「アークティック・バス」のご紹介
水上の保養施設と聞けば大抵の人が南国の海辺を想像するのではないでしょうか。北欧の小さな村の周辺には、オリジナリティあふれる小さな宿泊施設が複数建設されていますが、そこに新たな施設が作られました。小枝を一つづつ運んで子孫を残すために鳥たちが作る巣のような形をした円い建物は、川の中に作られた保養施設です。「アークティック・バス」は昔の人々の暮らしと自然の現象に発想を得た建物です。
「アークティック・バス」の設計者
「アークティック・バス」のデザインと設計を担当したのは、スウェーデン人の建築家、ベルティル・ハルストロームとデザイナーのヨハン・カウッピです。ベルティル・ハルストロームは、1948年にスウェーデンのボスニア海側のほぼ中央にあるスンツバルと言う町で生まれました。1987年に独立して会社を立ち上げるまでは、国で第二の都市であるヨーテボリの企業で建築家としての経験を積んでいました。故郷のノルウェー北部のノールランドに帰って立ち上げた会社は大きく成長しましたが、あまりの忙しさに彼は疲れてしまったと言っていました。疲れを癒すために古里の町で丸太で作られた家を購入し、その家で暮らすようになりました。彼は地元で伐採される木材が輸出される事を憂えていて、もっと木材を使った建築物を増やすべきだと考えています。森の近くで暮らし、森の産物であり、優秀な素材でもある木を彼は、こよなく愛しています。近年では田舎でもインターネットを使うことができれば、都市の中で仕事をするのと変わらないか、良い環境であればそれ以上の成果も挙げることができます。そのような事から、田舎の良さに重きを置いた企画をたくさん進めています。ヨハン・カウッピは、スウェーデン南部の都市、マルメに拠点を置くデザイン事務所「カウッピ&カウッピ」の創設者の1人です。ヨーテボリの大学で資格を取得した後に、およそ10年間、国の内外の企業で経験を積み、2016年に事務所を開設しています。彼らの建築デザインは広い分野で評価され、数々の賞を受賞しています。
「アークティック・バス」の所在地
「アークティック・バス」はスウェーデン王国の北部にあるハラズ(ハラッズ)と言う村に建設されました。北極圏に近いこの村は、中世にはすでに集落があり、国で2番目に水量の多いルレ川の左岸に位置しています。ルレ川(ルレールヴェン)は、近代まではボスニア海から川を遡ってくるサケ漁が盛んで、川の流れを利用した近隣の森で伐採される木材の原料となる丸太の運搬も盛んに行われていました。20世紀に入ると、豊かな水量を利用した水力発電を行うための発電所が建設されるようになりました。現在は、ルレ川に建設された10以上の発電所で国の発電量のおよそ1割を担っています。ハラズの村近辺にはルレ川の中に中洲のような島があって、200年前に建設されたいくつかの古い建物が国の歴史的に保護される建物として登録されています。21世紀に入ると、この地の自然の豊かさを知った実業家が新しい概念で保養地として活用することを思いつき、森の隠れ家のようないくつかの宿泊施設を建設しました。近年、社会的に要求されることの多い持続可能なこの宿泊施設の建設には、国の内外の有名な建築家や、新進気鋭の建築家が参加しています。
「アークティック・バス」の特徴
2020年に完成した「アークティック・バス」は、流れる水に浮かぶ、高い樹々の上に小枝を1本づつ運んで子孫を残すために作られる猛禽類の巣のような印象のある円形の保養施設です。直径がおよそ30mの円形の建物の中心には、くり抜かれたような空間があって、中央には水温が約4℃の冷水風呂が作られています。その周囲にはくつろぐためのベンチなどが設置された場所があり、更にその周辺にはいくつかのサウナやマッサージなどが受けられる部屋が取り囲んでいます。これらの施設は、ほとんどが地元で伐採された松から製材された木材が使われています。また、床に使われている石材は、スウェーデン南部のバルト海沿岸で採石される灰色の石灰岩が使用されています。この建物の1番の特徴は外壁に取り付けられた丸太です。思い思いの方向に向いている丸太は、建物が建っているルレ川で昔行われていた木材にするための丸太を流れに乗せて運んでいた風景から設計者が思いついたようです。緩やかな流れの場所は順調に丸太が流れますが、流れが急になると、丸太が様々な方向に向いてしまって詰まったようになっていました。その様子を思い浮かべて設計者がデザインしたのが「アークティック・バス」です。「アークティック・バス」を中心として、上流側と下流側にそれぞれ3棟づつ少人数用の部屋も作られていて、夏季には水の上に浮かび、冬季には氷の上に乗せられた季節によって多様な風景に溶け込む施設となっています。
「アークティック・バス」のまとめ
「アークティック・バス」のアークティックとは英語で北極を表す単語です。「アークティック・バス」のあるハラズは北極圏の間近で、極地でなければ見ることのできない様々な自然現象があります。太陽の沈まない白夜や逆に太陽が出てこない極夜、暗い空に閃くオーロラも見られます。北極圏の厳しい自然の中に建つ「アークティック・バス」は、厳しいながらも脆い一面もある自然を大事にすることの大切さも表現したと言える建物です。
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