ケモスフィア(Chemosphere)

「ケモスフィア」のご紹介

 

完成した当初は、「世界で最もモダンな住宅」と称されていた建物が世界一の映画の街を見下ろす丘の中腹に建っています。まるでSF映画のセットのように見える住宅を依頼したのは、当時はまだ就労している人の少ない職業だった宇宙関係の技術者でした。建設地の土地柄と依頼者の職業をそのまま表しているような外観を持った建物は、「ケモスフィア」と名付けられました。

「ケモスフィア」の設計者

 

「ケモスフィア」の設計を担当したのは、1911年にアメリカの北部にあるスペリオル湖沿岸の町マルケットで生まれたジョン・ロートナー(ジョン・エドワード・ロートナー)です。父親は19世紀末にドイツから移住してきた教師で、画家でインテリアデザイナーの母親の元で幼いころから芸術や建築に触れて育ちました。父親が勤めていた学校で様々なことを学んだ後に、近代建築の巨匠と謳われるアメリカの建築家のフランク・ロイド・ライトの作品に惹かれ、彼が設立した建築の専門学校に通いました。しかし、彼は基本的な製図が苦手だったようです。学業と共にフランク・ロイド・ライトの下で見習いとして働き、建築家としての実力を上げていきました。30歳になる前にロサンゼルスに移り、自らの建築事務所を開設しています。開設当初にフランク・ロイド・ライトからの紹介もあって、彼がロサンゼルスで活躍する基盤が整いました。彼の作品は、当時の建築界を始めとする芸術の分野にあった、「原子時代(または、宇宙時代)」と呼ばれるデザインの住宅で有名になりました。原子時代とは20世紀の中頃に興ったデザイン形式で、分子や原子の構造をデザイン化したもので、宇宙の要素も盛り込まれています。その当時の未来的なデザインが建築やインテリアなどに取り入れられています。住宅を手掛けることが多かったことから、活動はロサンゼルス近郊が多かったようですが、国内では様々な賞も受賞しています。1994年に、83歳で生涯のほとんどを過ごしたロサンゼルスで病気のために亡くなっています。

「ケモスフィア」の所在地

 

「ケモスフィア」は、世界の映画産業の中でも最大の規模を誇る街を見下ろす場所に建設されています。アメリカ合衆国のカルフォルニア州ロサンゼルス中心部から北西に位置する、自然が残された小高い丘の中腹に建設用地がありました。ロサンゼルスはアメリカ国内でもニューヨークに次ぐ大都市で、西海岸では問題なく第一の街です。そのような大都市でも近隣には自然が多く残されている場所もあります。街の西側には東西に約65kmに伸びるサンタ・モニカ山脈があり、その東の端にはフランクリン・キャニオンパークがあります。自然保護も目的としたこの公園には複数の湖があり、多様な動植物が生息しています。植物相は中低木が多く、様々な草花も生い茂っています。動物では、大型のネコ科動物やオオヤマネコをはじめとした肉食獣から、多種の小動物や固有種も多く生息しています。鳥類もワシミミズクや複数種のタカなどの猛禽類が生息していて、渡り鳥も飛来しています。都市から近いことから、自然の中での休日を過ごす人が多く訪れる場所で、ハイキングやサイクリングが楽しめるコースが整備されています。都市近郊であることから、きちんと管理もされていますが、湖があるにも関わらず釣りや遊泳が禁止されているなど、利用する人にも自然を守ることが第一と求められています。

 

「ケモスフィア」の特徴

 

「ケモスフィア」は映画の聖地とも呼ばれるハリウッドに近い丘の中腹に建設されています。丘の斜面の傾斜がおよそ45度と、通常では建物が建設できる場所では無かったにも関わらず、設計者は様々なアイデアと最新の技術を使って、世にも珍しい住宅を作り上げました。1960年に完成した「ケモスフィア」は八角形をした平たい建物で、丘に降り立ったUFOのような見た目をしていると表現されています。斜面に直接建物を作ることはできないので、「ケモスフィア」は太い柱の上に乗せられるような感じになっています。直径6mのコンクリートの基礎の上に、直径が1.5mで高さ約9mのコンクリートの円柱の上に「ケモスフィア」が乗せられています。円柱は建物に貫通していないので、屋内には柱がありません。円柱のほぼ真ん中から8本の鋼鉄製の支柱が伸びて建物の外周を支えています。これは傘をさかさまにしたような見た目になっています。建物には木材が多用されていて、外壁の下部は重ね合わせるように木材の板が使われています。居住空間の外周はガラス窓になっていて、ハリウッドの街並みやお天気の良い日には太平洋も見渡せます。屋根は集成材が使われて少し湾曲した形になって、その上に当時の新素材が使用されています。この素材は、建物を建設するために資金を提供した企業の新製品が試されました。

「ケモスフィア」のまとめ

 

「ケモスフィア」は建設依頼者の名前を採って「マリン・レジデンス」とも呼ばれています。建設費用が足りなくなったことから、スポンサーが募られてガス会社と化学素材を取り扱う会社が名乗り出ました。その会社の名前をヒントにして、日本語に訳すと「化学領域」「化学圏」と言う意味合いで名付けられました。特徴的な見た目の建物なので、元々個人住宅だったにも関わらず、いくつかの映画に使われ、2004年にはロサンゼルスの歴史的に保存するべき建築物に指定されています。

 

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