「ビルマ病院」のご紹介
ドイツには東南アジアの国、ミャンマーの支援を行っている「プロジェクト ビルマ」と言う非営利の団体があります。寄付金とボランティアによって運営されているこの団体が、沿岸の町に学校を建設したことが「ビルマ病院」の建設に繋がっています。病院建設を切実に感じていた村の村長と数名の住民が、2014年にその学校の開校式が行われた時に、長い距離を小さな漁船で数時間かけて辿り着き、「プロジェクト ビルマ」に直接訴えたことが始まりでした。「ビルマ病院」は、村と近隣に住む人々に安心を与えています。
「ビルマ病院」の設計者
「ビルマ病院」を手掛けたのはドイツの建築事務所、a+rアーキテクテンです。この事務所は「ビルマ病院」が作られたきっかけの学校も関わっています。a+rアーキテクテンは、ドイツ人建築家で、共に大学の教授も務めていた、ゲルト・アッカーマンとヘルムート・ラフが共同で1985年に開設した「アッカーマン+ラフ」と言う建築事務所が元となっています。ゲルト・アッカーマンは、1952年にドイツ南部の都市シュトゥットガルト近郊のヴィンネンデンで生まれ、ドイツ南部の街にある大学で教授を務めています。1953年に生まれたヘルムート・ラフは出身地であるドイツ南部の大都市、シュトゥットガルトの大学で教鞭を執っています。彼らは事務所を開設してから、幾度も設計競技会やコンテストに参加して、多くの賞を勝ち取ってきました。しかし、そのような賞賛に対して彼らは控えめな態度で接していて、誰が見ても彼らの作品であると分かるような、芸術作家が作るような建物は生み出さないと語っています。2010年からはヘルムート・ラフと「アッカーマン+ラフ」に在籍していた3人の建築家が中心となって、社名をa+rアーキテクテンに変更しています。現在は、シュトゥットガルトとテュービンゲンにオフィスを置き、100人以上の従業員と共に、建築の幅広い分野で活動するドイツを代表する建築事務所の1つとなっています。
「ビルマ病院」の所在地
「ビルマ病院」は、東南アジアの国ミャンマー連邦共和国のマギジン村に建設されました。ミャンマーはインドシナ半島の西側に位置していて、インド洋の1部であるベンガル湾とアンダマン海に面し、南北に長い国土を持っています。1948年にイギリスから独立した当時はビルマ連邦と名乗っていましたが、政治形態が変わるたびに正式な国名が変わっていました。1989年にミャンマー連邦共和国に改名されましたが、国の内外で様々な論争があって、国際的にはどちらの国名も使用されています。しかし、ミャンマーもビルマも語源は同じと言われていて、ヒンドゥー教の最高神の1柱であるブラフマーの土地と言う意味を持つ単語が由来とされる説が一般的です。首都は、以前は海に面したヤンゴンでしたが、2006年に内陸のネピドーに移りました。しかし、国で最大の都市は今もヤンゴンです。「ビルマ病院」が建設されたマギジン村は国の南西部で、海に突き出ているエーヤワディ地方に属しています。この地域は、国で最大の川のエーヤワディ川の河口がある場所です。河口は海に注ぐ前に複数の枝分かれした川になっていて、肥沃な土壌のデルタ地帯となっています。そのような地質であることから、国の穀倉地帯となっていて、良質な米の産地です。農業の他には水産業も盛んで、すり身や魚醤などの水産加工品が生産されています。
「ビルマ病院」の特徴
「ビルマ病院」は4年の歳月をかけて建設され、2020年に完成しました。マギジン村と、その周辺の200に及ぶちいさな共同体で暮らす、およそ2万人の人々の健康を保ち、自然災害の際には避難場所として機能するように作られています。この地域は、夏季の熱帯性防雨風雨が頻繁に通り、地震の際の津波の被害にも晒される地域であることから、自然災害時にも安全に過ごせるように、建設場所は海岸から離れた村の小高い所が選ばれました。中心的な建物は中庭が共有の屋外広場となるように作られて、雨よけになるように庇が大きく張り出しています。中庭の周囲は診察室や手術室、病室になっています。頑丈な建物にするために、基本は鉄筋コンクリートで作られていますが、外壁はこの地域の伝統的なレンガ積みの手法が採られています。手術室以外の各部屋には、可動式の鎧戸のような木製の窓が作られています。熱帯のこの地域の室温を下げる事と換気の目的があり、強い直射日光も防げます。天井も高い温度の空気が上部に抜けるように、竹で組まれた物が使用されています。同じ目的で平屋の建物ですが、屋根が高く作られています。これらの仕様によって空気の流れが起きて、エネルギーを使わない空調が実践されています。この建物が完成するまで4年もかかった理由は、この地域に建設業者が無かったことから、住民が大工の指導を受けながら建設にあたった為です。診察を待つ待合室は屋外に作られています。熱帯のこの地域では度々感染症が広がることから、病気の感染を最小限に抑えるために、診察は屋外で待つようになっています。
「ビルマ病院」のまとめ
「ビルマ病院」はまさに手作りの病院で、中庭にある四角く切り取った地面に近くの川から運んできた石が敷き詰められています。この作業のおかげで、雨量の多いときでも、屋根から落ちてくる雨水が速やかに排水できるようになりました。中庭には、大きくなった木が雨よけになるように小さな苗木が植えられています。この小さな木は、「ビルマ病院」と共に地域の未来を支えて行くシンボルとなるのではないでしょうか。
コメントを残す