「アクアタワー」のご紹介
大都市の中でも自然とのつながりを重要視している建築家がいて、彼女の生み出した建物は自然の大元となる元素と関りを持っています。名前が示す通りに「アクアタワー」は水の流れを思い起こさせるような外観をしています。その見た目は、風の流れと関係していて、建設地の近くで見ることのできる風化した岩石から設計者が発想を得たと言っている建物です。
「アクアタワー」の設計者
「アクアタワー」を手掛けたのは、アメリカのシカゴに拠点を置く、スタジオ ギャングを率いるジャンヌ・ギャングです。彼女は1964年にアメリカ北東部のイリノイ州にある「壁画の町」と呼ばれるベルビディアで生まれました。イリノイ州の大学で建築を学び、更に奨学金を得て、スイスやフランスの学校で景観建築や都市計画、工学などを学びました。学業を終えた彼女は、オランダの著名な建築家、レム・コールハースが運営するOMAに入社して数年間実務経験を重ねました。その後、生まれ故郷に近いシカゴに自らの事務所「スタジオ・ギャング」を開設したのが1997年です。彼女たちは、近年特に注目を浴びるようになった持続可能な建築物を目指していますが、更にその上の目標も持っています。環境に負担をかけないことではなく、環境を回復させる事も考えていて、そのうえで新しい都市の景観を作り出すことを重要視しています。その為、建築設計だけでなく、建物を作るための環境に負荷をかけない素材の研究も行っています。また、建築物を作ったり都市計画を行うためには様々な分野と協力することが不可欠であり、協力して多くの企画を立ち上げています。彼女は、地元のシカゴを中心にアメリカ全土は元より、ヨーロッパやアジアの公共の施設や高層ビルなど、多岐にわたる企画を手掛け、後進のために教鞭を取り各地で講義も行っています。
「アクアタワー」の所在地
「アクアタワー」はアメリカ合衆国の北西部に位置するイリノイ州の都市、シカゴに建設されました。シカゴは摩天楼発祥の地とも言われる都市で、北米五大湖の一つ、ミシガン湖の南西岸に広がっています。街の名前の由来は、先住民の言葉で野生のニンニク若しくはタマネギを表しています。この地域にそれらの植物がたくさん自生していたことから、そう呼ばれていたようです。また、「風の街」や「セカンドシティ」などたくさんのニックネームもあります。19世紀の初めに入植が始まり、当初から地域の中心となるような街が建設されました。1871年に大きな火災が発生し、2日間で街の大半が焼失してしまいました。その復興のために建設されたのが火災に強い鉄筋とコンクリートの建物群です。当時の最新技術が惜しみなく使われ、著名な建築家は元より、若手の建築家も腕を振るう機会がたくさんありました。世界で最も早く高層ビルが建つようになり、25年の間、世界で1番高い建築物だった超高層ビルを始め、多くの高層ビルが建ち並んでいます。「アクアタワー」が建つループ地区はシカゴに77ある地区の1つで、アメリカで第2のビジネス地区となっています。シカゴのミシガン湖沿岸側のほぼ中央に位置していて、以前は内陸輸送の拠点だった鉄道車両の操車場があったことから、ループと言う地名がつけられています。
「アクアタワー」の特徴
2009年に完成した「アクアタワー」は、地上82階、地下5階の小売店や事務所、ホテルなどと住宅が入る複合ビルです。250mの高さがあるこの建物は、設計者が手掛けた初めての高層建築でした。普通よく見る高層建築物は四角い建物が多い中、「アクアタワー」は波紋や水の流れを思い起こさせるような外観をしています。建物本体から不規則に見えるような、張り出している部分が全ての階層に取り付けられています。バルコニーとして機能するこの部分は、最大で約4m外側に突き出しています。無作為に取り付けられているように見えますが、綿密な計算によって風を受け流せるようになっています。高層建築物を建設するうえで風の影響は重要な注意点の1つで、「風の街」とも呼ばれるシカゴでは強い風がよく吹きます。張り出したバルコニーの部分は、建物そのものに支えられる片持ち梁の構造になっていて、形状が均一ではないために建設現場で1枚づつ作られました。同じ形ばかりではないので、現場で比較的容易に形状が変えられる薄い鋼板で型枠を作り、形が変わればその鋼板を変形して次を作る、という方法が考え出されました。バルコニーの厚みは、建物側で厚さが22cmで、外に行くにしたがってわずかに薄くなっています。これは雨水の排水を円滑にするためで、集められた雨水は建物内の様々な場所で使われています。「アクアタワー」は持続可能な建築物として、床材に成長の早い竹を利用したり、建材にも注意を注いでいます。
「アクアタワー」のまとめ
建物を建設するときには多くの廃棄物が排出されますが、「アクアタワー」の建設現場で出た廃棄物の8割以上が再利用や再生資源化されています。建物の名称にもなったように水の流れを意識するような外観の「アクアタワー」ですが、設計者は建設地の近隣で見られる風化した石灰岩の露頭の層になった岩を見てこの形を閃いたと言っています。「アクアタワー」は地と水と風に関連した、自然を意識できる建物と言えるのではないでしょうか。
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