の建物が多く、伝統的な建築方法や昔から使われている資材を元に持続可能で快適な建築を目指しています。
「ダンダジ地域市場」の所在地
「ダンダジ地域市場」は、西アフリカの内陸にあるニジェール共和国のダンダジ村に作られました。ニジェールはサハラ砂漠の南の縁に沿って広がる、西アフリカのサヘルと呼ばれる地域に含まれる国の1つで、国土の大半が暑く乾燥した気候です。首都のニアメは国の西に位置していて、国名と同じ名称のニジェール川沿いに街が広がっています。この川は国で唯一、年間を通して水の流れる川となっています。国の経済は、地下資源の採掘によって得られる鉱物の輸出によって賄われる部分がおよそ半分となっています。地下資源には石灰や石炭、石膏の他に金属鉱物が採掘されていて、特にウランは世界規模で見る生産量はあまり多くはありませんが、鉱石の質はアフリカで最高品質を誇っています。20世紀末に油田が発見されましたが、本格的な採掘はごく最近になってからで、今後の国の経済発展に貢献できるよう期待されています。「ダンダジ地域市場」が建設されたダンダジ村は首都ニアメから東へおよそ400kmに位置する農村です。国の南部にあることから肥沃な土地があり、古くから農業が行われていますが、収穫量は少なく、ほとんどがこの地域で消費されています。生産量を上げるために、樹木の植樹などによって農地問題の解決が20世紀末ころより行われ、農業方法の改善によって農地改革を図っています。
「ダンダジ地域市場」の特徴
「ダンダジ地域市場」は、週に1度だけ市が開かれていた場所に恒常的な商店のような市場として建設されました。以前は草の屋根と葦と土を混ぜた土壁だけの簡素な市場でしたが、中央に大きな木が生えていることが市場の目印のようになっていました。新しい市場は市場の旗印とも言える、その木を取り囲むように建設されました。建設にあたっては、その地域に伝統的に使われていた建築方法を取り入れ、そのうえで費用がかからず、恒久的に使える方法が考案されました。52のスペースが作られましたが、それぞれの仕切りとしての壁と小さな物置のような建物が作られました。壁と建物は、以前から使用されていた日干しレンガに代わって、圧縮レンガが使われました。加えて、レンガの原料には地元の土と近隣で採掘される石灰を利用したセメントが混ぜられ、強度と劣化に強いレンガに仕上げられています。この市場の最大の魅力は、リサイクルされた金属で作られた日よけの傘です。1つの区画に3枚づつ円形の平たい屋根が日陰を作っています。3枚の円盤は少しづつ高さが変えられ、空気の流れを作り出すように計算されています。日よけと空気の流れによって、気温の高いこの地域で過ごしやすい空間が作り上げられています。また、傘は木の育ちにくいこの地域のために、樹木を思わせる茶色と緑と青味のある緑の色が使用されていて、植物の大きな葉のように見えます。
「ダンダジ地域市場」のまとめ
「ダンダジ地域市場」が作られた村では、最近まで週に1度しか市が開かれていませんでした。2018年に新しい市場が完成してからは、毎日、市が開かれるようになり、この場所は商店街のようになりました。元々この場所に生えていた木の周りは広場のようになって、地域住民の交流の場や、子供たちの遊び場になっています。地域の活性化の為にアイディアを出し、建設したアトリエ マソミは「マリアム・イフス・アーキテクツ」に社名変更しています。
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