「カン・リス」のご紹介
存命の間にユネスコの世界遺産に認定された建築物を設計した建築家は、その建物が建設されているときに様々な不都合にあいました。その企画から退き、故郷の国に帰る途中で立ち寄った島は、傷心した彼の心を引きつける何かがあったようです。美しい風景を持つ島に建てた家に彼は愛する妻の名前を付けました。島の風景と文化に溶け込んだ、設計者とその妻にとって居心地の良かった家が「カン・リス」です。
「カン・リス」の設計者
20年間暮らした「カン・リス」を設計したのは、デンマークのコペンハーゲンで1918年に造船技師の元で生を受けたヨーン・ウツソン(ヨーン・オーベルグ・ウツソン)です。彼は、オーストラリアのシドニーオペラハウスを手掛けたことで世界に名を馳せた建築家です。持って生まれた不都合と良い能力があったことから、建築家になれたことは神様からの贈り物だと言っていました。デンマークの王立学校で建築を学び、卒業した年の12月に生涯を共にしたリス・フェンガー(リス・ウツソン)と結婚しています。彼が一躍有名になったのは、オーストラリアの建築物です。1957年にシドニーオペラハウスの建築競技会で当時の有力な建築家達の案を退け、見事優勝しました。その時に初めてオーストラリアを訪れましたが、オペラハウスの建設を監督するために1963年にシドニーへ移住しました。しかし、彼の提案した様々な事柄は時代の先を行くものが多く、政治的な環境も変わったことでオーストラリアを離れることになりました。故郷のデンマークへ帰る途中で立ち寄ったのが、彼が妻と共に晩年を過ごしたマヨルカ島です。その島に彼は2つの自宅を建設し、第一線を退いてからの20年余りをマヨルカ島で暮らしていました。高齢になりデンマークで何度か手術を受けた後、心臓の発作で90歳の人生を終えたのが2008年のことです。
「カン・リス」の所在地
ユーラシア大陸とアフリカ大陸に囲まれた地中海は、いくつかの海域に分けられています。西部に位置する海域はバレアレス海(またはイベリア海)と呼ばれ、スペインに面しています。バレアレス諸島に含まれているマヨルカ島の南東部にある崖の上に「カン・リス」は建設されています。マヨルカ島は、150年近く建設が続いているサグラダファミリアがある、スペインで第2の都市バルセロナから南へおよそ180kmにあり、地中海で7番目に大きな島です。マヨルカの地名は「大きな島」または、「大きい方」と言う意味があります。島の北東にはマヨルカ島より小さいメノルカ島があり、2つの島の大きさを比較して地名が付けられたようです。奈良県とほぼ同じ面積を持つ島で、スペインでは最大の島となっています。島の北西部に山脈がありますが、最高峰でも1,500mに満たない比較的低い山々が連なっています。石灰質の山が多く、複数の鍾乳洞があり、適度な高さの山のハイキングやトレッキングを楽しむ人が訪れます。気候は典型的な地中海性気候で、1年を通して温暖で冬季でも最低気温が氷点下になることはありません。しかし、夏季でも30℃を大きく上回ることもないので、年間を通して過ごしやすくなっています。降水量は少なく乾燥した気候で、年間の晴れの日が300日にも達します。その為この島は「地中海の楽園」とも呼ばれています。
「カン・リス」の特徴
地中海を見下ろす島の崖の上に建設された「カン・リス」は、崖と似た色合いをしていて、景色に溶け込み、そこに建っていることに違和感が無い建物です。1971年に設計者のヨーン・ウツソンが妻と住むために建てた石造りの素朴な雰囲気の家です。敷地が崖と道路の間で狭く、平らではないためにキッチンやリビング、寝室など4つの部屋を別々に建てて、屋根の付いた通路で繋げられています。この家はマヨルカ島で手に入る素材で作られています。外壁や柱はマレス砂岩で作られ、内壁や床は、それより少し緻密で固いサンタニー砂岩が使用されています。サンタニー砂岩は近くの町の古い石造りの家々にも使われていて、伝統のある素材となっています。石材の色は、ピンクから薄い黄色の明るい色合いです。作り付けの棚や椅子、テーブルが随所に置かれていて、それらも同じ砂岩で作られています。これらの調度品は無彩色や落ち着いた色のタイルで装飾されています。木材が使用されている部分もあって、その木材も地元で伐採される「マデラノルテ」と呼ばれる松が使われています。「カン・リス」は、地元の職人と協力しながら、島の伝統的な工法も取り入れています。設計者はシドニーに建てる予定だった自宅のデザインに似た住宅にしていますが、それを元に職人たちと話し合いながら、手を加えたり、訂正したりして建設されました。この家は、複数の著名な建築家によって、「20世紀に建設された住宅の中で最も素晴らしい家の一つ」と賞賛されています。
「カン・リス」のまとめ
マヨルカ島は観光とリゾートの島でもあるので、島の外からもたくさんの人が訪れます。地中海の素晴らしい風景を見ることができて、そばには車も通れる道があり、名高い建築家の建てた家と言うことで、「カン・リス」を見物に来る観光客や建築愛好家がいました。中には無礼な人もいたようで、静かな生活ができないと感じたヨーン・ウツソンは、少し離れた場所に新しい家を建てました。小高い丘に建設された「カン・フェリス」は、彼が一人で手掛けた最後の建物です。
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