アンティノリ ワイナリー(Antinori Winery)

「アンティノリ ワイナリー」のご紹介

 

限られた面積でいくつかの機能を持たせようとしたときに、三次元的に使われることはよくあります。しかし、どうしても無駄になってしまう面が発生することもあります。イタリアのワイン名産地に建設された建物は、敷地を余すことなく利用して作られました。「アンティノリ ワイナリー」はブドウ畑の下に埋め込まれた建物です。

「アンティノリ ワイナリー」の設計者

 

「アンティノリ ワイナリー」を手掛けたのは、1988年にイタリアのフィレンツェに開設された建築事務所のアーキア・アソシエイツです。この事務所は、当時まだ建築を学んでいた3人の学生が、ある建築設計競技会で優勝を勝ち取ったことから開設されました。ラウラ・アンドレイニとマルコ・カサモンティ、ジョバンニ・ポラッツィの3人はフィレンツェの大学で建築を学び、1990年に卒業しました。ラウラ・アンドレイニは1999年から母校の研究員でもあり、教鞭も執っています。また、彼女は建築雑誌の編集員も努めています。マルコ・カサモンティは優秀な成績で大学を卒業し、ジェノバの大学で博士号を取得しています。2001年からは母校の建築と都市デザインの教授も努めています。彼も国際的な建築専門紙の編集に携わっています。ジョバンニ・ポラッツィはフィレンツェの大学を首席で卒業した後に母校の大学で建築と都市計画の博士号を取得しています。彼らは、イタリアのスタイルと拠点を置く地域の職人技や古くから伝わる本質を見抜く力を大事にしています。彼らの事務所は、多くの著名な建築家と協力したり、都市計画や景観、建物の設計を中心に展示会開催や建築やデザインの本の出版をしたりなど、多岐にわたる活動を行っています。

 

「アンティノリ ワイナリー」の所在地

イタリア共和国の花の都とも呼ばれているフィレンツェ近郊に「アンティノリ ワイナリー」があります。フィレンツェはイタリア半島のティレニア海に面するトスカーナ州の州都で、古代ローマの時代に春の女神を祭った時期に街の建設が始まったことから、フロレンティアと呼ばれていました。これは、花が咲くと言う意味のラテン語のフローレーレが語源と言われていて、街の紋章もアイリスの花を象ったものが使用されています。この街は、ヨーロッパの中世にあたる12世紀から16世紀の中頃まで存在していた都市国家のフィレンツェ共和国の首都で、14世紀頃から花開いたルネサンスの中心地の1つとも言われています。そのような歴史から、現在でも手工芸の職人技が伝承され、宝飾やファッションブランドの本拠地にもなっています。古代に於いては首都の周りを取り囲む城壁も建設されていましたが、市街地の拡大のために19世紀にほとんどが取り壊されて大通りが建設されています。城壁の一部は保存されて、中世に建設された宮殿や聖堂などの建築物と共に、未来へ残すべき歴史地区として1982年にユネスコの世界遺産に登録されました。街は国で2番目に大きな川のアルノ川の両岸に広がっていて、街の郊外にはブドウやオリーブが栽培されている農地が点在しています。特に街の南側の地方では、古くから良質の赤ワイン「キャンティ」が生産されています。

 

「アンティノリ ワイナリー」の特徴

2012年に完成した「アンティノリ ワイナリー」は、ブドウ畑に擬態したような建物です。ブドウ畑がある緩やかな斜面に切り込みを入れて、その奥に建物を作っているような印象があり、屋根の上には、斜面の上から続くブドウ畑がそのまま広がっています。斜面に入れられた切り込みから奥に水平に建物が広がっていて、奥の方は実質的に地下になっています。正面の入り口にあたる所は、広いガラス壁になっているので、遠景での建物の存在はその壁で分かります。また、ガラス壁は屋内に明るさも提供することができて、訪れる人にブドウ畑の風景も提供しています。実際には2階建ての建物で、地下にはこの地域で製造されたイタリア語で焼いた土を表すテラコッタ(素焼きレンガ)で覆われたワインの貯蔵庫が作られています。テラコッタは、適度な温度と湿度を保つための最適な素材となっています。この貯蔵庫はテラコッタの他にワインを保管するための工夫があります。広い空間の温度や湿度を均一にするために天井部分は湾曲した形になっています。また、天井に続く壁も垂直に立ち上がるのではなく、緩やかな曲線を描いています。加えて適度な明るさを保つために、ブドウ畑に続く斜面に開けられた円形の開口部から日の光が差し込むようにもなっています。この円形の開口部や、上下の移動のために設置されている螺旋階段などは、腐食や季節変化に耐性を持たせる為にあらかじめ特殊な錆を浮かせたコルテン鋼が使用されています。コルテン鋼とテラコッタは似た色合いで、ブドウ畑の下の地面と一体化したような雰囲気があります。訪問者のための空間や、オフィスなどの室内にはオーク材が使われていて、自然の温もりを与えられるようになっています。

 

「アンティノリ ワイナリー」のまとめ

ブドウはあまり深くまで根を広げないので、屋根の上でも栽培できるようです。「アンティノリ ワイナリー」のある地域は、伝統のあるワイン造りと高品質のワインを提供しています。そのような場所に建つ、畑の面積を減らすことなく、ワインを作り、貯蔵して、訪れる人をもてなすための空間を確保している「アンティノリ ワイナリー」は、ワイン産地の新しい一面を提供しているのではないでしょうか。

 

 

 

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