バングラデシュ国会議事堂(National Assembly Building of Bangladesh)

「バングラデシュ国会議事堂」のご紹介

 

国会議事堂はその国の未来を決める場所です。国の象徴的な役割を果たす建築物でもあり、様々な意味合いを込めて建設されることが多いのではないでしょうか。南アジアの国に建設された議事堂は、国の近代に於ける歴史を具現化した意匠が施されています。「バングラデシュ国会議事堂」は、静かな水辺に佇む姿が美しい建物です。

「バングラデシュ国会議事堂」の設計者

 

「バングラデシュ国会議事堂」の設計とデザインを担当したのは、アメリカ国籍を持つエストニア生まれの建築家、ルイス・カーン(ルイス・イザドア・カーン)です。彼は、1901年に当時はロシア帝国のエストニア地方に含まれていた、バルト海に浮かぶサーレマー島で生まれました。ユダヤ人の両親の元に生まれた時の彼の名前は、イツェ・ライブ・シュムイロフスキーでしたが、アメリカ国籍を取得した時に父親が家族の名前を改名しています。幼い頃に父親が戦争で招集されることを不安に思い、家族でアメリカに移住しました。数年後にアメリカの国籍を取得して、翌年に家族は改名しています。貧しい家庭で育った彼は、筆記用具が買えなかったので、燃やした小枝を炭にして絵を描き、わずかな収入を得ていたと言う逸話があります。また、当時は無声だった映画の伴奏を鍵盤楽器で演奏して生計の1部を担っていました。芸術に才能があった彼を支援する申し出がありましたが、建築の道に進みたかった彼は、色々な仕事を掛け持ちして学費を作り、大学へ通いました。大学では、フランス人の建築家の元で学び、卒業後は建築事務所で製図工として働き始めました。しかし、世界恐慌のあおりで事務所が閉鎖になり、その後に就職した事務所も仕事が極端に減るようになりました。暫くは無職同然でしたが、1935年に自らの建築事務所を開設しています。彼の作品は過度な装飾を施さない簡素な印象のものが多く、モダニズムの1つに含まれるブルータニズム建築を得意としていました。最後の巨匠とも謳われた彼は、1974年に心臓発作のため73歳で人生の幕を下ろしています。

「バングラデシュ国会議事堂」の所在地

 

「バングラデシュ国会議事堂」は、南アジアの国、バングラデシュ人民共和国の首都であるダッカに建設されています。バングラデシュは独立国家となってから、半世紀をやっと過ぎた国で、世界で最も人口密度の高い国となっています。国の南側はインド洋の1部であるベンガル湾に面していますが、陸地はインドに囲まれています。インド亜大陸がイギリスの植民地だった時代からインドが独立した時に、宗教の違いからパキスタンに組み込まれ、インドを挟んで東に位置するため、東パキスタンと呼ばれていました。国土は平坦で、南アジアで最大規模の2つの川が流れています。西からはヒマラヤを源流とするガンジス川が流れ、北からはプラマプトラ川が流れています。2つの川はダッカの西で合流して1つの川になり、ベンガル湾の手前で大規模なデルタ地帯を作り出しています。ベンガルデルタは肥沃な土地がたくさんあり、農地にできる耕作可能地の割合は世界1となっています。しかし、洪水や、沿岸部では高潮の被害を受けることがしばしばあります。首都のダッカは7世紀頃には都市機能を持つ街でした。当時は仏教の影響が強かった街ですが、権力者が変わるたびにヒンドゥー教やイスラム教が支配的になることがありました。加えて、多様な民族の人々が暮らすことで様々な文化が入り交じり、独特の文化を育んでいます。

 

「バングラデシュ国会議事堂」の特徴

 

「バングラデシュ国会議事堂」は、東パキスタンだった頃に建設が開始されました。国の独立や政治形態の変更など政治的に様々な出来事があったことから、完成までにおよそ20年を要しました。中央の建物はコンクリート製で、中心に8角形の筒状になった会議場があり、その周辺を4つの円筒形と4つの立方体の形をした建物が取り囲んでいます。会議場の建物は高さがおよそ45mあり、天井には円形の半透明な天窓が取り付けられています。周囲の建物の高さは約33mで、それぞれ違う役割のある建物ですが、階段や螺旋通路などで行き来できるようになっています。3方を豊かな恵みを運ぶ2つの川を象徴する人工湖に囲まれていて、水に映る姿は一見の価値があります。設計者の建築理念に沿ってデザインされていて、この国の伝統と古くから培われてきた文化が反映されています。外壁に三角形と円形の切り込みがありますが、これは月と星を表していて、建設開始時の東パキスタンの国旗に記されている意匠が取り入れられています。また、設計者は屋内に自然光を取り入れることを重要視していて、外壁に開けられた円や三角の開口部から光が入るようになっています。人工照明もありますが、日中は自然光を妨げないようになっています。中央の建物の南側にはサウスプラザと呼ばれる建物群があり、議事堂を運営するための様々な施設が備えられています。この建物群も議事堂と同じような円や半円の切り込みが建物の側面に作られています。

 

「バングラデシュ国会議事堂」のまとめ

 

「バングラデシュ国会議事堂」を手掛けた設計者は、数々の栄誉を受けていますが、不運なこともたくさんありました。そんな彼の人生を、彼の息子が建築家としての父の偉業と家族のつながりを映像に納めています。「マイ・アーキテクト」と題されたその映画には、彼の残した多くの作品が紹介されていて、数少ないアメリカ以外の作品として「バングラデシュ国会議事堂」が大々的に紹介されています。この作品は完成当時のアカデミー賞ににノミネートされています。

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