コルシカ島の鹿の観測所(Corsican Deer Observatories )

「コルシカ島の鹿の観測所」のご紹介

人の手によって絶滅し、人の手によって再生しようとしている動物が地中海の島に生息しています。その動物を含む動植物を保護する為に制定された公園内に、彼らを見守り、観察するための小さな搭のような建物が作られました。彼らの生活に影響を及ぼさず、的確に観察できる工夫が凝らされた建物が「コルシカ島の鹿の観測所」です。

「コルシカ島の鹿の観測所」の設計者

「コルシカ島の鹿の観測所」を手掛けたのは、コルシカ島に事務所を置く、オルマ・アーキテクチュラです。この建築事務所は2014年に開設された、建築や地域環境などを研究する比較的若い会社です。アリシア・オルシーニとジャン=マチュー・ド・リポウスキー、フランソワ・トラモーニ、ミシェル・ド・ロッカ・セラの4人はマルセイユにある高等の建築専門学校で建築を学び、卒業後に生まれ故郷のコルシカ島に共同で事務所を開設しました。彼らは、建築で何ができるかを常に考えています。例えば、新しい事ばかりを取り入れるのではなく、その地域の伝統も重んじて尊重もしています。また、建設される場所の風景や環境、歴史なども考慮し、様々な事柄に配慮した建物を作り出しています。加えて、建築物を作るときの材料にも気を配り、特に事務所を置くコルシカ島に於いては地元で調達できる建材を使い、結果的に地元の産業が活性化できるようにも考えています。彼らは自分たちの建築を「フットプリント(足跡、痕跡)アーキテクチャ」と称しています。それは、地中海沿岸に多く残る古代の建築物があり、それらから想像力と未来への指針を読み取ろうとしていることです。地域に密着した建物を作り、学生時代からの研究を更に成長させ、将来へと繋げようとしています。

「コルシカ島の鹿の観測所」の所在地

「コルシカ島の鹿の観測所」は、地中海で4番目に大きいコルシカ島の中央付近にある、コルテ近郊の自然保護公園内に建設されています。コルシカ島はティレニア海に浮かぶフランス共和国の島で、島の南にはイタリアのサルディーニャ島があります。この島は森林の多い山勝ちの地形で、山岳地帯が多く、最高峰の山は2,700m以上もあります。南北に約180kmあり、島の中央部は2,500m級の山々が4つの山塊を作っています。山々の西側は花崗岩が多く、たくさんの露頭も見られます。東側は片岩に覆われ、島が太古の地殻変動によって形成された事がよくわかります。島のおよそ半分の面積を占める広い範囲が、地域自然公園に指定されるほど自然の豊かな島で、氷河期由来の湖もあります。山岳地帯が多いため、市街地は沿岸地域に集中しているので、手つかずの自然も多く残されています。コルテは、18世紀に十数年だけコルシカ島が1つの国だった時に首都を務めた歴史のある町で、島の歴史と文化の中心とも言われています。その当時に開校した大学は、政治的な影響ですぐに閉校しましたが、20世紀の後半に再びその門を開き、島で唯一の大学として現在は数千人の学生が在籍しています。

「コルシカ島の鹿の観測所」の特徴

「コルシカ島の鹿の観測所」は、コルテ周辺の地域自然公園内に4個所建設されています。4つ共ほぼ同じ条件で建設され、大きさが若干異なっています。主な観測対象の赤鹿に緊張を与えないよう、目立たず静かに見守れるように配慮した建物です。建築資材は地元のふんだんに生えているラリシオ松(クロマツの1種)が使われています。この木材が使われることによって、地域の林業を活発化させようと言う意味合いも含まれています。建設作業も地元の職人が手掛けていて、繊細な作業が行われました。山の表面に表れている花崗岩の露頭に乗せてあるような印象のある観測所で、鹿の視界に違和感を与えないように、木立の木々に擬態したような建物となっています。木材を比較的細い柱に加工して、京都の町屋に見られる格子のような形状に作られています。格子の隙間も不規則にしてあり、人が入って観測できる場所は若干狭くなっていて、内側からは外がよく見えますが、外から人が見えにくいようになっています。1階の観測所でも地面から高い位置に観測窓があるところは、同じ木材で作られた梯子を上って入るようになっています。2階建ての場合は、内側に梯子が設置されています。木立の間の下生えをイメージして、建物の下側は柱が密集して立てられています。周囲の風景に観測所を溶け込ませるために、このような作りになっています。

「コルシカ島の鹿の観測所」のまとめ

コルシカ島には数種類の固有種の動物が生息しています。その中の赤鹿の1種、コルシカアカシカは、食用や角を取るために乱獲され、最後の1頭が密猟者に殺されて、この島では20世紀の終わりに一旦絶滅しています。太古の時代に人の手によって島に連れてこられた鹿が、独自の進化を遂げて固有種となりました。同じ種の鹿が隣のサルディーニャ島にも生息していましたが、それらも絶滅の危機に瀕していました。この事態を憂慮した人々が生息数を増やすための活動を起こし、まず、サルディーニャ島の個体数を増やして、コルシカ島に移住させました。21世紀に入って移住が開始され、コルシカアカシカは徐々にその数を増やしています。「コルシカ島の鹿の観測所」は、その様子を静かに見守ることのできる小さな観測所としての機能を果たしています。

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